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前編

この小説は純度99%の作者のイタズラ心により構成されています。

テーマは「壁」と「色彩」です。

 強い日射しが世界を灼く文月下旬の午後一時。

 僕はイルカの上に座り人を待っていた。木陰の涼しい風が吹き抜けるこの場所は、僕のお気に入りの場所の一つだ。火照った肌にひんやりとした金属の感触が心地よい。

 蝉の声がする。僕は誘われるように音のする方へ手を伸ばした。

「あ」

 手の間をすり抜けて蝉が飛び立つ感触がした。

 誰かが後ろから近づく音がする。僕はそっと後ろを振り向こうとする。


 パシッ


 頭が叩かれた。僕は涙目でうつむきながら君にぼそっと挨拶をした。

「早く死ね」

 君は指で僕の顎を持ち上げながら笑う。

「嫌みか。折角私がこんなに可愛いワンピースを着てきてやったっていうのに」

 やれやれ、と僕は手と首を振った。

『それは僕がここに来ていることでチャラだよ』


 このデートのきっかけは夏休み前にさかのぼる。

 僕の家は今いる水族館前広場の向かいにある。だけど僕は水族館に一度も行ったことがなかった。水無月の頃に僕がそう言った時、君は水族館デートを提案してきた。

 僕はすぐに断った。けれど君があまりに誘うので『君が白いワンピースを着て、麦わら帽子でも被るのなら付き合うよ』と言ってしまったのだ。これは売り言葉に買い言葉っていうやつで決して僕の好みとかにはまったく関係ない。

 いつもズボンばかりはいている君にスカートをはいてほしかったっていうのも……少しはあるけれど。


 僕はため息をつきつつ君にいう。

『まさか本当に着てくるなんて。そんなに僕に嫌がらせをしたかったのか』

 君は怒ったように言った。

「水樹に水族館を楽しんでもらいたかっただけだよ。うそじゃない。それを証拠にほら、空がこんなにも青いじゃないか」

『どっちが嫌みだよ』

 行かなかったのには理由があるのだ。

 葉の間からもれる太陽が頭を灼く。僕は顔をしかめ立ち上がった。

 君は携帯に目を落としつつ、頬をふくらませる。

「ちぇっ。けち」

『いくよ。ここは暑いから中に入ろう。』

 僕が歩きだすと君はあわててついてきた。


 この須磨海浜水族館は様々な水槽があり、中でもアマゾン館と呼ばれるトンネル型の水槽が有名らしい。……まあどっちにしろ僕には関係のない話だが。


 つるつるしたカードを示し、入ろうとしたところ警備員らしいお姉さんに呼び止められた。

「ちょっと。そこの可愛いお嬢さん達、館内で携帯はマナーモードにして下さい」

 僕は携帯をいじりつつ君に目配せをする。君は慌てて携帯を開いた。

「理不尽な世の中だね」

 君は不満げにこぼし歩き出す。心なしか足音のリズムが乱れていた。僕はそんな君をからかう。

『とっても可愛いよ。素敵な御嬢さん。』

 君は僕のほっぺたをひっぱりつつぼやいた。

「見てもないくせによく言うよ。……はあ。やっぱりカップルには見えないか」

「ひひゃい、ひはぃはなせぇ!」

 君は僕のほっぺたをつかんだままどこか上の空でしゃべり続ける。

「やっぱり水樹が悪いんだよね。ふふ、全部水樹のせいだよ。そう全部。」

『だからはなせって和。悪かったから。なんでもいうこと聞いてやるから話せ。』

 和はぽいっと僕の頬から手を放した。そして僕の右手をぐっと握る。

「悪い悪い見てなかった。で、なんだっけ。なんでもいうこと聞いてくれるの?」

『しっかり見てるじゃないか』

 和はにやっと笑いながら言う

「私がかわいい水樹の言葉を逃すわけないじゃないか」

『はあ、さっき言ってたことと違うし。』

 そういいつつ僕は自分の頬が熱くなるのを自覚した。

『一つだけだよ。なにか一つ。』

 そう頬の熱さをごまかしつつ和に言う。和は僕の顔を見ながらにやけた声でうなずいた。

「りょうかい、りょうかい」


 数分後ふいに先導していた和の足音が止んだ。

「どうした和? トイレ?」

 和はこちらに振り向き、僕に尋ねる。

「なんか言った?」

『トイレ?』

「トイレじゃないよ! もうまったく……」

 そうぼやきつつ和は僕にしゃがむように言った。

『何。ここどこ和?』

 僕はそういいつつ地面にしゃがむ。和は僕とつないでいる手を離した。

「それは後のお楽しみ。ほら水樹、手を伸ばしてみて」

 僕は言われるままに手を伸ばす。ぬらりとした冷たい感触がした。

「ひゃん」

 僕はぞくっとして飛び上がった。

 和は笑いながら言う

「まったく水樹は可愛いな。ほら、もう一度手を出して」

 僕は恐る恐る手を出す。和は僕の手を握り誘導した。ざらざらとした不思議な感触が手に触れる。

「ここはふれあい広場だよ。ヒトデにさわれるんだ」

『へえ。そんなのがあったなんて知らなかったよ。』

 僕と和は一緒にヒトデの感触を楽しむ。

「この前水樹の家に行ったとき、この広場のポスターが水族館に貼ってあるのが見えたんだ」

 和はさらりと笑う。

「ここなら水樹と一緒に楽しめるって思って連れてきたんだよ」

 僕はとってもうれしかった。自然と顔がほころぶ。

『ありがとう。こんな素敵な場所に連れてきてくれて。』

 君は微笑んだ。

「どういたしまして。それじゃ、さっきの願い事を一つ使わせてもらっていいかな。水樹姫。私とこれから死ぬまで付き合ってくれないか。私は君の目となり、君を守ることを誓う」

 僕は照れながら答える。

『喜んで、和王子様。じゃあ僕は君の耳になろうかな……てかこれもう小学生の会話じゃないよ。』

 僕らは顔を見合わせ、吹き出した。笑っている水樹の顔が一瞬見えた気がした。

「じゃあ帰ろうか」

 僕らは手をつなぎ、水族館のゲートをくぐった。

ルートA HAPPY END

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