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平和戦争  作者: クルム
序章
3/6

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 彼が目を覚まして驚いた。清潔感の漂う白い天井が見えた。病院に居たのだ。それよりも彼は自分が生きていることに驚いた。右の肩口が急に痛んだ。銃弾は急所を逸れていたようだ。しかし、それにしては痛みが少なかった。銃弾を受けたならもっと痛むはずだと彼は思った。最も、彼は撃たれたのが初めてだ。

 案外、こんなものかもな。

 不意に扉が開いた。扉にはさっきとは違う若いスーツ姿の男が居た。その男は彼に一瞥する。慌てて彼も一瞥で返した。そして、その男は彼に近づいた。

「竜さん、立てますか?」

 声には若々しさがある。

「あ、はい。」

 彼が答えると若い男は笑って、

「それは良かったです。あなたに会いたいと言っている人がいるのでね。ついてきてください。」

 彼は起き上がりベッドを後にした。右手はしびれていて感覚はなかったが、右足は正常だった。

 彼が病室から出ると雰囲気は一変した。どうやら病院ではなかったようだ。灰色のコンクリートの壁、床、天井。数少ない蛍光灯は通路を薄暗く照らしていた。彼は言葉を失ったまま歩き続けた。やがて通路の行き止まりに来た。少し前まで消えていたものが、またこみあげてきた。目の前には防火扉のような重そうな鉄の扉。男はパネルで何やら操作すると扉はシャッターのように上に上がった。

「社長。最上竜をお連れしました。」

 開いた扉の奥には絢爛豪華な一部屋があった。床には赤を基調として黄色の刺繍を施したカーペットが敷かれ、天井にはいかにも高そうなシャンデリアが下がっていた。部屋の奥には立派な机があり、そのさらに奥で椅子に座って窓を向いていた人が言った。

「ご苦労。下がりなさい。」

「失礼します。」

 若い男が社長らしき人物に深々と礼をして、頭を上げると一歩後ろに下がった。その様子を見ていた彼の脳裏に焼き付いた悲しげな眼を若い男が竜に向けた。やがて、音を立てて扉が閉じられた。

「最上竜。まず君には謝らねばならないとこがあるな。」

 社長と呼ばれた人物が低く、迫力がある声で言った。

「はあ。」

 彼は短い声を上げた。

「私の部下が無礼を働いてしまったな。すまなかった。」

(あれだけのことをして「すまなかった」の一言か…。余程の礼儀知らずか、こんなことが小さいと思うほどの何かをやろうとしているのか?)

 彼は怒りがこみあげてきた。これなら謝罪もない方が良かったように思った。

「君に来てもらうための手段だった。」

(言い訳かよ、見苦しい。それに来てもらうんだったら手段は選べ。)

「そろそろ、本題に入らせていただく。」

 話は一方的に進められた。彼は言いたいことは山のようにあったが、アウェーなので大人しくしていた。

「君は国際情勢や日本の情勢について知っているかな?」

 社長は彼に背を向けたまま話を始めた。

「いいえ。あまり知りません。」

 彼は怒りをひた隠しにした。

「そうか。なら、少し説明しよう。今、北朝鮮が核兵器よりも強力な兵器の研究に成功した。その研究に水面下で協力していた中国も、その兵器により力を増している。さらに、その中国と友好関係にあったロシアも中国の陣営に加わった。ロシアもその兵器で力をつけている。その三カ国に対抗すべくアメリカやフランスなどが兵を出しているが戦力の差は圧倒的に不利だ。このままでは第三の世界大戦が起こって島会う。」

(圧倒的な力の差があるなら戦争にすらならないだろ。)

 確かに社長が言っていることに嘘はない。しかし、その兵器は実用化されていないし、北朝鮮や中国は侵略行動に出ていない。社長は続けた。

「そこで我々は極秘裏に兵器を製造し、各国に売っている。場合によっては戦闘に参加している。」

 社長は意図的に秘密をばらしたことを彼は分かっていた。

「君に協力してほしい。」

「テロにですか?」

 彼はこみあげてきた怒りを少しずつ出していく。

「テロではない。中国の軍勢をそぎ落としているのだ。」

「そうやって、正当化するのですか?武器を秘密裏に輸出して、海外派兵して、そこで戦争までやって、これのどこがテロじゃないと言い切れるのですか?あなたたちは俺にとってはテロリストです。」

 彼は死を覚悟していた。この世に未練は少しはあったが、テロリストの手に落ちるくらいなら死んだ方が彼にとっては良かった。

「分かってくれ。平和のためだ。」

 人生の最後に言いたいとこは全部言おうと決めた。

「あなた方が平和を口にしないで下さい。このような集団が、平和を乱すのです。」

「君がそう思うのは仕方がない。一週間考える猶予をあげよう。いい答えを期待してるよ。」

 社長は常に一方的に話を進める。

「さっき、あなたは秘密を少し話しましたよね。もし、俺が一週間の間に誰かに言ってしまったらどうするおつもりで?」

 彼が言うと、社長は薄ら笑いを浮かべて言った。

「君が言ったところで変わる物ではない。」

「その根拠は?」

「力だ。」

(何の力だ?武力か?権力か?財力か?)

 その答えを彼は知る由もなかった。


 どうやって帰ったか覚えていない。ただ、意外に家の近くだったことは分かった。

 帰るとついていたテレビを見るともなく眺めているとニュースキャスターはこう言った。その瞬間、彼は凍りついた。

「北朝鮮が超兵器の製造法を確立しました。これにより近隣国家の警戒は頂点に達しています。」

(超兵器か…。あいつもそんなこと言ってたな。)

「竜?帰ってたの?」

 キッチンに居た母親が話しかけた。母親は動かない竜越しにテレビを見た。

「物騒になってきたね…。使われないといいんだけど…。」

(使われないといい…。ただ、それも奴らの動き次第。奴らが下手に動けばここは危険だろう。)

 超兵器。社長が言っていた「核兵器を越える兵器」だ。しかし、それを直接目にしたものはいない。


 彼は部屋にこもってパソコンで例のテロリストについて調べたが得られる情報は全くなかった。それから彼は学校にも行かず今後について考えていた。そして…。

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