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DESTINY

少年、罪悪感などあるわけもなく、時折残酷に

作者: 把 多摩子

メアリ・・・見習い魔法使いです

ダイキ・・・数ヶ月前に魔王を倒した勇者の一人です

セーラ・・・メアリの保護者的存在の神官です

エーア・・・メアリの姉です

トモハル・・・勇者の一人です

ミノル・・・勇者の一人です

「はい。お誕生日、おめでとう。早いけど」

「あ。ありがとう……。わ、悪いね! 年下君にもらっちゃってさっ」


 吐く息白い、寒空の下。雪が滅多に降る事はない国であるが、どういうわけか昨年末から時折、雪がちらついていた。

 異常気象である。

 今にして思えば、それは”予兆”だったのだ。……惑星が、大気が、人々が悲しみに明け暮れる前の。


 ボルジア王宮内にて、普段通り宮廷魔導師として新魔法の開発研究に取り組んでいたメアリ。

 と、いうと大袈裟だが彼女はまだ、雛である。姉のエーアの指導の下、見習いとして参加しているだけだった。不慣れながらも、未来を担う一員であると意識して懸命に励んでいた。

 そんな中知らせを受け、研究室から出て来てみれば来訪者に目を丸くする。

 誰しもが無視できない人物・勇者ダイキが立っていた。数ヶ月前に魔王を倒し、世界に一時の安息をもたらした勇者の一人である。

 メアリよりも三つ年下の少年だが、身長はダイキが勝っているので同年代の錯覚を起こしていた。同年代、というよりも、年上の男のような。細長いわけではない、身体つきもしっかりしているので妙にそこに色気を感じる。まぁ、勇者だから当然か。

 少年というより、メアリにとっては”男”だった。

 突然の来訪に、微かに胸を弾ませて手を振ったメアリ。ダイキは軽く会釈をする。そのまま、何かを差し出してきた。掌に乗る、小さな箱である。

 メアリが受け取ったものは、プレゼントだ。直様思い当たる事があった、もうすぐ誕生日なのである。驚いてそれを見つめると、ダイキは照れくさそうに横を向いている。

 心が、きゅーん、とした。

 純白の雪の世界、無口な少年と、二人きり。

 見慣れない包装紙は異界のものだろう、メアリは胸を弾ませて手を震わせながら包みを開いた。


「わぁ、綺麗! ありがとう」

 

 木製の、ピアスが出てきた。

 少なくとも、メアリには見たことがないデザインで、大き目の雫型のそれは淡く光り輝いているようにも見える。地球という惑星の物であることなど、容易に理解出来た。


「いや、別に。女の子にプレゼントなんてしたことがないから……その、それでよかったのかどうか」

「とってもいいよ! なかなか、センスあるんだねダイキ。ありがとう、さっそくつけるよ」


 照れ隠しで声が大きくなる、プレゼントなんてしたことがない、ということは自分が初めてだということだ。

 勇者ダイキが初めて女の子にプレゼントを渡した、それが自分だなんて!

 それが嬉しくて、ついつい過剰に行動してしまう。仄かに震える声、熱くなる頬、手にも動揺が走る。


「ふふ、どーう?」

「うん、いいと思う」

「あっりがとー! き、気遣ってもらって悪かったね。年下なのにさ」


 トレードマークのポニーテールを摘み上げて、メアリは笑った。

 年下、を強調したのは年上ぶって、うろたえている自分を隠す為である。口ごもらない様に必死に――落ち着け心――と何度も言い聞かせた。


「気にしなくて良いよ。トモハルがさ、仲間だし女の子だから何かあげたほうがいいって。だから買ってみたんだ」

「トモハルが? ……流石あの子は気遣いが細かいよね」


 若干、心が沈んだ。

 人に言われて、買ってきたものだと知ったからだ。貰えて嬉しい筈なのに、人とは非常に不思議なものでそれだけのことで……気落ちする。

 ダイキが思いつき、”メアリを思って”買ったものではない……。それだけなのに。知らなければよかった。


「まぁ、ついでもあったし。そんなに喜んで貰える物じゃないから、適当に使ってくれれば」

「ついで?」


 ダイキにしてみれば、メアリの大層な喜びぶりが恐縮だった。本当に大したものでもないのだ、千円程度だった。そもそも、本来の目的は。


「ほら、今さ……。その……ミノルもなんとかしたくて立ち回ってるけど……」

「あ……あぁ……ん、うん」


 急に、両耳のピアスに重みがなくなる。

 目の前で、ダイキの表情が翳る。眉に皺を寄せて遠くを見つめると、切なそうに溜息を吐いた。

 メアリには、意味が解った。本来プレゼントを渡したかった相手は自分ではなかった、”ついで”に購入してもらえただけなのだ。


「励まそうと思って、俺もプレゼント品を探しに行ったんだ。で、メアリが誕生日だってトモハルが言ってたから。思い出してさ」


 分かってはいても、本人に告げられると辛い。悪気はない、だからこそ余計に辛い。

 ダイキにとって、自分はその程度の存在なのだと実感する。


「うん、ありがと。早く行ってあげなよ、もう渡せたの?」

「いや……こういうのはトモハルが、向いてるし。なんのかんの言って、ミノルがもう一度、復縁したいのは当然だし。正直、渡そうか迷ってる」

「そういうんじゃないよ、気持ちが大事なんだよ。こっちは有り難く受け取ったからさ、行って来なよ。買ったんでしょ、ちゃんと? なら、渡さなきゃ! ……自分の為に何かを選んでもらえたってことは、時間を使ってくれたってことでしょ、凄く嬉しい事だよ」

「そうだな。うん……、じゃ。メアリ、ありがと」

「またね」


 軽く片手を挙げて、去っていくダイキの大きな背中を見つめた。


「……ついで、か」


 ぼそ、と独り言。

 ダイキが本当に渡したかった相手。彼女の誕生日も一月だ、何よりその彼女は酷く今……傷ついている。メアリはそれを、知っている。

 ダイキなりになんとか励ましたかったのだろう、そしておそらく勇者達で何かを買いに行き、そこでメアリの事を思い出したのだ。あぁ、もう一人一月産まれの仲間がいるな、程度で。

 身体中から力が抜けて、突っ立っていた。

 ダイキは、彼女に何を購入したのだろう。何を思って、選んだのだろう。


「少年は、無邪気で鈍感で、故に乙女心が解らない」

「セーラ! いつからいたの?」

「ごめんなさい、立ち聞きするつもりは、なかったのだけれど」


 後方から、静かに姉的存在のセーラが歩いて来ていた。数ヶ月前の魔王戦の際に、自分の保護者でもあった神官である。面倒見が良い彼女に、何度かメアリも魔法を教えてもらったり、助けてもらったりした。同じ王宮内で今は働いている。

 申し訳なさそうに困惑気味に苦笑し、肩を竦めているセーラ。


「ダイキに、悪気はないわ。その、ピアスにも」

「知ってる」


 純粋な、プレゼントだ。”他意のない”、プレゼントなのだ。

 自分が先走って、履き違えただけで。

 ダイキには、片思いの少女がいる。本人に自覚はないかもしれないが、いや、今回の事で気付いたかもしれない。

 ただの、憧れていた美少女から……彼女のことが好きだと思い始めただろう。

 セーラの手が、肩に置かれる。促されて、メアリは歩いた。

 耳には、何もピアスなどないように……軽いまま。

 それでも、水鏡に姿を映してみる。ピアスは、華やかに鈍いアンティーク調の光を放つ。木でありながら、不思議な色合いを醸し出していた。

 水面に、新たに光る雫が一つ。波紋を広げて、水鏡を揺らし……ピアスが歪んだ。



本編はムーンライトノベルズにて連載しています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 心理、情景の描写がうまく、しっかりと物語に入り込めた [気になる点] ちょっと物語の構成とかが難しい……かと [一言] 切ない乙女心ですよね……僕男なんで何も分かりませんけど。最後まで読め…
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