聖白園
黒い姿が見えなくなると同時にその場は何事もなかったかの様に、元の静かな雰囲気になった。
「えっ!?ちょっ…追わないんですか?」
美沙が驚きの声を上げる。
その答えは後ろから、男とは対象的な可憐な声で返ってきた。
「大丈夫♪僕たちはアイツを殺すことじゃなくて、君たちを助けるのが目的だから」
いつの間に後ろに!?
いや、男の殺気でそれに気づくことが出来なかったのか…
おれは横目で後ろにいる女…声から判断しただけだが、おそらく女である人を見ながら刀を収めた。
やはり女か…
突如として現れた二人を交互に観る。
短い黒髪を持ち、少年の様な顔立ちの小柄な女…
銀の髪に綺麗な顔をした青年と呼ぶのが丁度よい男…
「あの…貴方たちは?」
また美沙の質問が始まった。
聞かずにはいれないのが性格みたいだ。
「僕は谷口 凛、で、彼が國山 惇」
そう言いながら凛と名乗った彼女は微笑みを見せた。
「あ、川口 美沙です!こっちは浅原 夏屶くん」
また人を無視してするなよな。
美沙は飴を貰えば誰にでも着いて行きそうな奴だな。
まぁそれも良いところだが…
「長話をしている暇はないぞ。ヘブンズゲートはもうすぐだ」
「は、はい!」
先に歩き出した二人の後をおれと美沙は慌てて追いかけた。
なんか毎回置いて行かれるな…
並樹道を歩いてい行くと、忽然と巨大な門が姿を現した。
「これが…」
「そう、これがヘブンズゲート。そして、この向こうにあるのが僕たちの住居区域…聖白園!」
本当にデカイ…
高さは軽く10階建ての建物並はある。
門自体はその半分程だが…
全体が白く輝き、何とも言えないオーラを放っている。
ふと視線を上から下に戻すと、門番らしき人たちが二人立ってる。
「國山様!谷口様!ご無事で!」
門番の人が丁寧にお辞儀をしながら門を開けている。
様?この人達はそんなにお偉いさんなのか?
「たっだいまー♪谷口凛、任務完了♪」
「國山惇、任務完了だ」
「お疲れ様でございます。ではこの二人が…」
そうだ、と國山さんが答えるのを聞いて、番人の二人がこちらを見てきた。
なにかおれらは特別扱いな気がするが、思い過ごしだろうか…
隣では美沙が、えへへ…と照れながら頭を少し下げていた。
「さて、浅原と川口には話さなければならないことあるからな。このまま着いてこい」
そう言うと國山さんはさっさと歩いて行ってしまった。
「彼って結構他人の事情無視なんだよねぇ。戦いになると仲間思いなのになんでかなぁ?まぁ、根は良いやつだから♪」
「は、はぁ…」
おれにはこの人(谷口さん)も分からない…
そもそも何歳なんだ?
おれらより年下にしか見えないが…
「ほら、夏屶君!考え事してると置いて行かれるよ?彼、歩くの速いよ♪」
「うわっ!?」
見ると國山さんの姿はもう小さくなっていた。
その後ろにはちゃんと美沙の姿も…
また置き去りか…
慌てて追いかけていくと、國山さんと誰かが真剣な面持ちで話をしていた。
「それでは青葉は…」
「あぁ…残念だが……副隊長のことは……」
「しかし青葉が……ほどの奴を……」
「おれも信じられんが………かもしれん」
「なるほど……では後ほど」
おれらが追いついた時には話は終わり、別れてまた國山さんは歩きだした。
美沙に追いつき何の話だったのかを尋ねてみるが、
「さあ?わかんない」
人の話を聞こうとしないのかコイツは…
國山さんの歩く速さのせいかあれこれ考える暇もなく目的の建物に着いた。
ドーム状の建物…
自分たちの世界とあまり変わりはない…
ただ、コンクリートなどは無いようだ。
レンガ造りの建物…舗装されていない土の道…やはり車は無い…少し昔の西洋と言ったところか…
考えていると、一つの部屋に招かれた。
中に入るとそこには見慣れた姿があった……
「!?…お前ら!」
夏屶「やっぱり置き去りが多い…」
美沙「それは夏屶が毎回ぼーっとしてるからだよぅ」
惇「全くだ!そんなに遅いと……」
凛「まあまあ、いいじゃない♪人間考えることは大事さ♪でも…僕も置いて行ったよね?」
惇「それはお前がもたもたしているからだ」
凛「だいたい毎回置いて行くのはどうかと思うけどなぁー」
美沙「実は凛さんも夏屶と同じなんですね…」
凛「…っ!?ぼ、僕は夏屶君みたいにぼーっとしてるからじゃなくて…だからそれは…あれだよ…」
夏屶「…おれの立場って…はぁ…」