後輩♀×先輩♂ (後編)
「・・・Bar?ここに何の用よ?」
柚子に有無を言わさずつれてこられたお店。
Bar lune×mois(リュヌ×ムワ)
「ここ、先輩がだいたいいるって。一緒についていこうか?」
心配そうな柚子の言葉に私は首を振った。
「なにかあったらすぐに連絡して。」
柚子はそう残し、やってきた道を戻っていった。
お店の出入口でふぅーと一息吐き気持ちを落ち着けた。
こうも時間が空いてしまうと怯みそうになる。
でも、そうも言ってられない。
ここで怯んだらもう元に戻れなくなっちゃう。「いらっしゃいませ。」
店内に入るとぎらぎらしたライトに目を奪われた。
キョロキョロと辺りを見回し先輩の姿を探した。
「あら、こんな所で何しているの?」
はっと声をかけられ私は後ろを振り返った。
あれっ?
声の主を見てきょとんっとしてしまった。
どこかで聞いたことのある声だと思ったが、まったく知らない綺麗な女性が立っていた。
「どうかした?」
彼女の顔を見たまま立ちすくんでいると、顔に掛かった髪を耳に掛けながら顔を覗き込んできた。
「・・い、いえ、気にしないでください。」
自分がこことは不釣り合いな気がして逃げ出したくなった。
「りん、タバコを返せ・・・お前こんな所に、何の用だ?」
カウンターの方から、一人の男の人がやってきた。
私の姿を確認するなり、眉を潜め怪訝そうな顔をした。
「・・・先輩が学校で逃げるから、こんな所にやってきたんです。」
先輩の言葉にムカつきながらも平静を装うようにゆっくりと先輩の目を見て言った。
「はぁ・・・誰が逃げてるって?ふざけんな。だいたい、俺はもうお前には用はない。さっさと俺の前から消えろ」
・・・消えろ。
その言葉が頭の中でコダマしている・・・
それでも、私は絶対に屈したりしない。
キッっと先輩を思いっきり睨み付け口を開いた。
「消える前に言わせていただきます。先輩には用はないかも知れないけど、私にはあるので。」
店の出入り口に突っ立ていたので私は先輩の腕を引っ張ってカウンターの奥へと向かった。
無理やりのつもりがどうやら先輩は話を聞いてくれるらしく大人しくついてきてくれた。
でも、このときの私は怒りに任せていたのでまったく気がつかなかった。
そして、店に入る時みたいに一呼吸し先輩を再び睨み付けた。「人の中に土足で勝手に入り込んできて、荒らすだけ荒らして消えようたってそうはいかないんだから!!
絶対に、あんたなんかと別れてあげないんだから!!」
先輩の胸に人差し指を突き付け言ってやった。と、フンッと鼻を鳴らす私。
目の前には、呆気に取られている先輩がいた。
なんだか、とってもいい気味と思ったら、笑みがこぼれてきそうになった。
「・・ひょっとして、俺のこと好きなのか・・・?」
いきなり、ケロリッといった言葉に今度は私が呆気にとられてしまった。
「・・・自信過剰も大概にしたら?」
何かを言わなきゃ・・・そう思ってやっと出た言葉だった。
それでも、先輩は嬉しそうにニコニコとしていた。「・・・そうよ、好きよ。
だから、絶対に別れてあげないわよ。」
もう自棄だ。とばかりに店内中に聞こえてしまうのではないかと思うほど大声で叫んでしまった。
店内がシーンッとして、私はいたたまれなくなりその場を逃げようと踵を返した。
「別れるつもりなんてないけど?」
後ろから聞こえた思いがけない言葉に私は立ち止まり思いっきり振り返り先輩を見た。
「昨日、何があったかは岡崎に聞いた。でもな、俺のこと信じてない奴に何を言っても一緒だろうが!」
少しずつ私との距離を縮める先輩。
そして、私の顔に手が伸びてきた。「・・いたっ
なにふぅんれすが・・・(何、するんですか)」
両手を伸ばし、私の両頬を思いっきり引っ張る先輩
「いいか、よく聞け。俺には、あいつらが言うような女はいない。彼女もお前だけだ!!」
頬を抓ったままそういいきった先輩
「特定のはね♪」
先輩の言葉が嬉しくて涙が溢れてきた・・・のに、その一言で止まった。
「先輩?」
疑惑の眼差しを先輩に投げかけた。
「りん、てめぇーは黙っとけ!もう、大分前に止めただろうが」
私の耳を両手で塞ぎ目の前のさっき声をかけてきた女性に噛み付くように言った。
それでも、事実は事実なのね・・・
そして、言い訳はしないわけね。
まぁ、別にいいけど。
「あ~ら、本当のことを言ってなにが悪いの?止めたのだって、気になる子が出来たからでしょう?」
こことぞばかりに先輩をからかうように楽しそうに言っている女性。
もしかして、あの人たちがいっていたのはこの人ではないだろうか・・・
二人のやり取りを尻目に私は黙り込み思いふけた。
「・・・菜花?どうかしたか?」
女性とのやり取りが終わったのか私が黙っているのが気になったのか顔を覗き込んできた。
「その人は?」
先輩の顔を見た途端、勝手に言葉が出ていた。
「あっ、そうね。こうしたら、わかるかしら?」
女性はそういい、髪を後ろにねじ込み色の薄いサングラスを先輩から奪いかけた。
「あ゛っー・・・もが・・「はい、スットプ。これ以上、お店で叫ばないでね。」
どこから現れたのか後ろからいきなり口を塞がれた。
む・・・邑井・せん・・せい・・・
目の前にいる綺麗な女性は先生!!!
「おいこら、そのきたねぇー手を離せ。」
私から、その手を払いのけ腕の中に閉じ込めた。
「こんにちは。爽の兄で、颯です。」
ニッコリと微笑むバーテン姿のお兄さん。
「・・あっ、学校一の問題児の・・」
確か、柚子がそう言っていた。
「ぷっ・・・だってよ、颯くん。」
おかしそうに噴出した先生。
「ざまーねえな、兄貴」
先輩までもが一緒に笑い出し、私はつい言ってしまったのだ。
「笑ってますけど、現在の学校一の問題児は先輩らしいですよ。」
・・・あっ。
先輩の顔が必要以上に笑顔になった。
「ほう。それはそれは・・・・じゃぁ、問題児らしく彼女をお仕置きするとしますかね。」
しまった・・・と気がつい時にはすでに遅く先輩に腕から逃げることは出来なかった・・・・
「ところで、先輩。私のこと好きですか?」
先輩から一通り虐められた後、お兄さんにソフトドリンクをもらい口をつけながら先輩に聞いた。
さっき、先生が言っていた気になる子って私かな・・・とちょっと自惚れてみたくなった。
にこぉーと先輩が笑い。
私も釣られて微笑んだ。
「さぁな。」
ニヤニヤと意地悪そうに笑う先輩
・・・やっぱり、先輩なんか大っ嫌いだ!!
そう思ったが、口に出すのは止めておいた。
また、虐められたらイヤだし・・・
「この、似たもの兄弟めっ!」
私たちを見て先生はそう呟いていたことを私は知らなかった。