第三章 思い出したこと
第3章です読んでくれるとありがたいです
胸の奥が、静かに揺れた。
痛みではない。
衝撃でもない。
ただ、何かが正しい位置に戻った感覚だった。
目は開いている。
病室の白い天井も見えている。
だが、同時に――
別の光景が、重なった。
炎。
燃えている。
だが、熱はない。
城。
崩れている。
壊されたのではなく、終わった城だ。
それだけで十分だった。
細部はいらない。
映像を追う必要もない。
なぜなら、
もう知っていたからだ。
裏切りがあったこと。
逃げ道があったこと。
それでも立ち止まったこと。
最後に何を選んだのか。
すべて、説明なしで理解できた。
「……そうだったな」
声にはならなかった。
だが、胸の奥で確かに落ちた。
自分は、
織田信長だった。
名を思い出した瞬間、
疑いは一切なかった。
誇りも、後悔も、
今さら浮かばない。
ただ、
選び続けた人生だったという事実だけが残る。
その理解が、完全に揃った瞬間。
頭の奥で、
何かが弾けた。
激痛。
今までのものとは違う。
壊すための痛みではない。
作り直すための痛みだった。
視界が歪む。
音が、遠のく。
身体が、勝手に力を抜いていく。
「覚醒が始まりました」
伽耶の声が、はっきり届いた。
「今回は、完全です」
「ここから、十日間」
「あなたは、目を覚ましません」
問いを返す余裕はなかった。
意識が、沈んでいく。
眠る、という感覚とは違う。
落ちていくが、消えない。
呼吸は続いている。
心臓も、止まらない。
ただ、
外界と繋がる回路だけが閉じられる。
十日間。
その間、身体は作り替えられる。
思い出した力に、
追いつくために。
最後に浮かんだのは、
炎でも、城でもなかった。
迷わず立っていた自分の感覚だけだった。
そして――
完全覚醒へ向けた時間が、始まった。




