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クズスキル〈等価交換〉と原作知識のシナジーがヤバすぎる! 廃嫡された俺は悪役貴族をやめてスローライフを目指したはずだったんだけど、何を間違えたのかこのままだと最強国家の王になっちゃいそうです!

作者: 赤羽ロビン
掲載日:2026/04/18

 月曜日から連載予定です! この短編は十話分になります。長い? た、確かに……


 連載版はこちらから! 

→https://ncode.syosetu.com/n1970lz/


 短編の続きは4/20(月)更新の#11からです! 応援のポイントなども大大大歓迎ですッ!

「ロイド、お前をこのウェルズリー家から追放する!」


 授かったのがクズスキルだったという理由で父からこんなことを言われた瞬間、俺は激しい頭痛に襲われた。


(家の滅亡……魔族の襲来……)


 今まで聞いたことのない言葉、想像さえしたことのない未来が頭に押し寄せてくる。その圧倒的な情報量は理不尽な扱いをする父に対する不満や近くで俺を笑っている義弟と義母に対する怒りを吹き飛ばした。


「このウェルズリー家は弟のダズリーに継がせる! お前は何処なりと行き好きに生きろ!」


 父がそう言って指を突きつけた瞬間、俺は頭を下げた。


「今まで育てて頂いてありがとうございました」


「「「なっ!」」」


 父と義弟、義母がギョッとした顔をする。そりゃそうだろう。こんな理不尽を俺が黙って受け入れるなんて思ってないだろうからな。


「有用なスキルを授からなかった私はウェルズリー家の者として相応しくありません。お言いつけの通り、出ていきます」


「お、おお……そうか。理解できたならそれでいい」


 父はまだ混乱しているようだが、それでも何とか体裁を取り繕えるくらいには落ち着いたしたらしく、いつもの調子を取り戻しつつある。まあ、自分の思った通りに話が進んでるんだから文句はないよな。  


(まあ、“今のうちは”だけどな)


 さっき俺の頭の中に流れ込んで来た情報によれば、三か月後このウェルズリー家には大量の魔族が押し寄せるらしい。それによりウェルズリー家は全員死亡。さらにそれにはとどまらず、魔族達はここバルト王国を滅ぼしてしまうらしいのだ。ちなみに唯一最後まで俺は生き残るが、それこそが不運というものだろう。何故なら俺は魔族の傀儡となり世界から保身のために国を売り渡した悪徳貴族として最後は勇者に殺されるはめになる。


(この運命を変えるにはあそこへ行くしかない!)


 とにかく魔族に捕まったら駄目だ。そのためにはウェルズリー家の領地の中で唯一魔族に蹂躙されない場所にいかなきゃならない。実はそこは……


「父さん、追放と言っても兄さんは貴族。領地くらいあげなきゃ」


 義弟のダズリーがにやにやとした笑みを口元に浮かべながらそう言った。一見俺を想っての発言に見えるが、そうじゃない。でもそれは──


「ほら、伏魔の森とかさ。役立たずの兄さんはお似合いだろ?」


 伏魔の森とは誰一人立ち入ろうとはしない危険な森だ。そこへ俺を送り込むってのは死ねと言ってるのと同じだが……


(ナイスだ、ダズリー!)


 純粋に悪意から出た言葉だが、今の俺にとっては渡りに舟と言える。何せ俺が破滅を免れるには伏魔の森に行くしかないんだから。


(それにしてもダズリーの発言もさっき頭の中に流れ込んで来た情報通りだったな)


 今の俺には何故か全て真実だという確信があるが……やはり間違いないのかも知れない。


「そうだな、ダズリー。俺には似合いの場所かも知れない」


「お前がそう言うなら……」


 父さんが同意したのは俺が死んだ方が都合が良いからだろう。生きていれば何処かでウェルズリー家の評判を落とすような行動を取るかも知れないとか考えたんだろう。


「いくらか路銀を持たせてやる。森には店も商人もいないが、お前のスキルなら生活に役立てる事ができるだろう」


「スキルが活かせる場所が見つかって良かったな、兄上!」


 勝ち誇るダズリーの顔を見ても何も思わない。だって、三か月後にはその顔は絶望に変わるのだから……



 それからしばらくすると、俺は父さんの部下達の手で伏魔の森へと送り届けられた。


「こんなところにロイド様を」

「逃げましょう! 我々がお供します!」


 ここまで俺を連れてきた騎士がそう言うが、僕は首を振った。


「駄目だ。父さんにバレたら君たちまで処分されてしまうよ」


 俺はそう言って騎士達を屋敷へと返した。この伏魔の森は彼らでさえ太刀打ち出来ない魔物もいるらしいからな。


「しかし、こんなことをシンシア様が知ったら……」


 去り際に騎士が呟いたその一言に一瞬心が揺れるが……俺はこれからすべきことに気持ちを切り替えた。


(さて、ここからは時間が勝負だ!)


 僕が得た知識──“原作知識”とか言うらしいが──によれば、この伏魔の森では時間帯によって魔物の生息域が変わる。そして、今は次に行くべき場所に魔物が出現しないらしいのだ。


(まずはアレをゲットする。そうすれば僕のスキル、〈等価交換〉で何でも手に入る!)


 僕は川へと走り出した。僕がこの森でまずすべきこと、それは……


 シュッ!


 川へと走って目指していた場所を見つけると、僕は持たされていた金貨を使い、〈等価交換〉で釣り竿を手に入れた。


(……ここはハズレか?)


 僕が得た原作知識によれば、ここは“ソード&ナイツ”というゲームに近い世界。それによれば、この伏魔の森にはゴールデントラウトと言う激レアな魚が釣れるらしいのだ。


(滅多に釣れない幻の魚だが……実は日替わりで必ず釣れる場所が出現する!)


 しかもゴールデントラウトが必ず釣れる場所は五つのポイントからランダムで選ばれる。つまり、その五つの場所の何処かはゴールデントラウトが必ず釣れるということだ!


 ピク!


 今だ!


 ビュッ! ビチビチッ!


 原作知識で釣り上げるべきタイミングも分かってる。俺は難なくゴールデントラウトを釣り上げた。


(よし、〈等価交換〉!)


 俺が手をかざすと、ビチビチとはねていたゴールデントラウトが消える。それと同時に俺にしか見えないウィンドウが開いた。


◆◆◆


5000アルを獲得


◆◆◆


 よし、次だ!


 ビュッ! ビチビチッ!


 二匹目ゲット! この調子で時間ギリギリまで釣るぞ!



 こうして魔物が出ない時間ギリギリまでつりをした俺は次に魔物が出現しないエリアへ移動した。


(まさか伏魔の森のボスの住処の入口には魔物が出ないなんてな……)


 疑問は残るが、原作知識には“ここには魔物が出ない”とあるんだから間違いない。


(ボスを刺激しないためだろうか? でも、ボスは外に出てこないのか?)


 疑問は尽きないが、その辺りは分からない。それにこれから先関わるかどうかも分からないボスのことよりも先にすべき事がある。


(まずは生活基盤を整えないとだな……) 


 ここは伏魔の森のほぼ真ん中で、ボスの住処に立ち入らない限り魔物に会うことがない場所。故に、俺の俺の伏魔の森での生活で拠点となる。


(まずは食料と水か。〈等価交換〉で何とか出来なくもないが……)


 だが、〈等価交換〉を使うには対価がいる。出来れば使わずに水や食料を調達出来る環境が欲しい。


(それに住処だな……)


 最低でも三か月はここで休むことになるだろうからそれなりに快適に休める環境が欲しい。


(まあ、当面はテント暮らしだろうが……)

 

 貴族の俺は生まれてこの方、野外で寝た経験なんてない。だが、原作知識と一緒に頭の中に流れ込んで来た誰かの記憶のおかげで不思議と抵抗はなかった。


「〈等価交換〉!」


 スキルを発動するとテントの画像が幾つも表示されているウィンドウが開く。〈等価交換〉は対価を払って必要なものをゲット出来るスキルなのだ。


(こっちは一万五千アル。あれは二万アルか)


 ちなみに対価は『アル』という〈等価交換〉でしか使えないポイントのようなものだ。この『アル』は自分の物を変換することで手に入る。ちなみに今持っているアルのほとんどはゴールデントラウトを変換したものだ。


(よし、これだ!)


 俺が選ぶと目の前にテントが現れた。使い方も何故か分かるため、俺は迷うことなくテントを立てていく。


(よし、これで良いか!)


 後は食料だな。食べられそうなものを探しに行くか。



(う〜ん。まあ、ないよりはマシだけど……)


 森というだけあって実をつける木はいっぱいある。が、食べられるものはあまりない。


(まあ、食べ物があるだけマシか……)


 ちなみに食べられるかどうかは〈等価交換〉で変換した時に入手出来るアルの量によって分かる。元貴族の俺は木の実の知識なんてないからこれだけでもかなり助かる。


(〈等価交換〉ってサバイバルだと役に立つな……)


 俺のスキル、〈等価交換〉は文字通り何かを手に入れるためには同じ価値のものを差し出す必要がある。つまり、商人がいたり、店があったりすればほぼ無意味のクズスキル。


(まさか追放されてから便利になるスキルだったなんてな)


 中々皮肉が効いてる……ってこんなこと考えてる場合じゃない。この辺りに魔物が出ない時間ももうすぐ終わる


(……ん? 採取ポイント?)


 周りと様子が違う植物を見た瞬間、俺の頭に新たな原作知識が閃いた。

(こうか?)


 様子の違う植物を調べてみると……


◆◆◆


ネンチャ草を手に入れた。


◆◆◆


 おっ、アイテムだ。しかも……


(これは素材アイテムか!)

 

 手にした途端、アルを見比べることなくそれが分かった。


(また原作知識だ!)


 ちなみに素材アイテムとはポーションなど他のアイテムをつくために使えるものだ。


(ネンチャ草はレア度は低いけど、色んなアイテムを作るのに使えるのか!)


 今は用途はないが、後々役に立つかもしれない。出来るだけ集めておきたいな。


(他の採取ポイントは……)


 採取ポイントのことを考えると何処にあるのかが頭に浮かぶ。こう言うふうに意識しないと分からない原作知識もあるみたいだな。


(魔物にエンカウントしないためのルートは……


 そう考えると、頭の中で二つの原作知識が重なる。最初に向かうポイントは……


(あっちだ!)



(ここが最後か……)


 あれから魔物にエンカウントせずに回れる採取ポイントを回った僕は大量の素材アイテムを手に入れ、そのほとんどを〈等価交換〉でアルに変換した。


 カンカン! カンカン!


 周りとはちょっと様子が違う鉱脈に〈等価交換〉で出したピッケルをぶつけると、鉱石らしき石が幾つも出てきた。


(さてさて、何が採れたのかな……)


◆◆◆


ドラグナイト鉱石✕3

鉄鉱石✕5

豪炎石✕2


◆◆◆


 おおっ、凄い!


(ドラグナイト鉱石に豪炎石! レア度★★★の鉱石じゃないか!)


 再び閃いた原作知識のおかげで採れた素材のレア度や用途も分かる。ちなみにレア度が高いほど〈等価交換〉で得られるアルは多くなるみたいだ。


 カンカン! カンカン! カンカン!


 気をよくした俺はその後も近くの採取ポイントを巡った。が……


(やべっ、そろそろ時間だ!)


 もうすぐこの洞窟に住むスケアリーバットが起きる時間だ。急いで戻らないと!


(〈等価交換〉!)


 俺は豪炎石などの★★★以上のレア度の鉱石をバックにしまい、安全地帯のテントへと向かった。


(危ない危ない。鉱石掘りが面白すぎて時間を忘れるところだった)


 が、収穫はあった。採取に必要な道具を出すのにアルを使ったが、今は七万アルだ!


(おかげで大分余裕が出来たな)


 俺はテントの中に入ると、〈等価交換〉で水とサンドイッチを出した。


(次は服かな……動きやすいやつが欲しいな)


 今俺が着ているのは家を追い出された時に着ていたもので着替えさえない。ずっとこのままという訳にはいかないしな。


(他にも机とかベットとか欲しいものは色々あるな……)


 俺は欲しいものを頭に思い浮かべながら〈等価交換〉で出せるもののリストをチェックする。服はピンキリだが、机やベットといった家具類はやはり高く安い物でも七〜八万アルはかかる。いや、テントの方をどうにかするのが先か。


(服は何着か出すとして……家具はしばらく我慢かな)


 当面食料や水の確保にはアルを使うしかないから無駄遣いは出来ない。まずは必要最低限のものから揃えていくべきだ。


(〈等価交換〉!)


 俺は服を二〜三着出すと早速着替えた。服の洗濯はゴールデントラウトが採れた川ですれば良いかな。


(ちょっと面倒くさいな……)


 洗濯をしてくれる魔導具もあるが、あれは家具なんて目じゃないくらいに高い。これも今は我慢するしかない。


(この分だとちゃんとした家を立てるまでにはまだまだ時間がかかりそうだな)


 当たり前の話だが、家となると家具や魔道具とは比べ物にならないくらいアルが必要になる。当分はテント暮らしだろう。


(いや、待てよ? 材料をちょこちょこ揃えれば安くつくんじゃないか?)


 リストを見てみると、確かに家そのものを出すより材木や煉瓦といった材料を出す方が必要なアルは少ない。が、どちらにしろアルが足りないことには違いない。まあ、それに俺にはそれを使って家を建てる技術も知識もないからどの道無理だ。


(やっぱりしばらくはテントで我慢だな)


 地味にコツコツやっていくしないかな……


 それから数日、俺は毎日採取を続けながら必要な物を少しずつ揃えていった。


(ちょっとずつだが、まともな暮らしにちかづいてるな)


 薬草を摘んだ後、そんなことを考えながらテントに戻ろうと歩いていると……


(ん?)


 茂みの中から尻尾のようなものが見える。あれは……


(獣人族の尻尾か?)


 またもや原作知識。何故茂みに? いや……


(助けないと!)


 茂みに入ると、そこには犬耳が頭についた女の子が倒れていた。しかも……


(怪我してる! )


 パッと見ただけで重症だと分かる。早く手当てをしないと!


(この傷、低級ポーションじゃ駄目だ!)


 僕は迷わず〈等価交換〉で中級ポーションを出した。


「これを飲んで!」

「……っ!」


 薄めを開けた少女は僕を見ると、ビクッと体を震わせた。実は人間と獣人は仲があまり良くない。けど今は……


「毒は入ってない。ほら!」


 僕はポーションを少し飲んだ後、傷口にポーションをかけた。こうすると傷は塞がるが、失った血液は戻らない。


(頼む、信じてくれ!)


 二本目の中級ポーションを出すにはアルが足りない。何とか飲んでくれ!


「さあ、飲んで」

「………」


 俺の必死さが通じたのか、少女はポーションを飲んでくれた。すると……


「っ!」


 中級ポーションはすぐに効果を発揮し、少女はゆっくりと起き上がった。


「傷は塞がったみたいだけど、無理しちゃ駄目だ。とりあえず安全な場所に行こう」


 僕がそう言うと少女はコクリと頷いた。



「助けてくれてありがとう。なんてお礼を言ったらいいのか……」


 次の日、すっかり元気になった少女は土下座するような勢いで頭を下げた。


「いや、気にしないで。元気になったのなら良かった」


 そう言いながら僕は若干焦っていた。


(何を言っても中々頭を上げてくれない……)


 いや、それよりも……


(めちゃくちゃ可愛い……)


 昨日は治療に必死で顔を見ている余裕なんてなかったが、助けた少女はめちゃくちゃ可愛いかった。いや、マジで。


(シンシア並みに可愛い女の子なんて見たことないぞ……)


 そういやシンシアはどうしてるかな……


「それよりどうしてこんな危険な森に? 」


 ふと頭に浮かんだ考えをかき消すようにそう尋ねると、少女はハッと口元に手をやった。


「いけない! 私、薬草を持って帰らなきゃいけないのに!」


「薬草?」


 俺がそう聞き返すと、少女は事情を説明してくれた。


(村の人が病気に……)


 俺が助けた少女──名前をリタというらしい──は病気を治せる薬草を探しにこの伏魔の森にやってきたらしい。しかし……


(魔物に出くわしてしまったという訳か)


 何とか逃げ切ったものの、傷を負って倒れてしまって……ということらしい。


「お礼は必ずします。でも、私急いでいて……」


 うーん、どうしよう。このままほっとくのもな……


(まあ、乗りかかった舟だしな)


 リタの探している薬草、癒し草はこの森ではややレアだが見つからないことはない。というか、昨日何本か見つけてアルに変換した覚えがある。けど、この伏魔の森をリタ一人で探し回るのは無理だろう。だったら…


「リタ、ちょっと相談があるんだけど……」



「全然魔物に会わない。ロイドって凄いね」


 一緒に採取にいくことになった俺とリタは例によって魔物とエンカウントしない時間帯に川へとやって来た。


「付き合わせて悪いけど、癒し草が採りに行ける時間帯はまだ先だから……」


「分かってる。気にしないで」


 俺はゴールデントラウトが取れるポイントに着くと釣り竿を取り出した。


「私も手伝うよ」

「えっ……悪いよ」


 ゴールデントラウトは美味しいし、売ればそれなりの値がつくけど、病気を治す力はない。つまり、リタの役には立たないんだけど……


「少しでも恩返しがしたいの。怪我を治してもらった上にこうして癒し草を採る手助けまでしてくれるんだもん」


 そう言って真っ直ぐ俺を見る瞳には一片の曇りもない。本当に心の底からそう思っているんだ。


「そっか……なら頼もうかな」


 中級ポーションでほぼゼロになってしまったアルが少しでも稼げれば僕も助かるし、みたいな軽い気持ちで頼んだのだが……


 ビュッ! ピクッ!


 リタが竿を振るとすぐにアタリが!


「今だ!」「うん!」


 ボタッ!


 あっという間にゴールデントラウトが釣れた。いくら釣れるポイントが分かっていてもこんなに簡単に釣れるなんて……


(竿を振ったら即ヒットって、あり得ないだろ!)


 ゴールデントラウトは警戒心が強いから餌にも簡単には食いつかない。それに食いついたとしても引き上げる時にはタイミングを合わせないとあっさり逃げられてしまう。俺も今まで何匹のゴールデントラウトに逃げられたか……


(いや、ビギナーズラックって言う言葉もあるしな)


 まあ、数日前から始めただけの俺がそんなことを言うのも変だが……って、またヒット!?


 ボタッ


 またもやリタがゴールデントラウトが釣りあげた!


「凄い! この竿よく釣れるね!」


 その後もリタが竿を振ると次々にヒットする。これはもうビギナーズラックとかそう言う話はざゃないぞ!


 ボタッ、ボタッ、ボタッ……


 僕の目の前にはリタが釣り上げた次々とゴールデントラウトが積み上がっていく。


(う、嘘だろ……)


 獣人特有の野生の嗅覚の無せる技か? いや、今はそれよりも……


(急いでアルに変換しないと!)


 ゴールデントラウトは釣り上げるとすぐに鮮度が落ちる。すぐに適切な処理をするか、アルに変換しないと価値が無くなってしまうのだ。


 ビュッ! ビュッ! ビュッ!

 ボタッ、ボタッ、ボタッ……


 僕は夢中……いや、必死でゴールデントラウトをアルに変換し続けた。



(ふぅぅ……びっくりした)


 川から離れ、鉱山へ向かった俺は未だにさっき見たあり得ない光景のショックから立ち直ることができていなかった。


(何だよ、あの爆釣ぶりは……)


 確かにポイントさえ正確ならゴールデントラウトは釣り針にかかる。が、あんなスピードでヒットしてさらには釣り上げなんてあり得ない。


(引き上げるにはタイミングが重要だし、ゴールデントラウトが餌に食いつくまでの時間は運次第なんだけど……)


 しかも、どんどん上手くなってスピードが上がっていくから回収しきれなかったゴールデントラウトまでいたからな……


(アルはどれくらい貯まったかな)


 僕がステータスを開いてみると……


◆◆◆


ロイド

LV1

力   8

防御  7

魔力  6

精神  5

素早さ 7


スキル

〈等価交換(LV1)〉 (150000アル)


装備

 服


◆◆◆


 は……?


(一、十、百、千……)


 ま、間違いない。十万アル以上ある!


(途中から数なんて数えている暇なんてなかったけど、まさかこんなことになってるなんて……)

 

「どうしたの? 早く行こうよ!」

「ごめん、今行く!」


 いつの間にか先に行っていたリタにそう返事をした俺は少し歩調を早くした。


(まあ、次はこんなことはないな。鉱石掘りは運だからな)


 そんなことを考えながら歩くと俺達は目的地へとたどり着いた。


「ここが鉱山?」


「ああ。ごめんね、真っ直ぐ癒し草を取りに行けなくて」


 原作知識によれば、魔物が出ない時間帯や場所は諸々の条件で変わるらしい。昨日と違い、今日は鉱山を先に回らなければならなかったのだ。


「ううん。むしろ感謝してる。ロイドのおかげで魔物に会わずに済んでるんだし。で、ここでは何をするの?」


「癒し草がある場所から魔物がいなくなるまで鉱石を掘って時間を潰そうと思って」


 僕はツルハシを〈等価交換〉で出し、採取ポイントに向かって振り下ろした。


 ガツン! ポロ……


(おっ……豪炎石だ。ラッキー!)


 豪炎石は★★★のレアアイテム。それが三つも出るなんて俺の運も捨てたもんじゃないな!


「わあ! 面白そう! 私もやってみてもいい?」

「良いけど、もうポーションのお礼は十分にしてもらったから大丈夫だよ?」


 ツルハシに熱い視線を送るリタにそう言うと、彼女は首を振った。


「違うの。単純に面白そうだし。勿論恩返しをしたい気持ちはあるけど」


 う〜ん、もう十分過ぎるくらいに恩返しはして貰ったけどな。


(でもまあ、本人がしたいって言うならいいか)


 このままぼんやりしてるのはかえって辛いよな。


「じゃあ、これ」

「何処を掘るの?」


 僕は〈等価交換〉でもう一本ツルハシを出し、採取ポイントの場所をリタに教えた。


「ふ〜ん。他と同じように見えるけど、場所も大事なんだね」


 どうやらリタには採取ポイントも他と同じようにしか見えないらしい。採取ポイントが分かるのも原作知識のおかげみたいだな。


「じゃあ、行くよ……えいっ!」


 ガツン! ポロ……


 リタのツルハシが採取ポイントに当たると鉱石が出てきたのだが……


(こっ……これは、天炎石!)


 天炎石は豪炎石を凌ぐレア度の鉱石だ。他の鉱石は最低でも★★★のものばかり。一体どうなってるんだ!?


「わあ、面白い! 次は何処を掘ったらあたいの?」


「えっ……えっと」


 わくわくした顔でそう聞いてくるリタに俺は次の採取ポイントの場所を指差した。



(えらいことになったな……)


 持ちきれない鉱石を変換した結果、アルは遂に三十万を越えた。


(悪いことじゃない。いや、それどころか嬉しいけど……)


 だけど、何と言うか……感覚がついていかないというか。


(しかも、アルが四十万を越えるのももうすぐだよな)


 今俺達は薬草の群生地で採取をしている。ここでもリタがゲットしたのはレア度の高いものばかりだ。


(って、★★★以下のものが出ないじゃないか……)


 ちなみに探している癒し草は★★。だから、今回は僕も頑張って採取しなきゃいけない。


(あ、出た!)


 癒し草だ。しかもまとめて三本!


「リタ! あったよ!」

「えっ、ありがとう! ロイド!」


 俺がリタに癒し草を渡すと、リタは申し訳なさそうに袋を出した。


「お願いばかりで悪いんだけど、私が採ったものと交換してくれる?」


「交換? いや、あげるよ。散々手伝って貰ったし」


 リタのおかげでアルは既に四十万弱。今や中級ポーションなんて何本……いや何十本でも手に入るぞ。


「ううん、それじゃ私の気が済まないよ! これで代わりになるかどうかは分からないけど……」


 ドサッ!

 

 受け取った袋の中には……


(なっ……)


 中には★★★★や★★★の薬草ばかり。いや、中には……


(これって黄金草!?)


 黄金草は★★★★★の薬草だ。まさかこんなものまで……


(ど、どうしよう。持ちきれないぞ……)


 バックの中は既に鉱石でいっぱいだし。う〜ん……



 癒し草を無事ゲットした後、俺はリタを村まで送っていくことにした。


「何から何までありがとう。絶対恩返しするからね!」


 村に向かう道中、リタはそう言うが、正直もう十分過ぎるくらい返してもらってる。いや……


(むしろ村まで送るくらいしてあげないと釣り合わないと言うか……)


 それにリタには無事に家族の元に帰って欲しい気持ちもある。幸い村は伏魔の森のすぐそばらしいから大した手間でもないからな。


「それにしても〈等価交換〉って凄いね。マジックバックまで出せるなんて」


 リタが採ってくれた薬草や鉱石が待ちきれなかったため、僕は〈等価交換〉でマジックバック──空間魔法を付与して実際以上に容量を増やしたバックだ──を手に入れた。大量のアルを消費したが、どうしても手放せないものが多かったのだ。


(まあ、使い終わったらアルに戻せばいいしな)


 実は採取に使った釣り竿やツルハシなんかも同じように使い終わったらアルに変換している。壊したりしなけば出した時と同じ額のアルが返ってくるから、使う時にまた出す方が荷物が減っていいのだ。


「まあ、家ではあまり役に立たなかったけどね」

  

 物を出したり片付けたりする力なんて貴族の生活には必要ない。


「ふーん、そうなんだ。って言うか、ロイドは何で森で暮らしてるの?」


「えっと……まあ、色々あって……」


 俺が〈等価交換〉のせいで家を追い出されたことを話すと、リタは凄い勢いで怒り始めた。

 

「酷い! スキルが役に立たないからって追い出すなんて!」


「いや、まあそう言う家なんだ……」


 それにあのまま家にいたら三か月後には魔族に殺されているしな。まあ、渡りに舟と言うか……


「それに〈等価交換〉は凄いスキルなのに!」


「凄い……かなぁ?」


 まあ、今役立ってくれているのは間違いないけど……


 そんなやり取りをしているうちにリタの村らしきものが見えてきたのだが……


 (……何か様子が変だな)


 遠目で見て感じていた違和感の正体は近づくにつれて明らかになった。


(襲撃されたのか!?)


「お父さん、お母さんッ!」


 俺より早く異常に気づいたリタが走り出す。少し遅れて村を覆う柵のあちこちに大きな穴が空いているのが見えた。


(大きさから見て魔物か!)


 リタを追って村に入ると、あちこちに怪我をした人が!


「お父さん!」


 リタの悲鳴だ!   


「ロイド、お父さんが!」


 リタの元に駆けつけると、彼女のお父さんらしき人が寝かされている。


「これを!」


 俺が迷わず渡した中級ポーションを受け取るとリタは礼を言ってお父さんに飲ませた。


「お父さん、飲んで!」

「リタ……これは?」


 リタのお父さんは事情が分からないようだったが、素直にポーションを飲んだ。すると……


「……っ!」


 リタのお父さんは突然起き上がった!


「痛みがない! 体も動く!」

「お父さん、まだ動かないで!」


 今にも立ち上がりそうなお父さんをリタが必死に止める。ポーションは魔力が込められてるから薬草よりもかなり早く効果が出るが、一瞬で全快する訳じゃない。最低でも一晩は様子をみないと。


「そうはいかない! 傷が治ったなら助けにいかな……っ!」


 外に飛び出そうとしたリタのお父さんは急に崩れ落ちる。そりゃそうだ。ついさっきまで重症だったんだからな。


(あれ……でもさっき“助けに”って言ってたな)


 魔物はもう村にはいないみたいだけど……?


「何で無理して動こうとするの!? 死んじゃうよ!」


「す、すまん。だが……」


 泣き出しそうなリタをなだめながらお父さんは事情を説明してくれた。


(魔物に連れ去れた人がいるのか!)


 どうも魔物達は村を襲撃した後、村人を数人連れ帰ったらしいのだが……


(相手はレッドアントだ!)


 脳裏に相手の姿や行動パターンや強さなどが浮かんでいく。また原作知識が降りてきたらしい。


(レッドアントは獲物を生きたまま巣に持ち帰り、幼虫の餌にする習性がある……)


 だが、幼虫はまだ孵っていない……そんな気がする。そして……


(リミットは明日の朝か)


 根拠はない。が、何故か確信出来る。“サブクエスト”という言葉が脳裏を過ぎるが、何のことだ?


「こうしている間にも仲間が……早く行かなくては!」


「駄目だよ、お父さん! 死んじゃうよ!」


 リタの言う通りだ。連れ去られた獣人達を助けるためには……


「俺が行きます。だから、休んでいて下さい」


「何!?」



 それから俺はリタのお父さんを説得し、何とか信用してもらって村を出た。


(こっちに行けば巣に着くんだよな)


 原作知識のおかげで大まかな場所は分かっている。そして、巣についたら攫われた村人を探す訳だが、奴らとの戦闘は避けられない。だが……


(普通に戦えばレベル1の俺では勝てるはずもないな)


 原作知識によればレッドアントの推奨討伐レベルは25。ハッキリ言ってパラメーターは天と地ほどの差がある。普通なら勝てるはずもないのだが……


「ギギッ!」


 見つかった!


(斥候……いや、見張りか?)


 レッドアントは集団で行動する魔物。こいつは巣に近づく敵を見つけて仲間に知らせる役割を持っているのだろう。


(速攻で倒す!)


 俺はマジックバックから小瓶を取り出して投げつけた!


 パリン! シュワシュワッ……


 レッドアントが泡で包まれていく。すると……


「ギィィィ!」


 小瓶に入っていたのは発泡薬という薬品。本来は家や城壁を洗うためのアイテムだが、実はレッドアントに使うと一撃で倒すことが出来るのだ。


(レベル上げをしていなかった時の“キュウサイソチ”らしいが……”キュウサイソチ“って何だ?)


 まあ、とにかくこれでコイツは倒せ──


「ギギギ!」「ギギギ!」


 くっ、新手か! 


 ビュッ! パリン! シュワシュワ……


 右手のレッドアントに発泡薬が当たるが、左側にいた奴は直撃してない!


(くそっ、間に合えッ!)


 だが、分かっていた。ヤツの攻撃の方が速いと。


(くらった!)


 ヤツの顎が俺に迫り──

 ブンッ!


「ギィィィ!」


 空気を切り裂くような音と共にレッドアントが悲鳴を上げる。今だ!


 パリン! シュワシュワ……


 泡がレッドアントを包み込む。よし、やったか。


「えへへ、役に立てたかな?」


 リ、リタ!?


「ロイドに頼りっぱなしじゃ嫌だからついてきちゃた」


 ついてきちゃたって……危険から待っててくれって言ったのに!


「あ、お父さんにはオッケーして貰ってるよ。ほら!」


 呆れる俺にリタは手にした剣を見せつける。彼女の手には少し余るそれはお父さんの剣なのだろう。


(まあ、確かにさっきは危なかったしな……)


 それに自分の村のことなのに自分が何も出来ないってのは辛いか。


「……分かった。でも危なくなったら逃げてくれよ」


「やった!」


 笑顔を浮かべるリタにため息をつきながら、僕はステータスを開いた。



◆◆◆


ロイド

LV12

力   30

防御  29

魔力  28

精神  27

素早さ 29


スキル

〈等価交換(LV2〉 (450000アル)


装備

 服

 アイアンナイフ


◆◆◆


 レベルが12! めちゃくちゃ上がってる!


(レッドアントを三匹倒したからか)


 それに〈等価交換〉のスキルレベルも上がってる!


(何が変わったんだろう……っ!)


 スキルレベルが上がったことによる変化。それは……


(スキルが手に入るようになってる!)


 ポーションやツルハシといったアイテムだけじゃなく、スキルも表示されている。つまり、アルさえあれば好きなスキルが手に入るってことか!?


(……まあ、バカ高いけどな)


 スキル習得に必要なアルは最低でも十〜二十万アル。戦闘用のスキルになると最低でも五十万アル以上だ。  


(今手に入るものだと〈遠視〉に〈集中〉。後は……)


 どれも一般的にはハズレと言われるスキルだ。使えない訳では無いが、やはり戦闘用のスキルが当たりだと言われることが多いからな。


(”等価交換”だから価値があるものは高くなるよな)


 戦闘用のスキルが手に入ればレッドアントとの戦いが楽になるのは間違いない。が、そのためにはマジックバックを手放してアルを増やす必要がある。


(けど、今マジックバックを手放すと持てる発泡薬が大分少なくなるな……)


 切り札とも言える発泡薬が大量に入っているマジックバックは手放せない。そうなるとやはり今役に立ちそうなスキルはないな……


(ん? これは……)

 

 俺の目に〈調合〉と言うスキルが映った瞬間、再び原作知識が降りてきた!



 準備を終えた後、俺達は再び巣へと向かって歩き出した。が、すぐに……


「ロイド、二時の方向から近づいてくる!」

「分かった!」


 次の瞬間……


「ギギッ!」

「ギギギッ!」


 レッドアントが二匹。だが、リタが事前に教えてくれたおかげで準備は既に整っている。


「〈調合〉!」


 さっき習得したばかりのスキル、〈調合〉は本来毒消しなどのちょっとした薬品を作るためのもの。しかも、それもポーションなどの劇的な変化をもたらすものは作れない。だから間違っても戦闘用にはなり得ないハズレスキルだ。


(けど、〈調合〉は〈アイテムボックス〉の中にある素材を使った場合、即座に効果を発揮させることが出来る……)


 例えばこの辺りに生えているハズレ素材、アワダチ草とネンチャク草。これで発泡薬を〈調合〉すると……


 シュワシュワッ!


 即座に効果を発揮させればアイテムにしてから使うよりも凄い勢いで泡が立つ。つまり……


「「ギィィィ!」」


 二匹のレッドアントが泡に包まれて悲鳴を上げる。よし、やった!


(原作知識がなければこんな使い方は思いつかなかったな……)


 〈アイテムボックス〉と〈調合〉を習得したせいでアルはほぼなくなったが、これだけ威力が上がるのはデカいな。


 タッタッタ……


 俺がレッドアントのドロップを回収終わるとリタが近づいてきた。


「お疲れ様、ロイド。これ、使えるかな」


 そう言ってリタが渡してくれたのはアワダチ草とネンチャク草だ。俺がレッドアントの素材を回収している間にリタは周囲を警戒しながら集めてくれたみたいだ。


(採取ポイントじゃないと、リタの採取もさほどレア度が高くない素材になるんだな)


 だが、これならアワダチ草とネンチャク草の残量をあまり気にせず戦えるな。


「よし、行こう!」

「うん!」


 俺達は再び巣に向かって一直線に進む。すると……


「ロイド!」


 再びレッドアントだ!


「ギギッ!」

「ギギギッ!」


 だが、問題ない。俺はさっきのように〈調合〉を発動させた!


「「ギィィィ!」」


 よし、これならいける!



 巣まで楽勝かと思ったのだが、近づくにつれ、レッドアントの数はどんどん増えていく一方だった。


「「ギギッ!」」

「〈調合〉!」

「「ギィィィ!」


 ふぅ、やった。


「「ギギッ!」」


 ……ってもう次か?


「〈調合〉!」

「「ギィィィ!」」


 よし、さっきの奴の分もドロップを回収して……


「「ギギッ!」」


 げっ、またか!?


「〈調合〉!」

「「ギィィィ!」」


 こんな具合できりが無い。リタも素材を回収する暇がなく、アワダチ草とネンチャク草は減る一方だ。


(まあ、〈等価交換〉ならいつでも補充できるけど)


 どちらもハズレ素材だから出すのに必要なアルはかなり少ない。だからレッドアントの素材をアルに変換すれば十分に足りるし、発泡薬もまだある。


「ロイド!」

「ああ」


 そうこうしているうちにレッドアントの巣が見えてきた!


(見た目は巨大な蟻塚みたいだな……)


 だが、巣は地下にある。目の前の高い塔の様な砂の山は地下を掘った時の砂を積み上げただけなのだ。


(問題なのはこっちか……)


 巣の周りにはレッドアントだらけ。巣に入る前にコイツらをどうにかしないとな。


「村の人達は奥にいるはずだ」

「うん。行くしかないね」


 リタが勇敢にもそう言うが、実は目の前のレッドアントを全て相手にする必要はない。


(〈調合〉……) 


 原作知識にあったようにレッドアントの素材、赤蟻の腑と〈等価交換〉で手に入れたアカジアの蜜を材料にして〈調合〉すると……


(出来た!)


 レッドアントを惹きつける餌、赤蟻マタタビの出来上がりだ!


「リタ、遠くへ投げてくれ!」

「分かった!」


 言うが早いか、赤蟻マタタビは遥か彼方へと飛んでいく。すると、それを追ってレッドアント達が巣から移動を始めた。


(……そろそろか)


 巣から出てくるレッドアントがいなくなったのを確認してから僕達は巣へと足を踏み入れた。


「……分かれ道がいっぱいだね」


 リタは不安そうにそう言うが、実は道は既に分かってる。でも、原作知識のことをどう伝えたら良いか分からないんだよな……


「大丈夫。基本的に下へ向かえば村の人がいる部屋に着くから」


「分かった。ありがとう、ロイド」


 結局そんな曖昧な言い方しか出来なかったが、リタの不安は何故かマシになったみたいだ。


 ザッザッザッ……


 赤蟻マタタビの効果もさほど長くは続かない。警戒しながらもどんどん進んで行くと……


「ギギィ!」

「ギィ!」


 奥からレッドアントが! いや、コイツらは……


(レッドアントナイトだ!)


 レッドアントナイトは見た目は頭の上にある突起くらいしか違いがない。が、通常のレッドアントよりもパラメーターが高い上位種だ。


「リタ、気をつけて! コイツらはさっきまでの奴らとは別物だ!」


「分かった!」


 レッドアントナイトも発泡薬が有効なのは一緒だ!


(〈調合〉!)


 シュワシュワッ!


 狭い通路だから広がるのも早い。瞬く間にレッドアントナイトは泡に包まれた。が……


「ギギギィ!!!」


 二匹共泡を突っ切ってこっちに向かって来る! くっ、通常のレッドアントよりも生命力も高いからか!


「ギィッ!」


 レッドアントナイトが鉤爪のついた前足を振り上げる。クソッ、かわし切れな──


(あれ?)


 スカッ……


 絶対に間に合わないと思ったのだが、反射的に飛び退いただけで奴の鉤爪は俺から外れて地面に刺さった。そして……


「ィィィ……」


 そのまま息絶え、ドロップを落とす。ようやく発泡薬が効いたみたいだ。


「ロイド、大丈夫?」

「ああ」


 見るとリタに向かっていたレッドアントナイトも倒れている。彼女も無事だ。


(そうか、レベルアップでパラメーターが上がったからか!)


 ここに来るまでバタバタしてたからステータスを開いてなかった。奥に進む前に確認しておこう。


◆◆◆


ロイド

LV27

力   60

防御  59

魔力  58

精神  57

素早さ 59


スキル

〈等価交換(LV2〉 (5000アル)

〈調合〉

〈アイテムボックス〉


装備

 服

 アイアンナイフ


◆◆◆


 LV27だって!?


(レッドアントを倒しているうちにここまでレベルが上がっていたなんて!)


 でも、これならさっきの攻撃をかわせたのは納得だ。


「LVが25! 何で!?」


 リタもレベルアップしてるみたいだな。


(油断は禁物だけど、これならいけるな)


 俺達は再び先に進みはじめた。

「みんな!」

「リタお姉ちゃん!」


 原作知識通りに進んだ先には糸のようなもので身動きが出来なくなっている村人達がいた。


「リタ、一体どうやって……」

「話は後! 早くここを出ないと!」


 村人達もまだ安全なじゃないと理解しているらしい。体を拘束している糸のようなものを何とかしようともがき始める。だが……


 ピキ……ピキッ


 奥から何かが割れる音がする。


(レッドアントは幼虫の餌にするため生きたまま獲物を巣に運ぶ習性がある。ってことは……)


 ピキピキ……パリィィン!


「ィィィ!」


 気味の悪い声と共に奥から白い幼虫が一匹こちらに這ってくる! 


「ひっ!」

「大丈夫! 一匹くらい私が……」


 剣を構えたリタが怖がる村人を庇うように前に出る。しかし……

 

 パリィン! パリィン! パリィン!


 卵が次々に孵っていく。一体いくつ卵があるんだ!?


「リタ、みんなを動けるようにしてくれ。幼虫は俺が何とかする!」


「分かった!」


 ビュッ!


 リタに声をかけた隙に最初に孵った幼虫が吐いた糸が左手に当たる。くそっ、左手が封じられたか!


(レッドアントは幼虫と成虫で体の作りが違うから発泡薬は効かないんだったな……)  


 成虫のように硬い外殻はないが、致命的な弱点もない。地味に戦うしかないのだ。


(とはいえ、今のレベルなら勝てない相手じゃないが……)


 厄介なのは数だ。一匹一匹話大したことがないが、四方八方からさっきみたいに糸を吹きかけられたすぐに身動きが出来なくなるのは目に見えている。


 ブス!  「ィィィッ!」


 〈等価交換〉で出した剣で幼虫を倒すが、この間にも幼虫はどんどん孵っていく。このままじゃジリ貧だ。 


(せめて村人達を拘束している糸が外せれば……あっ!)


 これは……そうなんだ!


(〈調合〉!)


 シュワシュワッ!


 俺は降りてきた原作知識の通りに発泡薬を合成する。だが、相手は幼虫じゃない。発泡薬を浴びせるのは……


「わわっ!」

「泡!?」


 村人達はあっという間に泡に包まれる。そして……


「糸が……消えた!」

「動けるぞ!」


 幼虫に発泡薬は効かない。が、幼虫が吐き出す糸は溶かすことが出来るのだ!  


「リタ、みんなを頼む」


 僕は〈アイテムボックス〉から発泡薬を幾つか取り出してリタに渡した。赤蟻マタタビの効果ももう切れる頃だ。急いで脱出しないと!


 ダダダダッ!


 幼虫が泡に怯んでいるうちに俺達は村人を連れて部屋を出た。前でリタに皆を出口へと先頭してもらい、俺は後ろで幼虫を押し止めるつもりだ。


 ブン! ブン! ブン!


 道幅が広くないから剣を振るえば牽制には十分だ。


 ビュッ! ビュッ! ビュッ!


 くっ、糸で動きを封じるつもりか! けど……


(〈調合〉ッ!)


 シュワシュワッ!


 〈アイテムボックス〉の中にあるアイテムが材料なら〈調合〉は腕を封じられても発動出来る。だから、糸を受けても直後に発動すれば何とか間に合うぞ!


「「「ィィィィィィ!」」」


 おまけに発泡薬の泡で滑るせいか幼虫の動きが鈍る。よし、これなら逃げ切れる!



「はあはあ……」

「た、助かった……」


 巣から出た後、そのまま安全な場所まで移動した後、俺達は一休みすることにした。獣人ということもあって皆体力はあるが、子どももいる。それに拘束されていた直後の全力疾走は流石に体にこたえるはずだ。


「良かったらこれを」

「ありがとうございます」


 俺はリタにも手伝って貰って〈調合〉で作った飲み物を配る。この飲み物には疲労回復効果があるらしいから少しは楽になるはずだ。


「リタも飲んで。お疲れ様。あと一息だ」

「ありがとう、ロイド」


 リタは飲み物を受け取って一口飲む。が、すぐに俺を見て首を傾げた。


「ロイドは飲まないの?」

「あ、実は材料が……」


 アルを使えば補給出来るが、材料に使う高級ハチミツは出すのに必要なアルが高めなのだ。


「じゃあ、これ、半分こしよ! はい」

「え……」


 リタが渡してくれた飲み物を反射的に受け取る。けど、これって間接── 


「お〜い! そろそろ出発出来るぞ〜」


 皆も一息つけたらしい。村に着くまで安全とは言えない。先を急がないと!




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