第10話 王宮の日々
あの頃のことを思い出すと、胸の奥が少しだけあたたかくなる。
王宮での生活は、最初こそ戸惑いだらけだったけれど、日々はあっという間に過ぎていった。
勇者である皇太子とともに訓練や儀式に参加し、国の人々から「聖女さま」と慕われて。
戸惑いながらも、彼のまっすぐな眼差しや言葉に励まされて、いつしか淡い初恋を抱いていた。
もちろん、それはとても儚い気持ちだった。
彼にはすでに素敵な婚約者がいて――その令嬢は、私を疎むどころか妹のように可愛がってくれた。
彼女のやさしさに、何度救われただろう。
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忘れられないのは、幼い第3王子の存在だ。
まだあどけなさの残る少年は、私を見るたびに笑顔で駆け寄ってきて、両手を広げて叫ぶ。
「聖女さま! 聖女さま!」
その小さな手に引かれて庭を歩いたり、膝に抱きつかれたりする時間は、まるで弟ができたみたいで楽しかった。
ときには「内緒だよ」と言いながら、私のベッドに潜り込んで一緒に眠ったこともある。
本当に可愛らしくて、心が和む存在だった。
そして城の隣に広がる神聖な森では、守護獣のフェンリルと出会った。
真っ白でふかふかの毛並みをもつ、大きな大きな狼。
迫力があるはずなのに、なぜか最初から私に懐いて、どすんと体を横たえ、私をもふもふの毛に埋めてくれた。
その温もりは不思議と安心できて、私は何度もその白い背に抱きついた。
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振り返れば、いろんな人に囲まれて、支えられて、私は「聖女」としての日々を送っていた。
やがて国の問題は解決され、私の役目も終わりを迎える。
皆に別れを告げ――私は元の世界に帰還した。
あれは、かけがえのない時間だった。
今でも思い返せば、少し胸がきゅっとするような、そんな懐かしい記憶だ。
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……だけど今、私はまた異世界に立っている。
どういうわけか、二度目の召喚に巻き込まれて。




