3-7裏.魔王を超えた邪神様ですぞ!
「……何だ、この空間?」
視界のすべてが闇だった。
上下も左右も区別がつかない。ただ、どこまでも広がる黒。
さっきまで居た、あの呪文だらけの広間とは明らかに違う。
どうやら、完全に別の空間へ飛ばされたらしい。
「ふむ。封滅空間の類じゃな。閉じ込めた存在を、このまま消滅させる気じゃろう」
ヒガンの淡々とした声が、闇の中に響いた。
――直後。
凄まじい電撃が、俺とヒガンを包み込んだ。
雷光が闇を切り裂き、空間そのものが震える。
通常なら、肉体も魂もまとめて消し飛ぶ代物だろう。
魔王であろうと、生き残れる保証はない……
「で、これ何? 眩しいんだけど」
俺とヒガンには勿論通用しない。
激しい電撃の中で揺られていた。
「この雷撃で封印対象を破壊し、その残滓から力を抽出する仕組みのようじゃな。ほら、僅かじゃが力が流れておる」
「お、ほんとだ」
視線を凝らすと、俺とヒガンから、細い流れのように魔力が引き抜かれているのが分かる。
世界基準なら、恐らく“膨大”と呼ばれる量だ。
だが――
「……少なっ」
「止めるほどでもないの」
俺たちからすれば、誤差にも満たない。
この魔力の行き先は、十中八九バーメインだろう。
「どうしようかなぁ」
魔王として崇められるのもそれなりに楽しかった。
食べられなかったが用意された食事も、魔王の風格を出す座り心地の良い椅子も良かった。
だがこの空間は何もない。
ひたすら暗く広い空間に、眩しいだけの電撃。
「この封印から出る出口は?」
ヒガンが空間を見回す。
「完全に潰されておる。繋がっておるのは、魔力を吸い出す経路だけじゃ。生物が通れる構造ではないの」
普通なら、ここで詰みだ。
生存も脱出も不可能。
――普通なら。
「じゃ、その経路から戻るか。封印壊れても構わんだろ」
「確かにの」
この封印は、閉じ込めた相手をすり潰して力を奪うという、悪辣なシステムだ。
そのシステムで俺とヒガンを攻撃して、その力を奪おうなんて魂胆が気に入らない。
俺達であれば、これを破壊して脱出するのは簡単だ。
だが――
「……ただ脱出するというのも芸がないな?」
「どうするのじゃ?」
俺は、少し考えてから口角を上げた。
「奴ら、魔王を誘拐したつもりだったよな?」
「そうじゃな」
「実際は、もっとヤバい存在だった……って展開、どうよ?」
ヒガンが小さく笑った。
そう、釣った獲物は想像以上だったのだ!
「悪くないの」
指輪を操作した瞬間――
この闇の空間に、巨大な存在が顕現した。
竜。
だが、ただの竜ではない。
四本の腕。
禍々しくも神性を帯びた角と翼。
全身から溢れ出す、制御されない魔力。
邪神。
そう呼ぶに相応しい姿だった。
破壊のための電撃は、この邪神の身体に触れた瞬間、意味を失った。
俺とヒガンは、その内部で意識を共有している。
「お、広間の様子が見えるな」
「軍とバーメインが対峙しておる」
絶好の舞台が整っている。
「よし。派手に行こう。ヒガン、頼む」
「任されたのじゃ」
邪神竜の口腔に、魔力の光が灯る。
圧縮され、凝縮され――
電撃とは比べ物にならない輝きへと変わる。
「撃て」
「ぽちっとな」
放たれた魔力流は、封滅空間そのものを粉砕した。
砕け散る闇と空間片を突き破り、邪神竜は前進する。
視界が開けた。元の広間だ。
そこに揃っていたのは、『魔王の後継者達』、バーメイン、ウェルザルト王国軍と老女王トゥエルノーラ。
この邪神竜のお披露目としては十分な役者達だ。
「ガァァァァァッ!!」
とりあえず、吠えてみた。
洞窟全体が震え、悲鳴と混乱が走る。
足を縺れさせる者、腰を抜かす者。
だが流石は強者達だ。
恐れつつも、様々な魔法を撃ちこんできている。
一際強い火と雷の魔法も打ち込まれてきたが、その程度でどうにかなる邪神ではないのだ!
他の魔法と同じように弾いた。
自身があった魔法なのだろう。トゥエルノーラが驚愕の表情を浮かべていた。
だが、その後の判断は早い。
「撤退!」
老女王は即座に軍を退かせた。バーメインや『魔王の後継者達』も残らず連れて行っている。
最後まで残ったトゥエルノーラともう一人の視線が俺に向けられたのが印象に残った。
撤退の判断は正しいと思う。
かなり広い広間とはいえ、このまま俺が暴れると洞窟全体が崩落する恐れがあるからな。
広間には邪神竜だけとなった。
「さて」
俺は、邪神の喉奥で笑う。
「この時代のラスボスは、俺だ! 派手にやるぞ!」
「うむ」
「……あ、人死にだけは出さないでね」
「了解じゃ」
邪神竜の口と手から撃ち放たれた魔力レーザーが広間の天井に突き刺さる。
その衝撃で洞窟は崩壊し始めていた。
見上げると、洞窟から空が覗いている。
さあ、世界の人間たちよ。この邪神竜にどこまでも抗ってみせろ!
世界の人間と対決する為、巨体を宙に浮かせた。




