3-8裏.恒例のプレゼントタイム
洞窟を突き破り、地上を越え、さらに上空へと浮上する。
「うひゃー……これはまた、しっちゃかめっちゃかだなぁ」
先ほど放った魔力レーザーは、洞窟に巨大な穴を穿ち、そのまま大地を貫通。
上空で拡散した魔力は、各地へと降り注ぐ破壊の雨へと変わっていた。
衝撃波が大地を揺らし、木々はなぎ倒され、地上に展開していた軍勢はまとめて吹き飛ばされる。
だが――
(……よし)
サーチ結果を確認する。
指定通り、死者はゼロ。
負傷者と設備被害はあるが、命までは奪っていない。
派手で、恐ろしく、それでいて一線は越えない。
狙い通りの“演出”だ。
「ナイスだヒガン。これで邪神竜の脅威は十分に宣伝できただろ」
「抜かりはないのじゃ」
「よし。お披露目はここまでだな。今日は撤退しよう」
「了解した。さらに高度を上げて離脱するぞ」
無数の視線――恐怖、畏怖、怒り、絶望――を背中に感じながら、
邪神竜は重々しく翼を打ち、夜空へと溶け込んでいった。
「……なんだか、ここに帰ってくるのが久しぶりな気がするなぁ」
「この世界の時間換算なら、数か月ぶりじゃの」
天界。
俺は神殿のソファーに身を投げ出し、全身を伸ばした。
天空都市の邸宅のソファーも悪くはなかったが、やはりここには敵わない。
この柔らかさ、この沈み込み。
ここが仮想世界だという事実を、うっかり忘れてしまいそうになる。
ヒガンは管理モードに移行したらしく、ホログラムモニターに囲まれながら、ふよふよと宙に浮かんでいた。
(さて……次はどうするかな)
邪神竜のスペックを考えれば、世界の半分を敵に回しても問題なく勝てる。
だが、それは俺の趣味じゃない。
一方的な蹂躙。
抵抗の余地がない最終戦。
――つまらない。
「じゃあ、今回も“プレゼント”といきますか」
指輪に触れ、創造を開始する。
今は魔法絶頂の時代。
中心にいるのは、あの老女王だ。
「なら……杖、だな」
俺の前に、一振りの杖が構成されていく。
「輝律杖」
神聖さと理を兼ね備えた、洗練された造形。
これを正しく使いこなせば――
「邪神竜にも、きっと勝てる。……保険も付けてあるしな」
さて。
コイツを老女王の元へと届けないとな。
俺自身は老女王と顔を合わせている。印象変化等誤魔化す手はいくらでもあるのだが、ここは素直に白人形を使うとしよう。
白人形を帰還させ、しまい込む。
そして、深く息を吐いた。
「はぁ……今回の相手、柔和とはいえ、神の威厳を意識するのは疲れるな」
「何を言っておる。自動補正があるではないか」
「気持ちの問題なの!」
ヒガンの即ツッコミに、思わず言い返す。
ともあれ、ミッションコンプリート。
これで人類側にも、最低限の“勝ち筋”は用意できた。
「ヒガン。人類の動きを教えてくれ。概要だけな」
「了解じゃ。では現状の動きを概要だけ伝えるぞ」
邪神に対する反応は、思ったよりも危機感が薄い。
それも無理はない。
俺は敵役を演じているが、人死には一切出していない。自分から人死に出したくはなかった。
その為、危機感を煽る為の圧倒的破壊を演出した魔力レーザーも、建物破壊や負傷者など圧倒的破壊は見せたが人死には一人も出していないのだ。
対応の中心はウェルザルト王国。
各国から応援は来ているが、動きは慎重。
会議と相談が主で、合同訓練はほぼなし。
(……杖の練習も、してないな)
《アルカ・セラフィム》は練習必須の代物だ。
だが、おそらく警戒しているのだろう。
――邪神に見られているかもしれない、と。
概要としてはこんな所か。
それから二日が経過した。
「よし。そろそろやるか。ヒガン!」
「わかったのじゃ。場所は?」
「そうだな……開拓予定地にしよう。あそこならまだ人も住んでないし、暴れるのに都合良いだろ」
「では……邪神竜、でるぞ!」
俺とヒガンは、天界から一瞬で現世へ。
降り立ったのは、まだ誰も住んでいない建物がまばらに建つ広大な土地。
そして操るは現世の災厄、邪神竜だ!
辺りに誰も居ない。しかし……
「早速探査を受けておるぞ」
「了解。不意打ちに注意しつつ待機だ。ここを決戦のバトルフィールドとするぞ! 戦闘準備だ」
それから暫くの時間が経過。
辺りに変化は無いが……
「流石に早いな」
「ふむ、既に取り囲まれておるぞ。どう動く?」
「出方を見ようか。さぁ、この邪神相手にどうするよ人類?」
周囲の魔力が高まったと思った瞬間、周囲に何体もの巨大ゴーレムが立ち上がり、邪神竜を取り囲んだ。
巨大な腕が邪神竜を掴もうと迫ってくる。
「はは! 面白い芸だが、まだ温いぞ!」
俺は周囲にエネルギー球を展開し、それを周囲の巨大ゴーレム群に向けて解き放った。
エネルギー球は次々と巨大ゴーレムを破壊する。
しかし爆散するゴーレムの隙間を縫うように、無数の魔法が撃ち込まれてきた。
「温い温い、こんなことで揺らぐ邪神竜じゃないぞ」
邪神竜の全身に光の紋が刻まれる。
ターゲットは……人だ!
撃ち込まれた数々の魔法を弾き飛ばしながら、光の雨が周囲の人々に降り注いだ。
上手い事隠れながら撃っているつもりのようだが、邪神のサーチ力をなめて貰っては困る。
(さあ……)
この世界は、
どこまで“本気”を見せてくれる?




