第24話 懐かしき神殿にて
今週も一週間がんばりましょう~
ある日の午後。
ギルドでの騒ぎも少し落ち着き、依頼をこなして小金もできた私は、ふらりと街外れの神殿へ足を運んでいた。
(……なんとなく、懐かしいんだよね。神殿って)
白い石造りの大きな建物。
高い天井、並ぶ柱。
差し込む光は柔らかく、空気にはほのかに聖油の匂いが混じっている。
前の人生で見た神殿と、雰囲気がよく似ていた。
思わず苦笑が漏れる。
(まあ、今回はただの気まぐれ。観光みたいなものだし)
(別に参拝したいわけでもない。信仰心もそんなにない)
そう思っていた――のに。
ふいに、胸の奥がずきんと熱くなった。
「……え?」
心臓を掴まれたような感覚。
視界が揺らぎ、足元がふわりと浮く。
周囲の人々の声が遠のいていき、まるで世界から切り離されたみたいに静かになる。
(なに……これ)
気づけば私は、真っ白な空間に立っていた。
どこまでも広がる光の世界。
床も壁も天井も分からない。ただ、白だけが広がっている。
そこに、柔らかな声が響いた。
――「ようやく会えましたね。愛し子よ」
背筋がぞくりとする。
振り返ると、そこにいたのは――。
流れる金髪と深い青の瞳を持つ、美しい女性だった。
白い衣をまとい、優しく包み込むような雰囲気をまとっている。
見ているだけで胸がじんと温かくなり、思わず息を飲んだ。
「あなたは……」
――「私は女神アウラ。この大陸を守護する者です」
女神。
言葉だけで、空気の重みが変わった気がした。
アウラは穏やかに微笑み、続ける。
――「そして……姉を助けてほしいと願う者でもあります」
「……姉?」
私は呆然と立ち尽くした。
けれどアウラは落ち着いた声で、私に告げる。
――「あなたは二度目の召喚者。しかし今は、力を封じられている」
その言葉に、胸の奥が嫌な形で納得した。
(やっぱり……)
――「聖女の痕跡を隠すために、私がそうしました。あの国に利用されぬように」
「……やっぱり、封じられてたんだ」
口に出した瞬間、喉が渇く。
私はずっと不自然に思っていた。
魔力ゼロ。
聖女扱いされたのに、力がない。
でもそれは「ない」んじゃなくて、「隠されていた」。
アウラは静かに頷いた。
アウラは視線を落とし、少しだけ表情を曇らせた。
――「そして――遠い別の大陸で今、私の姉が苦しんでいます」
その言葉に、私は眉をひそめる。
「苦しんでる……?」
――「姉の大陸では不幸が重なり、皇帝や皇子たちが次々と倒れました。民は混乱し、教会の一部が暗躍しています」
皇帝。皇子。教会。
知らない単語が次々と並ぶ。
なのに胸の奥がざわつくのは、ただの作り話に聞こえないからだ。
――「姉は力を削られ、聖なる守護獣までも囚われました」
守護獣。
その響きに、背筋がひやりとした。
私はごくりと唾を飲んだ。
知らない国の、知らない話。
でも――聞いているだけで心が落ち着かない。
「それで……私に何を?」
アウラはまっすぐに私を見つめる。
――「力を解放してください。姉を救うために」
その声は優しいのに、逃げ道を許さない強さがあった。
――「ですがまず、試練を越える必要があります」
アウラが手をかざすと、白い空間に黒い幻影が浮かび上がった。
黒く淀む山。
不気味な霧。
空が暗く、息をするだけで心が重くなるような場所。
――「そこに堕ちた聖獣――グリフォンがいます」
「……グリフォン」
伝承でしか聞いたことのない聖獣の名に、私は息をのんだ。
――「討伐ではなく、救済を。それが、あなたの始まりとなるでしょう」
――「討伐ではなく、救済を。それが、あなたの始まりとなるでしょう」
幻影の山を見つめながら、私は息を吐いた。
……救済。
討伐じゃない、助けろってこと。
言葉にすれば優しい。
でも、その裏にあるのはきっと――命がけの試練だ。
(やっぱり、楽させてはくれないんだ……)
私は苦笑いした。
けれど、その笑いはすぐに消える。
胸の奥がじわじわ重くなる。
だって私は――ただの元OLだ。
剣道をやってたからって、魔物と戦えるわけじゃない。
まして聖獣なんて、伝説の生き物だ。
(……怖い)
思った以上に、素直な感情が湧いてきた。
私は拳を握りしめ、アウラを見上げる。
「……私に、できるの?」
声が少し震えた。
アウラは静かに微笑む。
その笑みは優しいのに、揺るぎがなかった。
――「できます。いいえ……あなたにしかできません」
「私にしか……?」
――「あなたは二度目の召喚者。前に歩んだ道を知り、そして今は違う道を選べる存在です」
その言葉が胸に刺さる。
知っている。
確かに私は、この世界の何かを“知っている”。
だけど――だからこそ怖い。
(もし、前と同じ結末になるなら?)
私は思わず口を開いた。
「でも……この国には聖女様がいるんじゃないの?」
ギルドでも散々言われた。
勇者と聖女が召喚されたって。
なのに、私がやる必要があるの?
アウラの目が、わずかに冷たくなる。
――「……詳しくは今は話せませんが彼女には難しいのです」
「え……?」
――「彼女には、聖女としての力はありません。癒しの適性はあるでしょう。ですが“聖女”の核となる力には届かない」
私は呆然とした。
(じゃあ、あの子は……)
思い出す。
玉座の前で得意げに微笑んでいた高校生の少女。
あれは、本当に“聖女”だったのか?
(……やっぱり。あの国、信用できない)
私は唇を噛んだ。
「じゃあ私は……本物の聖女ってこと?」
その問いに、アウラは少しだけ目を伏せた。
――「あなたは、聖女として召喚された者。……そして、封じてもなお力が漏れ出すほどの器を持つ者です」
心臓が強く打つ。
怖い。
でも、どこかで納得してしまう。
魔力ゼロのはずなのに、身体が勝手に動いた。
アイテムボックスを使えた。
この世界の空気が、時々「懐かしい」と感じた。
全部、偶然じゃなかった。
私は息を吸い込み、吐き出す。
「……でも」
言葉が詰まる。
(また利用されるのが怖い)
(また、捨てられるのが怖い)
(また、誰かの都合で生きるのが怖い)
それでも。
アウラは、私から目を逸らさなかった。
――「あなたが選びなさい」
静かな声が響く。
――「この世界から目を背け、何も知らないまま生きることもできます」
――「ですが、それでは姉は救われない。聖獣も救われない。……そしてあなた自身も、いつか必ず追い詰められる」
逃げ道を用意しながら、逃げることを許さない言葉だった。
私は肩を落とし、笑ってしまった。
「……ずるい」
――「ええ。私は女神ですから」
あまりにも堂々と言われて、逆に笑いが漏れた。
そして私は、震える指先を握りしめる。
(私は……どうしたい?)
答えは、すでに胸の奥にあった。
怖い。
でも、あの国にいいようにされるのはもっと嫌だ。
私はアウラを見上げる。
「……分かった。やる」
まだ覚悟は固まってない。
でも、逃げたら後悔する。
アウラは、優しく微笑んだ。
――「ありがとう。愛し子よ」
その瞬間、白い世界が揺らぎ始める。
意識が遠のき、私は最後にもう一度だけ呟いた。
(……私の道は、また動き出したんだ)
今閑散期でエアコンクリーニングが相場より安くできるらしく(初めて)お願いしたらあまりの汚れに震えてます…




