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第30話 港への決意

 西の村での戦いから数日が経った。


 あのときの倦怠はすっかり抜け、光を扱う手応えが戻ってきている。

 結界、浄化、回復……忘れていた手順も、少しずつ思い出せてきた。


(……アウラ様の言葉どおり、力は戻ってきてる)


(まだ不完全。でも、もう“動ける”)


 そんな確信を胸に抱いて街へ戻った、そのとき。


 広場で――妙な視線を感じた。


 人々が、私を見てひそひそと話している。

 目が合うと、慌てて逸らされる。


「この前、西の村を救った人らしいぞ」

「いや、ただの冒険者って言ってたって」

「でも……光を操るなんて、本当にただの人間か?」


 その言葉に、思わず足が止まる。


(……やっぱり、噂になってる)


 否定はした。

 でも祠の前で光を放ったのを見られた以上、完全に隠すのは無理だ。


 ――そして。


 噂というのは、必要な相手にだけ都合よく届く。


 まるで、誰かが“届けた”みたいに。


 背筋に冷たいものが走った。


 それから数日後。


 宿の前で、馬車が止まった。


 降り立ったのは、異国風の装飾をまとった兵士たち。

 無駄のない動き。揃った足音。

 そして胸元の紋章――見覚えがある。


(……勇者召喚を行った国の紋章……!)


 心臓が跳ねた。


 先頭の男が、一歩前へ出る。

 口調は丁寧。けれど、目は獲物を値踏みする獣のそれだった。


「篠原さや殿。――お前に話がある」


 名前を言われた瞬間、胃の奥が冷える。


(……もう特定されてる)


「我らの主は、光を操るあなたに興味を持たれている」


 周囲の人々がざわめいた。

 宿の主人が顔を引きつらせ、通りすがりの冒険者が一瞬だけ手を止める。


 逃げ道はある。

 でもここで騒げば、こちらが“何かある”と認めることになる。


 私は息を整え、静かに答えた。


「……私はただの冒険者です。あなたたちの探す相手ではありません」


 兵士は薄く笑った。


「そうですか。なら、確認させていただくだけです」


 確認。


 その言葉に、ぞっとした。


(丁寧な言い回しのくせに、中身は“連行”だ)


 私は一歩引き、目を細める。


「帰ってください。私はどこの国にも属しません」


 それだけ言って、背を向けた。


 背中に視線が突き刺さる。

 だが、振り返らない。


 分かっている。


 ――彼らは諦めない。


 勇者とともに召喚された“聖女”の噂は芳しくない。

 それでも「光を扱える者」は、喉から手が出るほど欲しい存在なのだろう。


(放っておけば、また来る)


(次は“確認”じゃ済まない)


 そして何より。


(この街に長くいるほど、私は“狙われる”)


 夜。

 窓辺に座り、暗い街を見下ろしながら考えた。


 ルミナス大陸。

 女神セレスティアが守護する地。


 あの人が生き――そして。


 私が初恋を抱いた国。


 二十五年。

 私が知らない時間が、あの国を塗り替えている。


 怖い。

 行った先で何を見せつけられるか分からない。


 ――それでも。


(もう待てない)


 少しは力も戻った。

 ここに留まる理由は、もうない。


 むしろ、留まるほど危険が増すだけ。


(巻き込まれる前に、私が動く)


 決意が、静かに固まった。


 海を渡る。

 セレスティアへ行く。


 アウラの姉を救うために。

 そして、私自身の答えを確かめるために。


 翌朝。


 私は街の港へ向かった。


 潮の匂いが胸に広がり、波の音が耳を満たす。

 帆船がきしむ音。荷を積む掛け声。

 空を横切るカモメの影。


 港は、出会いと別れの匂いがした。


(行く)


(ルミナス大陸へ)


(……セレスティア様のもとへ)


 そして――あの国の人々のもとへ。


 遠く霞む水平線の先に、私の本当の目的地がある。

 二十五年の歳月に閉ざされた場所。


 怖い。

 でも、逃げない。


 私は拳を握りしめ、船着き場の列へと歩を進めた。


 旅立ちの時は――もうすぐだ。


 その背中に、潮風が強く吹きつけた。


 まるで――「戻るな」と言うように。


 私は、歩みを止めなかった。

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