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後編

 リビングで一人、くたくたのソファーに身をあずけつつ、僕は頬をゆるませながら携帯のボタンを押す。和も家に誘ったけれど、看護婦さんに叱られるからと断られてしまった。

「はぁ、和やっぱ体の調子悪いのかな。耳も完全に聞こえなくなってたし、もう半年くらい入院してるし……早く良くなってほしいな」

「っと。よし、完了」

 僕は送信ボタンを押した。

『告白うれしかったよ。ありがとう。また一緒にデートしようね。お大事に 水樹』


 白いワンピースを着た長い髪の少女は病室の窓から少女の後姿を目で追いつつ、黒髪を手ですく。

 彼女はガラスに写った自分の姿を眺め自嘲気味に呟いた。

「髪もこんなに伸びて、これじゃあ男の子には見えないか」

 しばし目を閉じた後、携帯が赤く光っているのに気づく。

 メールを読みつつ少女は悲しそうに微笑する。

「告白……か。本当にそうだったら良かったんだけどね」

 携帯が青く光る。

『廊下から、先生の説明を聞くあんたの両親の声が聞こえるよ。』

 少女はいつもと何も変わらない様子の水色の鉄の扉を見やり尋ねる。

「あとどれくらい?」

 同じ病室にいる老女は悲しげに眼を伏せて携帯を操作する。

『二週間』

 少女はうなずき、ペンをとり英語で書かれた書類にサインをする。

「水樹。私はどうやら長くないみたいなんだ。だからせめて……」

 和は水樹の家を見つめ、つぶやいた。「さよなら。私の初恋の人」




 和とのデートから一月がたつ今、僕はサンフランシスコ空港にいた。

 僕と同年代の少女が死亡し、眼球の提供に親が同意したらしく、僕は父とアメリカに渡り、一週間前に眼球移植手術を行ったのだ。手術後、僕はまだアイマスクを一度も外していない。

「サンフランシスコっていっても良くわかんないな。でも周りみんな英語をしゃべってるや」

 僕がそういうと父は当たり前だというように笑い、僕に声をかけた。

「外してごらん」

 僕はマスクを外し、まぶたをそっとあけた。極彩色のアメリカの夜の街が眼下に広がる。

「これが和や父さんが見ていた世界か」

 なぜか胸に温かいものが込み上げてきた。気づくと僕は涙をこぼしていた。

「どうしたんだい水樹」

 父さんはあわてたように尋ねる。

「どうしてだかわからないけれど、涙が止まらないんだ」

 そのまま僕は大声で泣き出してしまった。父さんが僕の背を優しくさすってくれた。


 日本に帰り僕はすぐに和のいる病室に向かった。懐かしい鉄の感触の水色の扉を開ける。

「おーい和。手術成功したよ。やっほ……あれ? いない。退院したのかな?」

 君のいたベッドは空になっていた。僕はふと思いつき携帯を開く。

 君からのメールが一通届いていた。「おめでとう」という題名のメールには一つの写真が添付されていた。君が白いワンピースを着て笑っている写真。

「わ、可愛い。和ってこんな顔だったんだ」

 僕は君にメールを送ろうとした。けれどメールは届かなかった。

「あれ…」

 声が震える。慌てて君に初めての電話をかけた。無機質に流れるエラーメッセージの音。

 近くの老婆が心配したのか声をかける。それでも僕は無視して何度も何度も電話をかけた。

「ねえ…和…」

 震える手で携帯を支え、僕は写真を眺める。小さなピンクの花が刺繍された白いワンピースはほほえむ君によく似合っていた。

 幸せそうに笑う君の顔に僕の顔もゆるみかけた。


 …よく似合っていた?


 その時ようやく僕は理解した。震える手を押さえつけてアルミサッシを握りしめた。

 世界が狂いそうな壊れた平衡感覚を抑え、窓から君が見ていた世界を覗く。周りに寄る看護師、医師、老婆、父親……今の僕には何も目に入らなかった。

「和…これが君の世界なんだね。これまでも。これからも。」

 涙が目から零れ落ちる中、僕はただ夕日に染まる金のイルカを見つめていた。


 悲しいほどに鮮やかな君のいない世界は無色の世界よりもずっと透明色だった。


ルートB TRUE END


分かりづらいところがたくさんある小説だったと思います。これからも精進していきますのでどうか生暖かい目で見守っていただけたらありがたいです。

解説編を読むのは出来れば最後の手段で(^ ^)。


読んで下さった読者様。本当にありがとうございました。

誤字訂正・感想・批評等何でもお待ちしております。

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