4-4.レジスタンス掃討
ゼルファウスは、生まれながらにしてすべてを与えられていた。
世界の中枢たるウェルザルト王国、その王家の長男として生を受け、期待と称賛を一身に集めて育った。衣食住はもちろん、学びも環境も、欠けることは何ひとつなかった。
ゼルファウスは、生まれながらにして才能に恵まれていた。
生後まもなく測定された魔力保有量は、同年代の誰をも凌駕し、知識や教養はまるで乾いたスポンジが水を吸い込むかのように、抵抗なく身に刻まれていった。
ゼルファウスは、生まれながらにして将来を約束されていた。
幼少の頃から次期国王として扱われ、政治、軍事、魔法、そのいずれにおいても王として不足のない資質を示し続けてきた。同世代に、彼に並び立つ者は存在しなかった。
――それでも。
彼は、将来の目標も現在の興味も持てずにいた。
あまりにも強固な敷かれたレール。進路を阻む障害はすべて容易く排除され、努力は結果として保証されていた。
だからだろうか。
理由は、彼自身にも分からない。
ただ、目に映るすべてが、どこか遠く、冷ややかに見えていた。
やがて目標を見出せぬまま王位に就き、今日も謁見の時間を迎える。
王座に座るゼルファウスの前に、ずらりと並ぶ貴族と魔法騎士たち。整然としたその光景は、彼にとって日常の一部に過ぎなかった。
「ご機嫌麗しく存じます、閣下。本日の連絡事項をお伝えしてもよろしいでしょうか」
「構わん。話せ」
いつもと変わらぬ、美辞麗句を織り交ぜた報告が続く。
その中で、ただひとつ――ゼルファウスの意識に引っかかる報告があった。
「先日、閣下にご助力いただいた洞窟より、マジックアイテムの回収に成功いたしました。現在、効果の検証を進めており、後日ご報告できるかと」
「……使役した地上民はどうした?」
「地上民ですか? はっ。あやつらは情けないものです。たかが瓦礫の撤去程度で音を上げておりましてな。相応に報酬も減らしておきました」
返答に、ゼルファウスは沈黙した。
地上民に同情を覚えた訳ではない。ただ、そこに違和感を見出した。
――地上民は、すでに限界だ。
物資は不足し、疲弊は極まっているはず。それにもかかわらず、生活に起因する死者の報告は少ない。
国からは見えない流れがある可能性がある。
「……?」
「王命として指示する」
その日、ひとつの命令が発せられた。
命を受けた魔法騎士団は、即座に地上街へと動き出す。
昼下がり。
地上街にある、レジスタンスの拠点となっていた酒場の扉が、激しく叩き破られた。
「魔法騎士団だ! 中にいる者、全員動くな!」
完全な不意打ちだった。
レジスタンスは悲嘆に暮れていたとはいえ、監視を完全に怠っていたわけではない。しかし、今回の動きはあまりにも早すぎた。
咄嗟に剣を取る者もいたが、次の瞬間、放たれた魔法が命を奪う。
もはや抵抗の余地はなかった。
その日、ウェルザルト王国領内のレジスタンス拠点は、ほぼ同時に壊滅した。
その報は、瞬く間に本部へと届く。
「拠点が襲撃された!」
「そこもか!」
報告を受けたダーリオンの表情に、焦燥が浮かぶ。
襲撃を受けたのは一か所だけでなく、各地多くの拠点だった。
「なぜだ……こんな急に……」
「ここにも来たぞ!」
警告の声とほぼ同時に、破壊音が轟いた。
「まさか……もうこの場所が突き止められたのか!?」
レジスタンス本部は天空都市の片隅にあった。
一見すると意味のない扉。しかし内部はマジックアイテムによって拡張された空間で、本部はその奥に存在していた。
「総員、脱出だ! 物資は置いていけ!」
「リーダーはどうするの?」
答える間もなく、扉が爆音とともに吹き飛ぶ。
煙の向こうから現れたのは――魔法騎士団、そしてゼルファウスだった。
ダーリオンとゼルファウスの視線が交錯する。
「閣下自ら出向かれるとはな……」
ダーリオンの言葉に返されたのは、ゼルファウスの魔法攻撃だった。
しかしそれをダーリオンは斬り飛ばす。
「ほう……その剣はマジックアイテムか」
「閣下ともなると、それぐらいの事は知っているか」
ダーリオンの持つ剣は、硬化と軽量化の効果を永久付与されたマジックアイテム。
副次効果として、魔法を斬り散らす事が出来る。
「リーダー!」
助けに出ようとする仲間を、ダーリオンは怒鳴りつける。
「何をしている! 逃げろ!」
そこへ青年が駆けつけた。
「ワタルか!」
「皆さん、こちらです!」
「全員、ワタルについて行け! リーダー命令だ!」
誰もが逃げるのに躊躇う。
そこに魔法騎士団からの攻撃魔法が撃ち込まれる。
しかしそれも、ダーリオンが斬り飛ばして仲間を守った。
散った魔力の熱に背を押され、レジスタンスは逃げ出す。
全員の離脱を確認してから、ダーリオンは再びゼルファウスと向き合った。
「逃げるのを待ってくれるとは、お優しいな閣下は」
「お前の脅威はその剣ではない。剣の腕だ」
「お褒めに預かり光栄だな。魔法使いの一人や二人倒しても意味はない。だが――お前を倒せば、この歪んだ支配も少しは変わるじゃないか?」
ダーリオンはゼルファウスに向けて、剣を構える。
それに対し、守ろうとする魔法騎士団を制してゼルファウスは一歩前に出た。
「これまで私に刃向かってきた者だ。望み通り、相手をしてやろう」
「意外に付き合いが良いんだな。閣下でなければ、酒を飲み交わせたかもな……」
その日、レジスタンス本部は完全に壊滅した。
それはすなわち、魔法使いによる支配に、もはや終わりが見えなくなったことを意味していた。




