ゆき かぜ ふぶき
一気に書けました。とっても稚拙ですが、良かったら…
急に雪が降り出した。あらゆる方向から吹く風が雪の1粒1粒を取り合っている。コンビニのレジの前にできた行列の最後尾に並びながら、彼はふとそんなことを思った。コンビニのガラス窓から見えるその雪は、積もる気配がなかった。「お客様…」困った風な店員の声に、彼は我に帰る。気付くと列の最後尾にいた彼は最前列にいた。慌てて抱えていた昼食用のパンとお茶を店員へ渡し、左手に握り締めていた500円玉で精算を済ませた。雪はまだ降っている。彼は立ち読みでもして雪が止むのを待ってから家に帰ろうかとも考えたが、とくに読みたいものが思い当たらなかったため、そのまま外へ出た。
幸いにも彼の住まいはそこから歩いて5分もかからないところにあった。ダッフルコートの袖で手を覆い、俯きながら歩く。歩きながら、自分の歩く方向を白でぼかし曖昧にする邪魔くさい雪が、その1粒に着目してしまえば地面に着地する時には色をなくしていまう様子を観察した。人気のない道で、前を歩いていた女子高生を一人抜かして、そのまま歩いた。
家まであと30歩という住宅街のど真ん中で、先刻追い越した女子高生が今度は彼を追い抜かした。すれ違う瞬間の、色白の眼鏡をかけた横顔が彼の脳裏に焼き付く。身長は150cm後半ほどだろうか。コートを着ていて、どんな制服を着ているのか、はっきりとはわからなかった。黒髪、白い顔、黒いコート、黒いタイツ…。彼女は早歩きで、彼との差を広げていく。不思議に思った彼は、彼女の後をつけてみることにした。風はコンビニを出るときより強まっていて、コンビニで服に染み込んだ暖はすっかり無くなっていた。それでも帰宅して何もすることはなく、せっかくの休日を虚しさで死にたくなるようなものにしたくはないという思い、願いからだろうか、彼の行動はその1つに収束していった。
彼の住むアパートの目の前を通りすぎ、前を向いて歩く。彼は小さくなった彼女の姿を見つめ歩くうちに、走って距離を詰めたい衝動に駆られた。決して気づかれてはいけないという緊張が彼の興奮を助長する。彼女はどうして俺をわざわざ追い越したのだろう?俺より風下にいるのが苦痛だったのか?俺に好意を抱いたのか?それともこの吹雪の中、はやく家に帰りたかったのか?そういった彼のたくさんの思考の糸が、脳の中で、彼女と繋がりたいという欲求の1本に束ねられた。この脈を打ち続ける熱を持った心臓を彼女のタイツを破りむき出しになった太ももと捏ね合わせたいと彼は思った。彼は走りかけた。その時、彼のコートのポケットに閉まっていた携帯が激しく振動した。それと同時に、彼は全身が凍ったように感じた。それは外気による冷たさが為したことではなく、今の自分が誰かに観察されているのではないかという恐怖によるものであった。急いで携帯を開くと、緊急地震警報が届いていた。音は鳴らない。隣の隣の県の、震度5を知らせるものであった。それを知っても尚、彼の身体は暖まらなかった。どれほどの間その場で立ちすくんでいたのか彼にはわからなかったが、正気づいた時には小さかった彼女の姿が、もうほとんど、一つの点に成りつつあった。やがて彼女と彼女を取り巻く景色の区別がつかなくなるのを見届け、あるいは彼女の色がなくなるまで見続けて、来た道をなぞる様に俯きながら歩いた。
そして、歩き始めた頃、雪は降っていなかった。