4-7.道筋を探す
ダーリオンとエルデは、高所から地上街の様子を見下ろしていた。
レジスタンスが襲撃されたあの日から、すでに数日が経っている。
街は一見すると静けさを取り戻し、人々も通りを行き交っていた。
だが、それは表面だけの平穏だった。
誰の顔にも笑顔はなく、視線は伏せられ、諦めにも似た感情が張り付いている。
声を潜め、互いを警戒しながら歩くその姿は、街全体が怯えているかのようだった。
「魔法を使えない人間は、今も増え続けている……」
ダーリオンは低く呟きながら、視線を街の外へと向ける。
「貴族どもは……一体、どんな未来を思い描いているんだろうな」
目線を上げた先の街の外には、平野と森林が果てしなく広がっていた。
そこは魔物と神秘に満ちた世界。
一歩踏み出せば命を落とす危険がある一方で、強力な魔法具が眠る場所でもある。
それを求め、命懸けで外の世界へ踏み出す者もいた。
街は今も、わずかずつ拡張されている。
だが外界の広さは圧倒的で、仮に街が世界を覆うとしても、それは気が遠くなるほど先の未来の話だろう。
「魔法で何でもできる……しかも、自分たちを上位に置いて、下を見る存在がいる」
エルデは淡々と、しかし確信を込めて言った。
「全員がそうだとは思いません。でも……あいつらにとっては、今の状況が理想なんじゃないですかね」
旅の中で、エルデは多くの貴族を見てきた。
その中には、権力を持つ者として自らを厳しく律する者もいたし、魔法を使えない人々のために身を粉にして働く、慈愛に満ちた者もいた。
だからこそ、彼の考えは変わった。
魔法を使える支配者層そのものが悪なのではない。
――悪いのは、この歪んだ支配体制だ。
体制と空気が変われば、彼らもまた良き貴族になれるはずだ。
そのために必要なのは、象徴を打ち倒すこと。
支配者階層の頂点。
冷血王ゼルファウス・ウェルザルト。
彼を倒さなければ、何も変わらない。
「そろそろ戻ろうか。会議が始まる」
「分かりました」
二人は、陽光に照らされる地上街を背にした。
創世教教会の地下。
そこに広がる広大な隠れ家の一室には、レジスタンスの主要人物が集まっていた。
リーダーのダーリオンを筆頭に、レジスタンスの各リーダー達、エルデ、ミーリャ、ジェルド。
会議の目的はただ一つ――今後、どう動くか。
最初に口を開いたのはダーリオンだった。
「集まってくれて感謝する。今回は、俺たちレジスタンスが向かうべき方向を伝える事と、その道筋について意見をもらいたい」
ダーリオンは一同を見渡す。
ここに集まったのは、壊滅的な打撃を受けてもなお、レジスタンスに留まり続けた者たちだ。
恐怖はあれど、誰の目にも怯えはなかった。
「まず現状だ。この街以外のレジスタンスの生き残った者は潜んで貰っている。また、国外に逃げることが出来た者を通して、他国のレジスタンスの状況も聞くことが出来た。怪我の功名だな」
「他の国はどうなっているんだ?」
ジェルドが興味深そうに問いかける。
「他国は騒ぎこそ起きていないが、その分、鬱憤が積もり積もっている。爆発するのは時間の問題だな」
各国のとレジスタンス同士の繋がりは薄い。
魔法を使えない者が多く、街の外との連絡は困難を極めていたからだ。
だが、この街のレジスタンスは比較的魔法具が揃っている。
最低限の通信手段を持ち、他国へ逃れた仲間を介して、情報がダーリオンの元へ集まり始めていた。
「さて……俺たちの目的を改めて言おう」
ダーリオンは一呼吸置く。
「目的は変わらない。冷血王、ゼルファウス・ウェルザルトの打倒だ」
室内がざわめく。
その中で冷静だったのは、エルデとミーリャ、ジェルドの三人だけだった。
「支配者層全体を潰すのは現実的じゃねぇ。いきなり統治者が消えれば、それはそれで混乱を招くからな」
ダーリオンは続ける。
「ゼルファウスは、今の世界の象徴だ。あいつを倒せば、その影響はウェルザルト王国に留まらず、世界全体に及ぶはずだ」
エルデは静かに頷いた。
旅の中で、ゼルファウスの名がどれほどの影響力を持つかを、嫌というほど見てきたからだ。
「……だが、言うは易しだ」
ダーリオンの声が少し低くなる。
「以前、奴と一対一で戦った。結果は完敗。命を拾えたのは、エルデの助けがあったからに過ぎない。だから、どうすれば良いか、皆の意見が聞きたい」
この場にいる誰もが、ダーリオンの実力を知っている。
剣士としても、指導者としても、彼は突出していた。
そのダーリオンが通用しなかった。
室内に、重い沈黙が落ちる。
その沈黙を破ったのは、エルデだった。
「……ゼルファウスに対抗する手段として、一つ提案があります」
「なんだ?」
「ここに来る前に聞いた話なんですが、
“対魔法の盾”が眠っている洞窟があるそうです。
詳しいことは分かりませんが……対抗手段にはなるはずです」
ダーリオンは腕を組み、考え込む。
他に意見も出ないこの状況、正直なところ、他に有力な策はない。
仮に空振りだったとしても、現状が悪化するわけではないだろう。
「……いいだろう」
決断は早かった。
「俺とエルデ、それに数名で向かう。ミーリャとジェルドは、引き続きここで皆に技を教えてくれ」
「任せてください。代わりにエルデをお願いしますね」
「分かった」
二人は迷いなく頷いた。
まだ課題は山積みだ。
だが、動き出すための道筋は見えた。
「細かい指示は追って伝える。皆、しばらくの間開けるが、ここを頼むぞ!」




