生きるために――
「おっはよ〜♪朝だよ〜♪早く起きろ〜!」
げほっ
「み、美沙か…」
「美沙か…じゃないよ〜!起きろ〜!」
なんでコイツは朝からテンション高いんだよ…
やっぱり朝はもっと静かに起きたいよな
そういえば二人の姿が見えないな
「一稀と霞は??」
あの二人は昨日かなりヤバかったからなぁ。まだ寝てるのか
「風呂だよ」
「えっ!?マジ!?」
あの二人が!?
「うっそ〜♪」
この女…
簡単に変な嘘をつきやがるぜ、全く…
「で、二人は?」
「えっとね、外を散歩してくるって言って出ていったよ」
散歩って随分と呑気だな。
「おれらも出ようか」
(ここに何時までも居るわけにもいかないしな。まぁこの町は小さいからわからなくなることはないだろうし
美沙と二人で歩くのは初めてだな。しかし、こいつどんだけ元気なんだよ…)美沙はおれの目の前で何が嬉しいのかぴょんぴょん飛び跳ねている。
つーか何歳児だよ…
おれは多少美沙に呆れながら宿屋の一階に下りていった。
「ねぇねぇ、どこ行く?」
おいおい…こいつ絶対にデート気分だな…
この女は相変わらず呑気だな。今おれらが置かれてる状況がわかってるんだろうか…
「まったくお前は今どんな状況かわかって――」
「うわぁぁぁ」
突然の悲鳴におれの声は掻き消された。下、一階からだ。あの声は亭主だろう。
「何?何今の声?」
美沙はかなり驚いているようだった。
「おい、美沙。とにかく行ってみるぞ」
「えっ!?ちょ、ちょっと夏屶!?」
おれは困惑している美沙の手を引っ張り下へ下りて行った。
その時は何故わざわざ下に行ったのかは分からない。
何故か分からないが、そこに行かなければならない気がした。まるで何かに呼ばれるように…
おれらが一階に下りて最初に見たもの、それは…
おびただしい血潮を周りに飛ばし、床に倒れている亭主だった。
「いやぁぁぁ」
美沙の悲鳴が部屋中に響く。
また耳元で美沙の大声かよ…
抱きつくのはいいけど耳元で悲鳴あげるのはちょっとな…
今の悲鳴で亭主を殺した連中がこっちに気づいたようだ。
連中と言ったように、手に刀を持った黒尽の服を着た人間が三人居た。
これはマジでまずいな…
この状況みんなならどう考えます?
とにかくまずいとしかでてこない…
かと言って逃げる場所は何処にもない。
いや、正確には後ろの階段に逃げればいいのだが、美沙はに力強く掴まれ動けない。
「おい、美沙。そんなに強く掴むな」
美沙はおれにくっつきブルブルと震えていた。
まさかおれらまで斬られることはないよな。
目の前の状況を見ての予想…いや、願望に近かった。
しかしまあ、そこは望み通りにいくはずもなかった。
『見つけた。転生者』
何を見つけたんだ?
何もすることが出来ずにいるおれらに、ゆっくりと近づいてきていた三つの黒い固まりの内の一つが急速に近づき、腕を振り上げた…
――殺られる……
(タイムスリップしていきなり斬られてもう終わりかよ…)
――キィン……
金属同士がぶつかり合う音を合図におれらは目を開けた…
目の前に白い服を着た見知らぬ男が二人立っていた。
「二人とも何をボケっとしている!早く刀を出さんか!」
突然現れた白衣の人に怒鳴られる。
(いきなり怒鳴るなよ…てか刀を出すって刀なんて持ってないしよ。なんだコイツ)
美沙も困惑していた。
「刀の出し方をもう忘れたか!刀を出すよう強く念じてみろ」
はい?強く念じる?意味がわかんねぇ…
そうこう考えていると、突然おれの隣が光った。
「キャー!何これ!?」
美沙の手には前にいる人たちが持っている日本刀よりは短い小太刀が握られている。
「っ!お前いつのまに…」
「なんかね…念じたら出てきちゃった」
出てきちゃったって…そんな簡単なものなのかよ。
(…ってどう念じるんだよ…刀よいでよ!…どこのアニメだよ…刀〜…きんとうんじゃないんだしな……さて、刀の形を思い浮かべるか…)
おれの手元が光だし、わずかに重みを感じた。
気づくとおれは刀を握っていた。
(おれの刀は美沙のより長いな)
「早く手伝え!」
おれらが突然現れた刀に驚き、関心している間にも三つの黒と二つの白が激しく交わっていた。
とにかくやるしかないようだ。自分の命は自分で守るか…今の時代には必要のない言葉と思っていた。まぁここはおれらがいたの時代ではないからこんなことが当たり前なのかもしれない…
「このっ」
キィン!
斬りかかってくるのを何とか止めた。
(当ててみれば思ったより軽いんだな)
交わった刀で押される力は予想していたよりは遥かに弱かった。
けど…やっぱり強い…押される…
力でどんどん押して来やがる…くっ…
徐々に押されていき、潰されそうになる寸前で粘っていた。
完全に潰されそうになるその時…
『ぐあぁぁ』
おれと刀を交えていた目の前の男が、断末魔を響かせ床に倒れた。
その後ろには美沙が立っている。
光と共に美沙の手から刀が消え、美沙は顔を手で覆い隠しながら地面に泣き崩れた。
「私…私…人を殺した…」
(美沙…)
かなり胸が痛かった。現代のおれらが…平凡に暮らしていた少女が人を殺すなんて誰が考えられる…
おれらの常識はこの瞬間に崩れさった…
“弱肉強食”
まさにこの世界を表しているだろう。
(なら、おれはこの世界で生きてやろう)
もうここは、おれらの生きた世界とは違う…
本来人は誰でも人を守るために…その為なら簡単に人を殺すこともできるのかもしれない…こう思うのはおれだけだろうか…
こんなこと言っても現代に居ては考えないこと…かな
とにかく今のおれらに躊躇があってはいけない。それだけは確かだ。
「小僧!こっちを手伝え!」
怒鳴り声で意識を戻された。声がする方を見ると仲間の一人は床に伏せ、一人で二人の相手をしていた。
(やってやる)
手に力を入れる。刀の重みをこの手で感じる。これが今の現実だ。
三人が交わる場所におれの足が動き出す――
(なんだ…この感覚…みんながスローモーションに見える)
一人の黒い人間の後ろに回った時、まだ誰も気づいてない様だった。
軽く刀を振り、黒を斬り終わる。黒が床に倒れたその時に、初めて二人と目が合った。
(…遅い…全てが…)
振り下ろしてくる刀を軽くかわし、一気に踏み込んで黒を斬りさった――
美沙
「刀だ刀だぁ♪」
夏屶
「何でそんなに楽しそうなんだよ…さっきまで泣いてたのはどこの誰だよ…」
美沙
「あぅ…そうだ…私は人殺しだぁぁ…うわぁぁん」
夏屶
「おれだって人殺しはしたくねぇよ…」
美沙
「じゃあ私が夏屶くんを殺してあ・げ・る♪」
夏屶
「はぁ!?うわっ!美沙、刀振り回すな!」
美沙
「こら〜!逃げるな〜!私の為に死んで〜♪」
夏屶
「意味わかんねぇよ!」
美沙
「待て〜♪」
夏屶
「危ねぇよ!」
――しばらくお待ちください――
美沙
「これで次から主役は私ね♪」
夏屶
「勝手に殺すな」
美沙
「次回!美沙ちゃん大活躍の巻♪」
夏屶
「はぁ〜…」