第25話 試練の山と聖なる翼
(;゜Д゜) (゜Д゜;) (;つД⊂)ゴシゴシ (゜Д゜)え …
ラ、ランクイン…だと!?
アウラから告げられた使命。
――「堕ちた聖獣を救いなさい。それが、あなたの力を取り戻す最初の試練となる」
その言葉が、まだ胸の奥で熱を持っていた。
私はひとり、山へと足を踏み入れる。
(試練って言われても……どうしたらいいんだろう)
不安はある。
当然だ。私は勇者じゃない。剣の達人でもない。
でも、引き返すという選択肢は最初からなかった。
岩肌を覆う霧が白くたなびき、ひっそりとした山頂の空気を満たしていた。
草木は少なく、足元は冷たい石だらけ。
風が吹くたび、霧がうねるように流れる。
やがて――。
風に乗って、低い唸り声が聞こえてきた。
私は息を呑んだ。
霧の奥に、岩壁の裂け目がある。
洞窟だ。
その奥から、黒い瘴気が滲み出していた。
(ここ……)
足がすくむ。
けれど私は歯を食いしばり、洞窟へ踏み込んだ。
洞窟の奥。
そこにいたのは、神話から抜け出したかのような存在だった。
獅子の強靭な体。
鷲の鋭い翼。
聖獣グリフォン。
本来なら太陽を背に悠然と飛ぶはずのその神獣は、黒い瘴気に絡め取られ、鎖に縛られたまま地に伏していた。
黄金の羽は煤け、輝きを失っている。
瞳には濁った怨念が渦巻き、それでも――その奥にかすかな光が、まだ確かに残っていた。
呼吸のたびに身体が震え、苦しみに耐えるように爪が地面を削っている。
「……なんて、悲しい姿」
威厳あるはずの存在が、苦しみによじれている。
それだけで胸が裂けそうになった。
(これを……救う)
口に出すのも怖い。
でも、ここまで来た以上――やるしかない。
「大丈夫。あなたは……まだ、戻れる」
私はそっと近づき、震える両手を胸の前で合わせた。
忘れていたはずの祈りの仕草。
なのに指先は自然と形を作り、唇は懐かしい響きを紡ぎ出す。
――言葉が、勝手に出てくる。
――光よ。清らかなるものよ。すべての穢れを洗い流し、命を還せ。
(……私、こんなの覚えてたっけ)
胸の奥が熱い。
心臓が、鼓動とは別のリズムで脈打つ。
封じられていた光が、目を覚ますように息を吹き返していく。
「……聖なるものよ、還れ」
呟いた瞬間。
私の身体から、黄金の光が溢れ出した。
それは炎ではなく、風のように柔らかい光。
霧を払い、空気を清め、夜明けのような温もりを広げていく。
続いて――白銀の輝きが迸った。
「ヒール」と呼ぶにはあまりに壮大で、浄化の光そのものだった。
淡く揺らめく粒子が舞い、まるで夜空の星屑が降り注ぐように洞窟を満たしていく。
グリフォンを絡め取っていた瘴気が、ぎちぎちと軋む音を立てた。
黒い影が悲鳴を上げるかのように渦を巻き、光と闇がぶつかり合う。
「……っ!」
思った以上に、身体が持っていかれる。
膝が震える。
喉の奥が焼けるように痛い。
(これ……私の力なのに、制御できない……!)
それでも祈りを止めなかった。
目の前の聖獣が苦しんでいる。
その姿が、私を前へ押した。
やがて――。
グリフォンの羽根一枚一枚が、光を取り戻し始めた。
煤が剥がれ落ちるように闇が消え、黄金の輝きが蘇っていく。
それはただの「浄化」ではない。
失われた尊厳が甦る、儀式のようだった。
その瞬間。
鎖が軋み、砕ける音が洞窟に響いた。
グリフォンは天を衝く声で咆哮した。
怒りでも嘆きでもない。
解放の声。
苦悶の叫びが次第に歓喜の調べへと変わり、洞窟の空気が一気に澄んでいく。
霧が吹き飛び、山頂の空が一瞬だけ晴れた。
そして――その瞳が、静かに私を映す。
懐かしい感覚が胸を打つ。
あのとき、仲間と並んで祈り、救い、支えてきた数々の戦い。
聖女として歩んだ日々が、一気に蘇る。
(……ああ、これ……私の力だ)
胸の奥が熱くなる。
長い眠りから目覚めるように、封じられていた力が流れ込み、全身を満たしていく。
懐かしい。
けれど確かに、今の自分のものとして。
グリフォンは膝を折り、その額を私に差し出した。
その仕草に応えるように、私は静かに手を触れる。
――光が一閃し、彼の額に紋が刻まれる。
聖なる加護の証。
その瞬間、澄み渡る金の瞳が私を射抜いた。
『……人の子よ。汝の光、我が魂に届いた』
その眼差しは試すものではなく、古の守護者が「後継者」を認めるものだった。
『この羽根を、証として託そう』
『いずれ汝が歩む道に影が差すとき――我ら一族が空より導きを与える』
宙に浮かんだ一枚の羽根が、音もなく私の掌へ舞い降りる。
触れた瞬間、心臓の奥が震えた。
胸の内側に、確かな温かさが灯る。
内なる光が、ほんの少しだけ強まったのが分かった。
(……これが、私の力)
指先が震える。
怖い。でも――どこか懐かしい。
私は確信する。
聖女としての力が、確かに息を吹き返したのだと。
ただし、まだ完全ではない。
(……でも、始まったんだ)
私の二度目の人生は。
シリアスモードに失礼しました。
あまりの感動に。
皆様のおかげです。
下の★をポチっとしていただけると、とても励みになります。
なかなか、恋愛にははいりませんが、来月も毎日投稿しますので宜しくお願いします。




