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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
魔法末期時代 (神域残響52)
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4-5.新世代の勇者

  その日は、地上街にとって騒乱の一日となった。

 各地を魔法騎士団が駆け回り、レジスタンスと思しき者、関係があると判断された者は容赦なく捕縛された。抵抗の兆しを見せれば、その場で命を奪われる。


 その光景を目にした地上民たちは、深い絶望を覚えた。

 もはや、自分たちを迫害から守ってくれる盾は存在しない――そう悟らされたのだ。


 しかし、希望が完全に潰えたわけではなかった。


「……こんな所があったとはな」

「いずれにせよ助かった。各地の生き残った仲間も、避難できる奴はここに集まってきている」


  男は、薄暗く広い部屋を見渡した。

 使われた形跡はなく、床も壁も埃に覆われているが、掃除さえすれば生活に不自由はなさそうだ。

 部屋数も多く、すでに百人を超える人数が集まっていたが、それでもなお余裕があった。


「そろそろ、見張りと交代してくる」

「ああ、分かった。シスターによろしくな」


  男は念入りに塞がれた二重扉を開く。

 そこは教会だった。


 近隣の住民ですら、「ああ、そんな場所があったな」と言うほど人の訪れない、寂れた教会。

 創世教――それがこの教会の名だった。


 教会はウェルザルト王国の地上街にある。

 レジスタンスは国外か未開拓地へ逃げたと考えられていたため、国の足元に留まり続けるこの場所は、皮肉にも完全な死角となっていた。


 創世教には教祖も神父もおらず、ただ一人のシスターがいるだけの末端宗教だった。

 この教会も代々受け継がれてきたものだが、地下にこれほど広い空間が存在することを、シスター自身も知らなかった。


 男はシスターに軽く挨拶をし、祈りに来た信者を装う見張りと交代する。

 もっとも、この教会に信者など存在しない。

 なので事情を知る者が見れば、異常な光景であることは一目瞭然だったが。



 地下室の一室では、会議が行われていた。

 議題は今後について――だが、話し合いは最初から行き詰まっていた。


 これまでですら満足な抵抗ができなかった。

 それどころか、リーダーも、本部も、蓄えていた物資すら失った今、何ができるというのか。


「そもそも、リーダーが死んだと決まったわけじゃない! 捕まってる可能性だってあるだろ!」

「じゃあ、どうやって確認する? 本部は魔法騎士団に占拠されてる。天空都市に近づくことすら無理だ」

「各地の仲間を、先にまとめ上げるのはどうだ?」

「どうやって行く? 転移のマジックアイテムはもうない。街の外に出れば、俺たちは魔物の餌だ」


  答えは出ない。

 否定の言葉ばかりが積み重なっていく。


 会議はしばらく続いたが、状況は何ひとつ変わらず、結論は持ち越しとなった。


 その間にも、地上街での差別はさらに激しさを増していく。

 レジスタンス排除の成功は、貴族や魔法騎士団の蛮行を加速させる結果となった。


 助けを求める声。

 悲鳴。

 泣き声。


 それらが途切れることはなかった。


 影からその様子を見ていたレジスタンス隊員は、歯を食いしばり、悔しさを滲ませる。

 だが、それでも助けに出ることはできなかった。


「くそ……あいつら、俺たちを皆殺しにする気か?」

「おい、お前!」


  振り向いた瞬間、魔法騎士団の槍が突き付けられていた。


「くそっ、捕まるわけには……!」

「逃げるとは怪しい奴だな!」


  魔法騎士団から放たれた氷弾が、男の足を撃ち抜いた。

 路地裏に転がり、激痛と冷気に体が痺れる。


「う……わ……」


  這いずりながら逃げようとするが、背中を強く踏みつけられた。

 踏みつける魔法騎士団の目は、もはや理性を失い、歪みきっている。


「お前、レジスタンスの生き残りだろ? ……ま、違っても構わんがな」


  騎士は槍を振りかぶり、男の首元へと狙いを定める。

 その矛先を見た男の目は、純粋な恐怖に染まっていた。


 ――次の瞬間。


 吹き飛ばされたのは、魔法騎士団の方だった。

 木箱の山に叩き込まれ、そのまま動かなくなる。


 男の視界に、ひとつの影が映る。


「魔法使いの統治は酷いと思っていたけど……それより酷い状態があるなんて、思いもしなかったな」


  旅行者が着るような外套。

 ぼろぼろの赤いマフラー。

 黒髪の青年が、拳を振り抜いた姿で立っていた。


「大丈夫か?」


  そして、もう一人。

 男には見覚えのある顔があった。


「リーダー……! 生きていたんですね!」


  そこに立っていたのは、傷だらけのダーリオンだった。


 男の表情に、確かな希望が灯る。

 足を引きずりながらも、必死に近寄ろうとした。


「おっと、無理するな。……おーい、エルデ。悪いが、こいつの足を見てやってくれ」

「怪我をされているのですね。少し失礼します」


  青年が男の足に触れ、静かに呪文を唱える。

 すると、凍りついていた傷が、目に見える速さで癒えていった。


 その光景に、男は息を呑む。

 魔法を使える者がレジスタンス側にいることは皆無ではないが、極めて稀だ。

 驚きと同時に、本能的な警戒心も湧き上がる。


「リーダー……この人は?」

「安心しろ。味方だ」


 足が歩ける程度に治ったのを確認し、男は立ち上がり、周囲を警戒する。

 そこでダーリオンが青年を紹介した。


「エルデ・ランスパート。国の辺境出身の地上民だが、魔法を使える珍しい奴だ。……俺も、こいつに窮地を救われた」

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