第19話 街道のトラブル
隣村を後にし、街道を歩いていると――。
「おい、そこの嬢ちゃん!」
背後から声が飛んだ。
振り向いた瞬間、茂みの中から三人組の男が飛び出してくる。
いかにもならず者という風貌で、腰には短剣。手には棍棒。
笑い方がいやに下品で、目つきも濁っていた。
「おとなしく金目の物を置いてけ。怪我したくなきゃな!」
(……あー、出たよ。盗賊イベント……!)
頭を抱えたい気分になる。
でも、相手は本気だ。
距離が近い。逃げるには遅い。
私は荷物を背負ったまま、一歩だけ後ずさった。
「えっと……私、そんなに持ってないけど」
「嘘つけ! お前みたいな旅人が無一文なわけねえだろ!」
盗賊のひとりが腕を伸ばしてくる。
その瞬間――。
「……っ、触るなぁぁ!」
声が勝手に出た。
私は反射的に、腰のあたりへ手を伸ばした。
……そこには、本来何もないはずだった。
なのに。
指先が、ひやりとした“空間”に触れた。
(……え?)
次の瞬間、私の手の中に剣の柄が現れた。
「……はっ!?」
驚く暇もなく、身体が勝手に動く。
――ヒュッ。
予想以上に鋭い一閃。
盗賊の頬がスパッと浅く切れ、赤い線が浮かぶ。
「っ……!?」
盗賊が目を見開き、慌てて飛び退いた。
「な、なんだこの女っ!? ただ者じゃねえ!」
「ひっ……剣が、どこから出てきた!?」
盗賊たちは一気に怯えた表情になり、後ずさる。
私は剣を握ったまま固まっていた。
(……え? え? ちょっと待って)
腰に鞘なんて付けてない。
なのに手の中には、確かに剣がある。
しかも――。
(この感覚……知ってる)
手を伸ばすだけで、そこに“ある”感じ。
取り出せると、身体が理解している。
(……まさか)
喉がカラカラに乾く。
(アイテムボックス!?)
頭の中で、その単語が浮かんだ瞬間。
胸の奥がぞわりとした。
(……あれ? 私、前もこれ……)
思い出しかけて、頭が痛む。
でも確かに、使った記憶がある。
(なんで忘れてたの? いや、忘れてたっていうか……
今まで“使えない”って思い込んでた?)
状況が理解できない。
でも、今は考えている場合じゃない。
私は震えそうな手を必死で抑えながら、剣先を向けた。
「……来るなら、次は本気で斬るよ」
自分でも驚くほど、声は低く出た。
盗賊たちは顔を見合わせ、最後に捨て台詞を吐いて逃げていった。
「覚えてろよ!」
「次会ったらただじゃ済まさねえ!」
「……あ、はい。もう覚えたので来なくていいです!」
思わずツッコミを入れてしまう。
盗賊の背中が見えなくなった瞬間、私はその場に立ち尽くした。
(……怖かった)
今さら遅れて、膝が少し震え始める。
そして私は、手の中の剣を見つめた。
(……これ、どうやって戻すの)
試しに「しまえ」と念じてみる。
すると剣は、すうっと空気に溶けるように消えた。
「……うそ」
背筋がぞくりとする。
(やっぱり……アイテムボックスだ)
(しかも、前は普通に使ってた気がする)
(……なんで今さら思い出すのよ、私)
胸の奥に、嫌な確信が芽生える。
――やっぱり私は、この世界を知っている。
その直後。
「今の剣筋……お前、何者だ?」
低い声が響いた。
街道の向こうから現れたのは、甲冑姿の若い冒険者風の青年だった。
背には剣。立ち姿はまっすぐで、目つきが鋭い。
彼は私をじっと見つめ、値踏みするように視線を走らせる。
(……え、やば)
(見られた? しかも疑われてる!?)
私は口元を引きつらせたまま、ぎこちなく笑う。
青年は一歩近づき、静かに言った。
「ただの旅人には見えないな」
その言葉に、背筋がひやりと冷たくなる。
――私の旅は、またひとつ新しい波乱を呼び込んでしまった。




