第9話 謁見
どれくらい時間が経ったのかはわからない。
気がつけば私は玉座の前に立たされ、改めて「謁見」の場が整えられていた。
赤い絨毯の上、ずらりと並ぶ騎士たち。
天井近くから差し込む光が、王冠を戴く皇帝の姿を照らしている。
その隣には、気品に満ちた皇后。
二人の視線は厳格でありながら、不思議と温かさを帯びていた。
「名を聞こう。異世界より召喚された娘よ」
低く響く皇帝の声に、私は慌てて背筋を伸ばす。
「あ、あの……篠原、さや……です」
「シノハラ・サヤ。女神の神託に従い、我らはそなたを聖女として迎え入れる」
皇帝がそう告げると、大広間に再びざわめきが走った。
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ふと横に目を向けると――立っていたのは、一人の青年。
淡い金髪、真っ直ぐな青い瞳、堂々たる佇まい。
彼がこの国の皇太子であり、勇者なのだと紹介される。
(……なにこれ。教科書に載るレベルの王子様じゃん……)
思わず心の中でつぶやく。
その隣に寄り添うように立つのは、一人の令嬢。
柔らかな微笑みと上品な物腰に、思わず息を呑む。
彼女は皇太子の婚約者で、公爵家の娘だと説明された。
(わ……まさに完璧な令嬢。しかも、めちゃくちゃいい人そう……)
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神官が一歩前に進み出る。
「聖女さま。女神はこう仰せになりました。――“聖女と勇者、二人の力をもって国を救え”と」
その言葉が、大広間の空気を一層引き締める。
つまり私は、この国を救う「聖女」として召喚されたのだ。
(……えっと。どういうことなの、ほんとに)
混乱は消えていなかった。
でも――確かに、彼らの視線には期待と信頼がこめられていた。
それを前に、ただ「いやです」なんて言えるはずがなかった。
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こうして私は――15歳のただの女子中学生から、異世界の「聖女」へと歩みを踏み出すことになったのだった。




