5:社長♂×保育士♀(前編)
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今回は、桜華さんの上司である社長さん。
ゲストであの人もでてきますよ~(ある意味でないほうがよかったかも??ww)
まともに話をするのは何年ぶりだったのだろう。
久しぶりに聞いたあなたの声は、相変らず低音の綺麗でした。
耳元で囁かれるかすかな笑い声
私はくすぐったくて、でも胸は高まって私が恋に落ちるには十分でした。
なのに、あの頃の私はまだ子どもだった。
今なら、ちゃんとあなたを受けとめることができるだろう。
でも、もうあの頃から10年の年月が経ってしまった・・・
私は今でもあなたのことを・・・
「アポはおとりですか?」
受付にいくなり薄っぺらい営業スマイルの受付嬢たちに不振な目で見られた。
「はい。日向が来たと伝えていただければわかると思います。」
なんだか、受付嬢の言い方にとげがある気がした。
でもちゃんと昨日連絡してこの時間にって約束した。
だから不振がられる理由なんてない。
「申し訳ございませんが、西村はただいま外出中でして、私くしどもは何もお伺いしておりませんので、お引取りください。」
・・・はっ?
そんなこと言われても約束したのは事実。
かといってそう反論したところできっとあの人たちは信じてくれないだろう。
見るからに勝ち誇った顔。
ムカつく・・・
仕事中だろうと思うが仕方がない電話をしよう。
昨日、連絡した際にもしもの時の為に携帯番号を聞いていた。
できればかけたりしたくなかったのだが・・・
「わかりました。」
私はそれだけをいい受付から離れ携帯を手にした。
「私に来客はいなかったか?」
通話ボタンを押そうとした時、後ろで知っている声がした。
「社長っ!!おかえりなさいませ。いえ、特には・・・」
受付嬢たちの答えに私はびっくりし、彼を見た。
確かに、約束した彼だ。
彼は見るからに不機嫌そうに眉をひそめている。
私は機嫌が悪いのかと声を掛けそびれてただ何年かぶりに会う彼を見つめていた。
その時、私の視線に気が付いたのかこっちを見た。
そして早足で近づいてきた。
「蘭?」
目の前に来た彼は名前を呼んだ。
「はい・・」
不意に名前を呼ばれ、私は気の抜けた返事をしてしまった。
「クスッ久しぶり。大きくなったね。」
そう言い手を差し出された。
「大きくって・・・私もう、27ですよ?」
そうだったな。とクスクス笑いが止まない彼
彼の手をとり傍に立つ形になった私
子どもの様に頭を撫でる彼
「社長、そのようなことは部屋に行ってからにしてください。」
いつの間にか隣に一人の女性が立ち咳払いをしていた。
「あっ、悪い。」
どうやら無意識だったらしく本人も驚いている。
私はというと昔に戻ったみたいでその行為をすんなり受けとめていた。
「じゃ、蘭 いこ・・・どこかに電話するのか?」
彼は手にある携帯を見て言った。
「いえ・・さ・・西村さんにかけようとしてただけです。」
私は慌てて携帯をバッグに入れ言った。
「智でいいよ。電話じゃなくて受付に言えばよかったのに」
私はなんと言えばいいのかわからず黙っていた。
「・・・辛川」
何かを察知したかのように、隣の女性の名前を呼んだ。
女性もすぐに理解したかのように
「あとで、人事に連絡します。まずはお客さまをお通しましょう。」
私にニッコリ微笑みエレベーターまで案内してくれた。
「園児たちの半数の親はここで働いているんです。いかがでしょうか?」
社長室に付き、さっそく私は訪問の目的を話した。
私は母が園長をしている保育園で働いている。
智さんともそこで会った。
娘であるカンナちゃんが通っていたから。
当時、私は自習生としてバイトをしていた。
今は、資格も取り正式に保育士として働いている。
今度、園の取り組みで園児たちに親の仕事の様子を見てもらおうと決まり私はここにいるのだ。
「いい考えじゃないですか?親である社員たちは、頑張るだろうし。これから子どもを持つであろう社員たちにもいい刺激になると思いますが?」
お茶を持ってきてくれた辛川さんが言った。
「お前の為にもなるだろうな」
智さんの言葉に真っ赤になる辛川さん
「そっくりそのままお返しします。」
淡々と言う智さんに負けじと言い返す辛川さん
「お前のだけで十分だろ」
クスクス笑っている社長
私はその場で二人のやりとりをただ見つめていた。
胸の中に渦巻く不安に気付かないフリをして・・・
「蘭、園長に話を進めるように伝えてくれ。詳しいことは、そっちで考えていい。ただし、この件を任せる秘書の辛川が最終的にOKを出すこと」
さっきまでの楽しそうな表情はなくなっており、社長としての顔なんだろうか無表情になっていた。
「わかりました。では、詳細が決まり次第 連絡をいれます。えっと、辛川さん 日向 蘭といいます。よろしくお願いします。」
私は、軽く自己紹介をし、手を差し出した。
「辛川 桜華です。こちらこそ、よろしくお願いしますね。子どものことなんて私にさっぱりわからないから」
と苦笑いをする彼女。
綺麗な人。第一印象はそれだった。
そして、彼のことをきちんと理解しているだろう。
「おい、辛川 あいつも使っていいぞ?今、学校や休みだろ?」
智さんが、いきなり言い出だした。
誰のことだろう・・・
「・・なにを言ってるの?カンナはもうすぐ受験なのよ?志望校のランクを上げたのだってあなたがなにも言わなかったら・・・」
辛川さんは、誰のことかすぐにわかった様子だった。
「冗談だ。カンナがレベルを上げたのは確かに俺のせいかもしれないが、お前だってそうしてほしかったのだろう?」
智さんがそういうと辛川さんは、黙りこんでしまった。
どうやらこの女性は、娘のカンナちゃんともかなり親しい様子・・・
心の中がモヤモヤする。
「あの・・・私 失礼しますね。」
その場にいることが無意味な気がして私は智さんたちから立ち去った。
あの二人は、付き合っている?
直感的にそう思った。
もう、あれから10年も月日は流れている彼が新しい恋を見つけていてもおかしくない。
10年前、私たちは、付き合っていた。
私は17歳、彼は25歳・・・
でも、すぐに別れはやってきたのだ。
彼の異常だと思うほどの束縛が嫌になって・・・
今考えると彼の行動は以上でもなんでもなかった。
ただ、まだ子どもだった私のことを心配してからのこと。
そして、私たちが知り合う前に別れた奥様との離婚原因・・・
元奥さんは、どこかのご令嬢だったらしい。
聞いた話なので詳しくはわからない。
当時 本人に聞いてしまいたい気持ちもあった。
でも、聞けなかった仮にも彼が愛して結婚までした女性のことなんて・・・
今では、聞いていたほうが良かったのかもしれない。
そう思っているが、終わってしまったことを言っても仕方がない。
別れた後に聞いた、離婚原因。
それは、彼女の浮気だったとのこと。
しかもただの浮気ではない・・・
親にいわれるまま仕方なく智さんと付き合っていた彼女
そして、結婚・出産
その間、ずっと彼女は智さんを裏切っていた。
相手は、一人ではなかった何人もいたらしい。
そのことが、智さんにばれても彼女は動じなかったようだ。
逆に、子どもをあげたからもういいでしょう?
それが彼女の最後の言葉と聞いている。
あの時、彼はきっと女性を信じられなくなっていたのだろう。
なのに、私と付き合ってくれた。
なのに、私は彼を受け止めることはできなかった。
もう、なにもかも手遅れなんだ・・・
「これで問題はないと思います。この日付ですと、社長が立ち合い出来ないので そこだけは確認させていただきます。」
辛川さんは、そう言い携帯を取り出した。アレからすぐに園長である母親に話をし、企画書を作ってもらい、智さんの会社の会議室で二人で打ち合わせをしていた。
「わかりました。調整いたします。」
最後にそう言い電話を切り私を見た。
「社長も立ち合うそうです。この日付でいいとのことです。」
少しため息交じりで、辛川さんが言った。
「あの・・・何か問題でも?」
私は、彼女のため息が気になった。
「あっ、違います。ちょっと社長のわがままに呆れているだけです。」
気にしないでください。と彼女は微笑んだ。
「智さんがわがまま??」
辛川さんの言葉に私はきょとんっとしてしまった。
彼のわがままなんて想像がつかない。
付き合っているときでさえ、そんな素振りを見せることなく大人っぽく決めていた彼
「以前は、わがままなんていわなかったわよ?」
その言葉にはっと顔を上げ彼女を見た。
目の前で微笑んでいる彼女
何もかも知っているような表情・・・
「ここ最近なのよ?彼が、やっと自分を出し始めたのは。それまでは、相手のことばかり気にして自分を押さえつけて。って いっても私が会社に入る前は知らないけど。それを知っているのは、あなたじゃないかしら?もちろん仕事に関しては、あいかわらず鬼だけどね。」
この人は知っている 私と智さんのことを・・・
「あなたがしっている智さんはどんな人だった?」
固まってしまっている私に容赦なく聞いてくる彼女
聞き流せばいい。
そう思っているのに、彼女の表情を見ていると話したくなってくる。
「あの人は、とても大人で 私のわがままを何でも聞いてくれた優しい人。でも、自分の意見は持っていたわ・・・自分の信念は突き通していた。だから 私たちは・・・」
たしか 何度彼に言っても、束縛に関することだけは聞き入れてくれなかった。
だから、私は彼にさよならをした。
私の気持ちを考えてなんかいないといって・・・
「よく考えてほしいの。なぜ、彼が自分の信念を突き通さなくなったかを・・・あなたなら知っているはずよ。私からのお願いは、中途半端なまま彼に近づかないでほしいということ。意味わかりますよね?」
彼女は、そういいテーブルの上の書類を片付けて席を離れていった。
私は、そこから動くことが出来なかった・・・
彼女の話からすると智さんが自分を抑えるようになったのは私と別れてから・・・
もしかして、私の言葉のせい!?
しばらくすると、会議室のドアが開いた。
またまた続きます。