4-6.新たな力達
レジスタンスの隠れ家は、にわかに活気づいていた。
その最大の理由は、リーダーであるダーリオンの生還だった。
「まずは現状把握だ。知っている情報はすべて出してくれ」
「二つの班を編成する。一方は逃げ遅れた味方の捜索、もう一方は他の街との連絡手段の確保だ」
「外では目立つな。孤立もするな。必ず二、三人組で行動しろ」
ダーリオンは休む間もなく、次々と指示を飛ばしていく。
その声には、迷いがなかった。
失われたはずの中枢が戻り、レジスタンスは少しずつ、しかし確実に動き始めていた。
ダーリオンを救った男、エルデ・ランスパート。
彼の生まれは、天空都市から遠く離れた田舎町だった。
親は魔法の使えないごく普通の市民であったが、エルデは生まれながらに魔法を使うことが出来る。
魔法が使える――それは、この世界において将来を約束されることと同義だった。
周囲から注目され、期待され、頼られる。
多くを学び、満たされた年少期を過ごしていた。
だが、ある日、事件は起きた。
エルデが外出している間、ふらりと訪れた他国の貴族が、彼の両親に理不尽な言いがかりをつけ、深手を負わせたのだ。
貴族は責任を問われることもなく、すぐにその場を去っていった。
戻ってきたエルデが見たのは、血に伏した両親の姿だった。
彼は必死に魔法を使い、一命を取り留めさせた。
だが、エルデの魔法は決して卓越したものではなかった。
命を繋ぐことはできても、完全に癒すことは叶わない。
やがて、両親はその傷が元で息を引き取った。
その時、エルデは痛感した。
――魔法が使えない。
ただそれだけで、命を奪われても誰も責任を取らない世界。
自分が「使える側」にいたからこそ、その異常さに気づけていなかったのだ。
「……変えなくちゃいけない。こんな無法がまかり通ってはいけないんだ!」
エルデは、幼馴染のミーリャ、親友のジェルドと共に旅に出た。
世界を変えるために、何が必要なのかを探すための旅。
だが、道のりは霧の中を進むようなものだった。
明確な敵は存在しない。
救ったはずの人間が、翌日にはどこかで殺されている。
力を示すことで状況が好転することもあれば、何の意味も持たないこともあった。
歯がゆさに胸を焦がしながらも、三人は歩みを止めなかった。
やがて、その背中を追う者が現れ、仲間が増え、いつしかエルデの周囲には一つの集団が形成されていた。
その集団を、陰から導く存在がいた。
「エルデ。お前の仲間は別の部屋で休んで貰っているよ」
「有難うございます、ワタルさん。いつも助かっています」
「おいエルデ。ワタルの事を知っているのか?」
「ええ、ダーリオンさん。ワタルさんには何度も助けて貰いました」
エルデは思い返す。
旅の途中、何度も窮地に陥った事があった。死ぬ覚悟をしたのは指の数では足りない程だ。
その窮地に都度現れては、脱出を導いてくれたのがワタルだった。
仲間になってくれないかと持ち掛けた事もあったが、するすると躱され、いつの間にか居なくなっていたのだ。
そして今回、レジスタンス壊滅の報を、ふらりと現れたワタルから聞き、急ぎ駆けつけたのだ。
「ワタルが? だが、ワタルは大体アジトに居たはずなんだが?」
その言葉を遮るように、当の本人が声を上げる。
「ああ、そうそう! エルデの仲間、ミーリャとジェルドが用事があるってさ!」
「……そ、そうか?」
ワタルはにこやかに笑いながら、エルデとダーリオンを押すようにして、その場を離れさせた。
「火の矢?」
「そうです。魔法の火の矢です」
エルデの幼馴染ミーリャは、レジスタンス達に囲まれながら、その手に炎を灯していた。
「まさか……貴族どもが使う、あの火の矢か!」
「残念ですが、あれほどの威力はありません。ですが――」
ミーリャは手を振る。
炎は矢のように飛び、用意された的に命中し、燃え上がった。
「これは……」
「私が火の矢の原理を聞いて、なるべく多くの人が使え、尚且つ無詠唱に近い形で発動できるよう改良しました。威力は大幅に落ちてしまいましたが、連射力は上がっています」
「これを……教えてくれるのか?」
「はい。ですので、レジスタンスで魔法を使える人を集めてください」
レジスタンスの間に、どよめきが走る。
失われたはずの希望が、形を持ち始めていた。
その様子を横目にダーリオンとエルデが向かったのは、剣の訓練場だった。
訓練場には大勢のレジスタンスが詰めていた。
その中心にエルデの親友、ジェルドが練習用の木剣を持って立っていた。
その足元には打ちのめされたレジスタンスが何人も転がっていた。
「こいつ……強い!」
「何でこんなに強いんだ?」
「お前達は、『剣の振り方』を知らないんだ。剣の振り方ってのを教えてやるぜ」
現状、剣こそ普及しているが『剣術』というのは存在しなかった。
剣でその場を凌いだ後は、魔法で攻撃するというのがこれまでの常識。
レジスタンスの三人がジェルドに剣を掲げて撃ちかかってくる。
ジェルドは一歩下がり、位置を整えた。
そして持つ剣が複雑に、踊る様に舞う。
「ぐあっ!」
レジスタンス達の剣が跳ね上げられると同時に、木剣で叩き伏せられる。
ジェルドは、木剣を振るった姿で立っていた。汗一つかいていない。
その光景を、ダーリオンは黙って見つめていた。
魔法の有無による戦力差は、今もなお圧倒的だ。
だが、エルデたちがもたらした新たな力。
尽きかけていた抵抗の可能性は、確かに、再び燃え上がり始めていた。
魔法時代末期改革側の『炎の矢』
基本原理
この時代の「炎の矢」は、失われた知識の断片と試行錯誤の結果として、単純な熱と衝撃による破壊に特化しています。
かつての属性魔法のように炎の性質を精密に操ることはできず、神話時代のような根源的な力は望むべくもありませんが、それでも「炎」という概念が持つ物理的な破壊力を最大限に引き出そうとします。
破壊プロセス
1.魔力の粗雑な凝縮と炎の具現化
魔法使いは、自身の内に宿る、あるいは周囲からかき集めた魔力を、かつての魔法陣や術式を簡略化した方法で粗雑に凝縮します。
この段階で、「炎の矢」は明確な「炎」の形をとり、視覚的に認識できる赤やオレンジの燃え盛る矢として具現化します。
以前の時代のような精密な制御はできず、熱や光の放出は無駄が多く、洗練されてはいません。しかし、それは間違いなく「燃える矢」として機能します。
2.物理的衝撃と表面的な燃焼
放たれた「炎の矢」は、まず物理的な衝撃を伴って対象に着弾します。これは、あたかも燃える矢が高速で飛来したかのような、原始的な破壊力です。
着弾点では、矢が持つ熱エネルギーが瞬時に解放され、対象の表面を激しく燃やし、焦がします。この熱は、物質の表面を炭化させたり、熱に弱い部分を溶かしたりする効果がありますが、深部まで浸透する力は限定的です。
3.燃焼と崩壊の促進
着弾による初期の燃焼に続き、矢が持つ「炎」の属性が、対象の燃えやすい部分に引火し、燃焼を促進します。
木材であれば燃え広がり、布地であれば灰燼に帰します。金属のような不燃性の物質に対しても、表面を激しく加熱することで脆化させ、繰り返し「炎の矢」を当てることで物理的な破壊を助長します。
最終的には、対象は燃え尽き、物理的に破壊された破片となり、元の形を失います。爆発的な消失ではなく、**「焼損と物理的な破損」**による消滅が特徴です。




