蒼白の世界
まぶしい…
まぶたの向こう側には光があるみたいだ。
おれたちは、洞穴の中にいたはずじゃあ…
…くん…
…たくん
何だ?何か聞こえる。
…かなたくん…
誰かおれを呼んでるのか?…
「夏屶くん!」
「うわっ!」
目を開けた瞬間に最初に飛び込んできたのは美沙の不安に満ちた顔だった。
体を起こすとそこには一帯を緑が覆いつくし、真っ青な空からまぶしい光が降り注いできている。
おれは未だに状況がわかっていなかった。
「も〜、驚くことないじゃん。」
「ここって…何でこんなところにいるんだ?」
「も〜!夏屶くんシカト!?」
そんなつもりはなかったんだが自分が思ったことが先に出てしまった。
見てみると美沙が顔を膨らませていた。
(目が覚めていきなりその顔かよ…)
不安がってたと思ったらすぐに怒ったりって、忙しいやつだ。
「ごめん、てか伸也と清美は?」
周りにはおれと美沙、一稀、霞の四人しかいない。
「知らねぇよ。気が付いたらオレら四人しかいなかった」
「そっか…」
伸也と清美が心配だった。まぁ今は人の心配をしている暇はあまりなかったけど…
とにかく状況がわからない。洞穴の中に入って…突然気を失って、気が付いたらいきなり草むらの中に寝ていた…
どういうことだ?
「ねぇ、いつまでもこんな所にいないでどこかに行ってみようよ」
霞の提案でおれら四人は丘を下りていくことにした。
(てか今日歩きすぎ…)
せっかくの土曜日だっていうのに…面倒なことになったなあ。
この時はまだ誰も、もっと大変な異変が起きていたことを知るよしもなかった。
しばらく歩いているとおれらの前に小さな村が見えてきた。
やっと人がいるところまで来れた。誰か送って行ってくれる人がいればいいけどな…
そんなことを考えるのは愚かなことだった。最初に異変に気づいたのは美沙だ。
「ねえ…ここらへん道路も電線も全くないよ?」
言われてみれば確かに…
てか今どき道路も電気も通ってないなんてどんな田舎だよ。今の時代そんな田舎見たことある?おれらの近くには確実にないな…
「確かに、何もないな」
「でしょ!?」
さすがに不安になってきた。
(車がないなら帰るのかなり時間かかりそうだなあ…)
「とにかく行ってみよう」
おれらは不安を抱きながらも村に行ってみることにした。
とにかく情報がほしい。
村が見えてからは早かった。人がいるっていう安心感があったんだろうな、自然とみんなの足取りが軽くなって、村につくのが早かった。
でも、着いてみてすぐに異変に気づいた。この村は何か違った。とにかく現代にあるようなものが無い。
本当に田舎だ。
「とにかくここの人に聞いてみよう」
「そうだね」
おれと美沙で近くにいた女の人に話しかけてみた。
「あの〜、この村は何て村ですか?」
「ここかい?ここは霊享村だよ。あんた達こんな村にわざわざ来たのかい!?物好きだね〜」
やっぱりこんなところに人は来ないよな…
おれらってかなり変人扱い?
はは…冗談じゃないぜ。
「ねぇ夏屶…あの人…ちょんまげ…だよね?」
言われた方を見てみると確かに今の時代にはいないちょんまげをした人がいる。しかも腰には刀みたいなものが…
(おいおい、意味わかんねえよ)
「あ、あぁ…ここって…」
「もしかして美沙たちタイムスリップしちゃったの!?」
そんなまさか…
ホント何がなんだかわかんないぜ。
でも今見てるものは確かに本物だし、受け入れるしかないようだ。
「一稀たちもそう思うか?」
「ん〜そうとしか言えんだろう…信じがたいけどよ」
確かに信じがたいのも事実…だけど今見ている光景も事実…
あ〜!わけわかんねぇ!
それからおれらは村中を歩きまわった。
そして、日が暮れるころ、村をまわり終わり、結論が出た。
「やっぱりこの村は江戸かいつかの時代の村だよ。美沙たちはやっぱりタイムスリップしたんだ!」
「タイムスリップねぇ…そう受け入れるしかないか…」
みんなの表情が暗くなるのがわかった。
おれも正直受け入れ難い…というより本当ならおれらは大変なことになってしまった。
なんで過去にいるんだよ…考えられねぇ…
なんか急に疲れたぜ…
「なぁ、もうどこかで休もうぜ。おれ限界…」
「たしかにそうだね…うちも疲れた」
霞は疲れと状況を知ってしまった衝撃でかなり顔がヤバい…
相当キテるな。
その時一稀がちょうど宿屋を見つけた。
「あの宿屋で休まねぇか?」
即座に全員一致で宿屋に泊まることに。
おれを含めた四人は誰も金のことを気にしていなかったが…
おれら四人はこの見知らぬ世界で最初の夜を迎え、眠りについた…
夏屶「いや〜、今の時代あんなことがあるんだな」
美沙「びっくりだよ〜」
霞「驚きすぎてかなり疲れた…」
夏屶「霞…顔ヤバいぞ…」
霞「……」
美沙「霞?だ、大丈夫?」
霞「……」
夏屶「これはマジでヤバいな…」
美沙「みたい」
夏屶「霞、一稀と一緒に寝ておけ」
霞「は〜い…」
夏屶「やけに素直だな」
美沙「たぶんほとんど意識無いと思う…」
夏屶「ホントに一稀の隣で寝はじめたぞ」
美沙「二人とも完全に意識ないまま寝てるね、ホントに疲れたんだね」
夏屶「一稀はいつものことだろ…」
美沙「そっか!」
夏屶「寝るから登場回数が少ないんだろうよ」
美沙「そういえば一稀君めったに喋らないね」
夏屶「今回は美沙が喋りすぎなだけだろ…」
美沙「そうかなぁ?これでも抑えてるよ〜」
夏屶「そ、そう…」
美沙「あ〜!」
夏屶「な、なに!?」
美沙「今日のドラマ録画するの忘れた…」
夏屶「……はぁ…どんだけ呑気なやつだよ」