3-10裏.約束された未来は明るい模様
「……とりあえず、様子見だ!」
無数の魔力弾を即座に生成する。
さっきまでとは違う。
相手はもう、ただの老女王じゃない。
――少しだけ、本気を混ぜた攻撃だ。
魔力球は空中で弾け、破壊の雨となってトゥエルノーラへと降り注ぐ。
「何ぃ!」
だが、それらは彼女を包む薄い光の障壁に触れた瞬間、まるで当然のように弾き返された。
……マジか。
これまで、誰一人として防げなかった邪神竜の攻撃だぞ?
それを、こんな軽々と。
輝律杖の強化――いや、
トゥエルノーラ本人の適応力が、想定を超えている。
「遠距離攻撃は効果が薄いな。なら近接だ! やるぞヒガン!」
「了解。邪神竜を近接戦闘モードへ切り替えるのじゃ」
邪神竜が力強く羽ばたく。
体表の鱗が再構築され、より硬質な輝きを帯びる。
四本の腕、その爪に、禍々しい力が漲った。
「ターゲットはトゥエルノーラ! 邪神竜、行け!」
「突撃するぞ!」
巨体の羽が空を叩き、一直線に突進する。
この質量、この速度――
正面から止められるはずがない。
だが、トゥエルノーラは逃げなかった。
輝律杖を静かに構え、こちらを見据える。
周囲に無数の光が生まれ、それらが杖の先へと吸い寄せられていく。
「究極! エターナル・ラヴ・リミットブレイカー!!」
放たれたのは、細く、頼りなさげな一本の光線。
だが――
それは邪神竜の防御紋をいとも容易く貫き、
巨体を、まるで玩具のように吹き飛ばした。
「ぐわわわわ!?」
「ぬわ~~~!?」
内部で、俺とヒガンは完全にもみくちゃだ。
体勢を立て直す暇すらない。
追撃。
桃色の光線が、再び邪神竜を貫いた。
「……これ、また初手必殺じゃないか!」
光と、愛と、魔力が溶け合い、
邪神竜の内部へと洪水のようになだれ込む。
「邪神よ――光に、なぁれぇぇぇ!!」
トゥエルノーラの声が響いた。
世界が一瞬暗転し、直後、邪神竜の体内から光が噴き上がる。
「……くそっ!」
これは、もう無理だ。
「今回は負けだ! ヒガン、爆発!」
「了解なのじゃ。……ぽちっとな」
――爆発。
凄まじい衝撃が大地を揺らし、
邪神竜の巨体は完全に砕け散った。
無数の光粒となった残滓は、天へと吸い込まれるように舞い上がっていく。
「あ”~~~失敗した! 保険、強くし過ぎたぁ!」
天界へ戻った俺は、そのままソファへダイブして叫んだ。
完全に読み違えた。
輝律杖は、本来――
適性の低い者が使っても、最低限の勝ち筋が残るように調整していた。
だが、トゥエルノーラは違った。
彼女は、想像以上に杖と噛み合っていた。
加えて、あの場が魔力で満ちきっていた状況。
条件が揃いすぎていた。
結果――
邪神竜が、一方的にやられる羽目になった。
「まあ……今回も結構楽しかったし、いいか」
「最初から、負ける気だったじゃろ?」
「さあて、何のことかな~?」
俺は指輪を操作する。
「さて。頑張った人たちに、ご褒美だ」
現世の各地へ、武器、防具、魔道具を配置していく。
伝説級の品もあれば、ちょっと便利な実用品まで様々。
洞窟の奥深くの祭壇。
魔物の巣の中。
何気ない窪地や、長年放置された倉庫の片隅――
配置条件も、すべてバラバラだ。
この世界の冒険の果てにお宝があるのは、邪神竜の欠片が散らばったという理由なのだ!
この宝の事はまだ誰も知らない。
偶然から見つかる事もあるだろうが……
「トゥエルノーラには伝えておくか。今回の功労者でもあるしな」
俺は立ち上がり、上級貴族ワタールの服装へとチェンジした。
「ヒガン。今回は俺一人で行ってくるよ。上級貴族として暫く世話になったから挨拶も込めて」
「分かったのじゃ。多少の事は自動でフォローできるから、気楽に行ってくるのじゃ」
老女王――いや、元・老女王は、
魔法少女の姿に少し苦労している様子だった。
だが、年齢による衰えは完全に消えている。
プラマイで言えば、圧倒的プラスだろう。
俺はトゥエルノーラと会い、
そして天界へと戻ってきた。
ヒガンが、いつもの調子で出迎える。
「どうじゃった?」
「ああ。もう、この時代は大丈夫そうだ。
少なくとも――
あの魔法少女が治めている間は、平和が続くだろうな」
力があり、
その意思は善政へ向いている。
そして、未来へ進むための“種”は、もう世界中にばら撒いた。
――ここで、この魔法絶頂時代の幕を閉じよう。
人々の将来は、
もう、十分に約束されたのだから。




