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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
魔法末期時代 (神域残響52)
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4-4.レジスタンス掃討

  ゼルファウスは、生まれながらにしてすべてを与えられていた。

 世界の中枢たるウェルザルト王国、その王家の長男として生を受け、期待と称賛を一身に集めて育った。衣食住はもちろん、学びも環境も、欠けることは何ひとつなかった。


  ゼルファウスは、生まれながらにして才能に恵まれていた。

 生後まもなく測定された魔力保有量は、同年代の誰をも凌駕し、知識や教養はまるで乾いたスポンジが水を吸い込むかのように、抵抗なく身に刻まれていった。


  ゼルファウスは、生まれながらにして将来を約束されていた。

 幼少の頃から次期国王として扱われ、政治、軍事、魔法、そのいずれにおいても王として不足のない資質を示し続けてきた。同世代に、彼に並び立つ者は存在しなかった。


 ――それでも。


 彼は、将来の目標も現在の興味も持てずにいた。

 あまりにも強固な敷かれたレール。進路を阻む障害はすべて容易く排除され、努力は結果として保証されていた。

 だからだろうか。

 理由は、彼自身にも分からない。

 ただ、目に映るすべてが、どこか遠く、冷ややかに見えていた。




  やがて目標を見出せぬまま王位に就き、今日も謁見の時間を迎える。

 王座に座るゼルファウスの前に、ずらりと並ぶ貴族と魔法騎士たち。整然としたその光景は、彼にとって日常の一部に過ぎなかった。


「ご機嫌麗しく存じます、閣下。本日の連絡事項をお伝えしてもよろしいでしょうか」

「構わん。話せ」


  いつもと変わらぬ、美辞麗句を織り交ぜた報告が続く。

 その中で、ただひとつ――ゼルファウスの意識に引っかかる報告があった。


「先日、閣下にご助力いただいた洞窟より、マジックアイテムの回収に成功いたしました。現在、効果の検証を進めており、後日ご報告できるかと」

「……使役した地上民はどうした?」

「地上民ですか? はっ。あやつらは情けないものです。たかが瓦礫の撤去程度で音を上げておりましてな。相応に報酬も減らしておきました」


  返答に、ゼルファウスは沈黙した。

 地上民に同情を覚えた訳ではない。ただ、そこに違和感を見出した。


 ――地上民は、すでに限界だ。

 物資は不足し、疲弊は極まっているはず。それにもかかわらず、生活に起因する死者の報告は少ない。

 国からは見えない流れがある可能性がある。


「……?」

「王命として指示する」


  その日、ひとつの命令が発せられた。

 命を受けた魔法騎士団は、即座に地上街へと動き出す。




  昼下がり。

 地上街にある、レジスタンスの拠点となっていた酒場の扉が、激しく叩き破られた。


「魔法騎士団だ! 中にいる者、全員動くな!」


  完全な不意打ちだった。

 レジスタンスは悲嘆に暮れていたとはいえ、監視を完全に怠っていたわけではない。しかし、今回の動きはあまりにも早すぎた。


 咄嗟に剣を取る者もいたが、次の瞬間、放たれた魔法が命を奪う。

 もはや抵抗の余地はなかった。


 その日、ウェルザルト王国領内のレジスタンス拠点は、ほぼ同時に壊滅した。


 その報は、瞬く間に本部へと届く。


「拠点が襲撃された!」

「そこもか!」


  報告を受けたダーリオンの表情に、焦燥が浮かぶ。

 襲撃を受けたのは一か所だけでなく、各地多くの拠点だった。


「なぜだ……こんな急に……」

「ここにも来たぞ!」


  警告の声とほぼ同時に、破壊音が轟いた。


「まさか……もうこの場所が突き止められたのか!?」


  レジスタンス本部は天空都市の片隅にあった。

 一見すると意味のない扉。しかし内部はマジックアイテムによって拡張された空間で、本部はその奥に存在していた。


「総員、脱出だ! 物資は置いていけ!」

「リーダーはどうするの?」


  答える間もなく、扉が爆音とともに吹き飛ぶ。

 煙の向こうから現れたのは――魔法騎士団、そしてゼルファウスだった。


 ダーリオンとゼルファウスの視線が交錯する。


「閣下自ら出向かれるとはな……」


  ダーリオンの言葉に返されたのは、ゼルファウスの魔法攻撃だった。

 しかしそれをダーリオンは斬り飛ばす。


「ほう……その剣はマジックアイテムか」

「閣下ともなると、それぐらいの事は知っているか」


  ダーリオンの持つ剣は、硬化と軽量化の効果を永久付与されたマジックアイテム。

 副次効果として、魔法を斬り散らす事が出来る。


「リーダー!」


 助けに出ようとする仲間を、ダーリオンは怒鳴りつける。


「何をしている! 逃げろ!」


  そこへ青年が駆けつけた。


「ワタルか!」

「皆さん、こちらです!」

「全員、ワタルについて行け! リーダー命令だ!」


  誰もが逃げるのに躊躇う。

 そこに魔法騎士団からの攻撃魔法が撃ち込まれる。

 しかしそれも、ダーリオンが斬り飛ばして仲間を守った。


 散った魔力の熱に背を押され、レジスタンスは逃げ出す。

 全員の離脱を確認してから、ダーリオンは再びゼルファウスと向き合った。


「逃げるのを待ってくれるとは、お優しいな閣下は」

「お前の脅威はその剣ではない。剣の腕だ」

「お褒めに預かり光栄だな。魔法使いの一人や二人倒しても意味はない。だが――お前を倒せば、この歪んだ支配も少しは変わるじゃないか?」


  ダーリオンはゼルファウスに向けて、剣を構える。

 それに対し、守ろうとする魔法騎士団を制してゼルファウスは一歩前に出た。


「これまで私に刃向かってきた者だ。望み通り、相手をしてやろう」

「意外に付き合いが良いんだな。閣下でなければ、酒を飲み交わせたかもな……」


  その日、レジスタンス本部は完全に壊滅した。

 それはすなわち、魔法使いによる支配に、もはや終わりが見えなくなったことを意味していた。

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