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少年、グリグリメガネを拾う

作者: 紺智次

歌とは関係ないよ!

 道の真ん中にメガネが落ちていた。メガネを拾ってみる。いわゆる瓶底メガネ。みるからに度のきつそうな厚みのあるメガネだった。とくに目が悪いわけでもないが、少年はメガネをかけてみた。思ったとおり世界はぼやけた。どこにも焦点が合わないそのメガネは、目に映るすべてをぼやけさせてくれた。境界線のないその世界は少年にとって、とても心地のいいものだった。優しくない世界を見なくてすむからだ。上履きを隠したあいつの顔も見なくてすむ、筆箱を取り上げたあいつの顔も見なくてすむ、胸倉をつかまれ引きづりまわしたあいつの顔も見なくてすむ、遠巻きに見ている光のない目をした無数の顔を見なくてもすむからだ。

 その日から少年はメガネをつけ続けた。

 あいつらはとにかく変化に敏感だ。髪を切った次の日なんて天地がひっくり返るほどの大騒ぎになる。メガネなんてこしらえた日には世界滅亡だ。もちろん手を出された。しかし何をされてもあいての顔は見えない。悪口を吐かれようが、水をかけられようが、殴られようが見えない。以前のように何かの感情が湧き上がるということはなくなった。感情の対象物がいないのだから当然だ。見たくないものはすべて輪郭を失っていた。つまり、すべてが。

 数日たって、少年は体調の変化を感じた。気だるさとふわふわした浮遊感と悪寒。風邪のような症状だったが空も飛べそうなほどの浮遊感が特徴的だった。額に手を当ててみる。熱はなかった。ついでに手もなかった。おかしいぞと思いよく見てみると、なんと手が薄紙のように透けていた。なんてこったと少年は体をまさぐってみる。確かにある身体はしかし、そしてやはり光を透かしていた。しかし透明人間になったわけではないのだ。少なくとも他人には見えているはずなのだ。それは腫れた頬が証明している。申し訳程度の光を反射して、かろうじて成り立っている少年の体。少年ははっと思いつく。おそらくこのメガネのせいじゃないだろうか。このメガネはすべての輪郭を消失させ、世界を一緒くたにさせる力を持っているんじゃないだろうか。たとえば目の前にある二軒の家の境は、輪郭を消失させるこのメガネの前では成り立たない。家Aと家Bは両方ともAであるともいえるしBでもあるのだ。そこでいま透明になっている自分の状況を考えてみる。答えは簡単だ、少年はメガネの力で世界と同化しているのだ。少年は二軒の家でもあり、道端の花でもあり、犬の糞でもあり、ビルであり、やかんであり、壁であり、彼であり、彼女でもあるのだ。この分ではそう長くないだろうと少年は考えた。考えたところでどうしようもないので少年は歩き出した。目的もなくふらふらと。それは死期を知った猫がとる行動と同じものだった。

 溶け出す世界の中で、少年はなんと輪郭を持った少女の姿を見つけた。少年の目には道もすでにあるかないかわからないほどぼやけているので少女が浮いているように見えた。少女はまっすぐ少年に向かって歩いてくる。顔はよくわからない。ぼやけているわけではないがよくわからない。強いて言えば少年に似ているような気がした。

「そんなに急いでどこにいこうとしてるのかしら」

──僕は溶けているんだよ。みんなと一つになるんだ

「一つになるのかしら。ラムファードみたいに波動現象として存在するということかしら」

──存在もしないよ。たぶん

「ふうん」

──君は何をしにきたの

「セックスをするために」

──なんだって?

「あなたとセックスをするために」

──なんでそんなことをしなきゃならないんだい。僕はもう消えるってのに。

「そんなことは知らないわ」

──とにかく嫌だよ。僕は何も考えたくないんだ。

「つれない人だこと」

 少女の声は、大人のそれに変わっていた。耳にこびりつくような湿っぽい声だ。少女を見る。身体つきも大人のものになっていた。

「中身は成長できないのよ。あなたのせいでね。せいぜい3歳児だわ」

 ふくよかな肉体がぼやけた世界に浮かび上がる。少年は勃起した。

「それで」彼女が口を開く「どうするの」


少年は目を覚ました。ベッドの上で目を覚ました。下着が精子で汚れて気持ちが悪かったので着替えた。


 世界は輪郭を取り戻し、少年を拒絶していた。あのすべてが一緒くたになった心地のいい世界はもう無かった。あるはずのないノスタルジィを感じた。残念。


 それとなくメガネを探してみる。どこにもなかった。数分後には、はじめから無かったのだろうと思い、さらに数分後にはメガネのことを忘れていた。

 今日は平日なので当然学校がある。時計を見るとそろそろ家を出る時間だ。少年はベットにもぐり目を閉じた。すぐに眠った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 女性とのオイタが書かれていて、面白かった。男の子、パンツ、洗った?(笑) [気になる点] R15ってほど? もっと……でもいいんじゃない。 [一言] 魔法少女プリルラ。ちょっと、弾んでそ…
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