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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
魔法末期時代 (神域残響52)
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4-8.出発の日

  地上街の門前に、一組の旅装の集団が集まっていた。

 ダーリオン、数名のレジスタンス戦闘員、エルデ、そして――


「リーダー、俺も行く必要あります?」


  ワタルは背中に大きな荷を背負い、困ったように首を傾げた。


「正直、俺は大して強くないですよ?」

「お前には聞きたいことが山ほどある」


  ダーリオンは気にする様子もなく言い切る。


「ま、当面は荷物持ちでいい」

「それならまあ……。で、これで全員ですか?」

「いや、もう一人――お、来たな」


  現れたのは一人の女性だった。

 風に揺れる長衣は上質な布で仕立てられ、装飾を抑えつつも隠しきれない気品を放っている。舞踏会に赴くかのようなドレス姿は、これから魔物の跋扈する地へ向かう者の装いとは思えなかった。


「あら、少し遅れてしまいましたか?」

「いえ。我々も今、集まったところです」


  ダーリオンは一歩下がり、恭しく頭を下げた。


「ルミリア・アークライト様」


  最後の一人として現れた貴族に、エルデが警戒する。

 雰囲気から敵対者ではないと判断したが、彼女を知らないエルデは、どうしても気が張り詰め、剣の柄に指をかけていた。


「エルデ。この方は敵じゃない」

「……そうなのですか?」


  ダーリオンの言葉に従い、手を下ろす。だが視線は逸らさない。

 そんなエルデを仕方ないかと、ダーリオンは小さく息を吐いた。


「この方は我々をこれまで支援してくれていた方でな。この人が居なければ、レジスタンスはとっくに潰れていたよ」

「その人がここに来た理由は?」

「俺達が疑われずに街を出るためだ。目立たずに街の外に出るのは貴族に引率して貰うのが一番だからな」


  ルミリアはエルデから疑われている事も気にせず、穏やかに手を差し出した。

 エルデは警戒しながらではあるが、握手を交わす。


「ルミリア・アークライトといいます。大したことはしていないけど、ちゃんとこの国の貴族よ」

「エルデです。ダーリオンがああ言ってるから……まあ、信用しておきます」

「ええ。それで十分ですわ」


  ルミリアとしても、それぐらい警戒心を持ってくれた方が、レジスタンスの仲間としては頼もしかった。

 ルミリアは優しい性格から虐げられていた地上民を助けたいと思っている。それは偽りの無く、心の底から。

 ただ、一般的な貴族として彼らを助ける事には限度があった。

 下手をすれば、貴族の治世を脅かす異端として国から目をつけかねられない。そうなれば、彼らを助けることが出来ないよう、隔離される恐れもある。

 貴族の立場を守りつつ、ルミリアは彼らを援助していた。


 ダーリオンが荷物を抱え直し、旅の仲間を見渡した。


「ルミリア様も来られたし、そろそろ出発しようか」


  皆が静かに頷き、街の外へと続く門へと歩みを進めた。




  門には二人の魔法騎士団が詰めていた。

 全く警戒心の無い様子で、門にもたれ手に持つ槍で地面を突き暇を潰している。


 そこに、現れたのがルミリアと付き人の数人だ。

 魔法騎士は、ルミリアの姿を認めるや否や背筋を正した。


「これはルミリア・アークライト様。お出かけですか?」

「門番ご苦労様です。新たな魔道具の情報を得ましてね。それを手に入れたいと思いまして出かけます」

「そうですか……その後ろの者たちは?」


  ルミリアの後ろには、フードを深く被り荷物を担いだ者が居た。


「この街の地上民と旅行者です。私の荷物持ちとして雇いました。問題ありますか?」


  魔法騎士は一瞬逡巡し、すぐに頭を下げた。


「いえ、そういう事であれば問題ありません。失礼しました」


  ルミリアは何一つ嘘を言っていない。

 ダーリオン達はこの街の地上民だし、エルデは旅行者。ただ、レジスタンスということを言っていないだけ。

 エルデから聞いた情報で魔道具を取りに行くのも本当。ただ、その目的が冷血王を倒すためである。


「さあ皆さん、行きましょうか。荷物を落とさないようにしっかり持ってくださいね」


  全く疑われること無く門をくぐり、街の外へと一行は繰り出すのであった。




  街道を暫く進み、森を抜け、崖を降りる。

 時折、ゴブリンやウルフ、オーガ等様々な魔物が襲い掛かってくるが、ダーリオンとエルデの剣の前に容易く蹴散らされていた。


「まだこの辺りは魔道具の影響が少ないな」

「ああ、この辺りによく居る雑魚だな。だが先へ進めば話は別だ」


  魔道具は魔物を呼び寄せる。魔道具が強ければ強いほど、寄ってくる魔物も強くなる。

 まして、冷血王の魔法に対抗できる程の盾ともなれば、どれほどの魔物を引き寄せるか、皆目分からない。


 万が一オーガやキマイラクラスが出てくるとなると、苦戦は必至だろう。


「盾があるのはまだ先なのですわね?」


  ルミリアが二人の間に入ってくる。

 長く歩いたというのに、些かも疲れた様子を見せていない。


「ルミリア様……この先は我々だけで構いません。もう、お戻りになってください」

「いえ、最後までお付き合いしますわ。それに……」


  その時、空が翳った。


「――上だ!」


 鋭い鳴き声。

 急降下してきたのは、鳥型魔物ストームイーグル。


 反射的に剣を構える二人よりも早く、ルミリアが一歩前へ出る。


「雷の嵐よ、今ここに」


 掲げられた手の先で、空気が震えた。


「――《ボルト・ストーム》」


  雷を纏う旋風が生まれ、ストームイーグルを包み込む。

 一瞬の閃光。

 次の瞬間、黒く炭化した残骸が地へ落ちた。


 静寂。


 エルデは、思わず息を呑んだ。

 これが――支配者階級の、本物の魔法。


 ルミリアは振り返り、穏やかな微笑みを浮かべる。


「……私の力は、不要でしたか?」

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