聖白園の奥
激しかった戦闘は収まり、またそこらで小さい戦いが行われているだけになった。
おれは隣に並んで歩いている少女に連れられ、ある場所へと向かっている。
こうなったのは数時間前にさかのぼる――
「……夏屶、君だよ」
は?意味が分からない。
「お、おれの筈は無いだろ」
困惑しながら周りを見てみると、他の三人はおれ以上に驚いている。
國山さんですらここまでは知らなかったようだ。
「夏屶が覚えてないのは仕方ないよ。だから一緒に来て欲しい所があるの」
「…わかった」
おれの過去か…
凛から無くしていた過去の話を聞いた時から思ってはいた。
おれはその時にこの世界に来たことがあったはずだと。
今が、そのことが推測ではなく、確定になった瞬間――
そして、無くしていたピースをまた一つ埋めにいく。
病院で目を覚まして以来、何かは分からないが…何かを背負わされている感覚に襲われることがあった。
何故か罪悪感があった。何に対する罪悪感なのかすら分からないまま、今までそれを抱えてきた。
凛に着いて行けば、自分の過去を知れば、全てが繋がる。
これは予測じゃない、確信があった。
「じゃあ、惇達は撤退を手伝いに行って。僕達はちゃんと帰ってくるからさ♪」
「わかった。気をつけろよ」
「うん♪行ってきます♪」
凛は笑顔で手を振っていた。
「夏屶、おれ達は待っているからな」
「はい。大丈夫です」
できるだけ力強く答える。
不安がないかと言えば嘘になるが、凛や皆の為になることならば、おれは迷いはしない。
そして、おれたちはそこで別れた。
「ここだよ」
周りには霧が立ち込め、よく前が見えなかったために景色を見るなんてことをしてなかった。凛に言われてよく見てみると、目の前には巨大な門が。
ただ、聖白園との違いは、その門の大半が崩壊していることだ。
「凛、ここは?」
「ここは…旧聖白園。現世でいう四年前に崩壊した所だよ」
四年前…
なるほど、おれの過去に関係ある場所か……
こっちだよ、と言われ後に続いて中に入っていく。
「ここはね、この濃い霧を利用して長い間、黒から守ってた場所なんだ」
そう話を始めた声は、いつものような元気な声とは程遠い、思い出したくない嫌なことを無理矢理口から出している感じだった。
「そして、この旧聖白園の最後の守護神が僕たち…二大聖天使だったんだ」
最後の…
当たり前だが言葉の通りに考えると……
おれ達は黒からここを守れなかったのか……
だいたい分かってきた。
つまりは、
――おれらは四年前の事故でこの世界に来て、二大聖天使まで上り詰めた。
黒との戦いに負け、この旧聖白園は崩壊した――
と。
でも分からない。
戦いに負けたのなら何故おれだけ現世に戻り、凛は未だにこの世界で、しかも新しい聖白園があるのか。
そんなおれの考えを見通したのか、凛が言葉を続けた。
「夏屶のことだからここまで話せばだいたい分かるだろうから、夏屶の記憶にないと思うことを話すね」
嫌な予感は少なからずあった…
おれが知る限り現世に戻れる方法は2つのみ…
おそらくは…
「僕たちはある日、黒の総攻撃を受けてね、僕たちは圧されていた。白の敗北を決定付けたのは僕の行動だったよ」
何故かだんだんと頭が痛くなってきた。
自分の意識がどこにあるのかもはっきりしない。
自分が今何をしているのかも分からない。ただ凛の声だけが頭の中に響いている。
「聖白園は何のためにあるのか、何を守っているのか知ってる?ううん、覚えてる?」
おれは頭の痛みに耐えるのが精一杯で、ただ頭を横に振って答える。
「聖白園の奥にはね、現世で今もちゃんと生きている人達の魂があるの。もちろんこの世界でその魂を殺されたら現世でも死んじゃうの」
凛は一旦口を閉じて、間をとった。
「…僕たちが負けたってことは…分かるよね?」
そして、ここがその時まで魂が沢山あった場所だよ。
そう言われて気がついた。
自分が歩いていたことを、そして、開けっぱなしになった門の前まで来ていたことを。
門の奥を見た瞬間、頭の痛みが更に増してついに立っていられなくなり、おれは地面に膝を着いた。
「夏屶!?」
凛の声は聞こえなくなり、代わりに頭の中に何かの映像が流れてくる――
(これは……っ)
凛「今、夏屶がぶっ倒れちゃってるから今回は僕だけ♪」
夏(凛のやつ)
凛「はい、ぶっ倒れてる人が殺気なんて出さないの♪」
夏(そのぶっ倒れてる人に対して殺気を送るな!)
凛「こんなに早く主役がくるなんてね♪やっぱり日頃の行いが良いのかな♪」
(どこがだ!)
凛「ん?なんか色んなとこから声が聞こえたきがする…」
(……)
凛「う〜、ただの独り言になってつまんない…夏屶ぁぁぁあ!さっさと起きろ〜!」
夏(無理だろ、てか耳元で叫ぶな!)
凛「起きないと皆に夏屶の秘密喋っちゃうよ♪夏屶が初めて僕に会った時のこととか……」
夏「うわっ!凛、それだけは喋るな!てか本編無視して起きちゃっただろうが」
凛「ふっ」
夏「勝ち誇った顔をするな!」