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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
魔法絶頂時代 (神域残響65)
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3-6裏.魔王様と崇められるのも悪くない

  現在位置を確認する。

 場所は「エルグナーシア」の奥地に造られた洞窟のようだ。

 自然洞窟というより、内部は明らかに人為的に拡張されていた。

 洞窟の最奥には巨大な空洞が広がり、床、柱、壁――視界に入るあらゆる場所に呪文式が刻み込まれている。

 儀式用……それも相当大掛かりなものだろう。

 俺は、その空洞のど真ん中に据えられた椅子に座らされていた。

 玉座を意識しているのか、無駄に立派な造りだ。


 ちなみにヒガンは、俺の隣に用意された寝椅子に座っている。

 いや、座っているというより“転がされている”に近い。

 どうやら俺以外の存在は想定されていなかったらしく、明らかに急ごしらえだ。


 そして俺たちの前には――

 多数の『魔王の後継者達』が、頭を垂れて傅いていた。


 ……完全に誤解している。


「我らが魔王様! この度はお逢いできたことを、心より光栄に思います!」

「だから俺は魔王じゃないって言っているだろ」


  ジト目で睨んでみるが、男は微動だにしない。


「話は聞いております。いずれ魔王様として覚醒して頂くとして、記憶を呼び覚ます手助けを致します」

「こりゃ、俺の話聞いてないな……」


  しかしこいつらは俺をどうするつもりだ?

 後ろの方でひそひそ話している奴がいる。「記憶ってどうやって戻すんだ?」とか「精神に作用する魔法があった……よな?」とか。

 ……驚くほど無計画だな。


 とはいえ、ここまで来ると少し面白くなってきた。


「都市開発の仕事は暫く休みだな。ヒガン、しばらく付き合うぞ」

「分かったのじゃ」


 こうして、俺が“魔王として崇拝される日々”が始まった。




「魔王様は、我々の理解を遥かに超えた、深淵なる精神の統一を行われているのだ!」


  そんな解釈が勝手に広まっていった。


 俺とヒガンの足には枷が付けられている。

 転移魔法を阻害する効果があるらしいが、正直、俺たちには意味がない。


 だから椅子に座ってうっかり眠っていると――

 連中はそれを「瞑想」と受け取ったらしい。


「魔王様、少しよろしいでしょうか?」

「ん? 何?」


  否定するのも面倒なので、呼び名は好きにさせている。


「真の記憶を呼び覚ますため、記憶に作用する魔法を……」


  俺に魔法が効かないのは言うまでもない。

 それに“真の記憶”なんてものも、そもそも存在しない。

 好きにかけさせてやったが、当然何も起こらない。

 彼らは落胆し、術式を見直し、議論を繰り返す。


 ……なんかごめんな。


 ちなみにヒガンは、寝椅子ですやすや眠っていた。

 脇にはフルーツ、菓子、飲み物がずらりと並び、待遇がやけに良い。


 ……魔王の俺より扱い良くないか?




  俺を魔王として覚醒させようとする目論みは続く。

 あの手この手で俺に働きかけてきたが、勿論全て失敗している。

 その為か、後ろの陰では「なんか違うんじゃないか?」とか、俺を魔王とする事に疑問視も出てきているようだ。


「魔王様の古代記憶は魂に刻まれているが、余りに永い時に埋もれていたのだ。我々の精神に関する魔法の未熟もあるが、そう容易に開放されるとは思わない事だ」


  『魔王の後継者達』の代表らしき男は必死に説明しているが、一度亀裂が入れば、その修復は難しいだろう。

 そして――

 バーメインだけが、少し離れた場所で何かを続けていた。

 視線を合わせようともしない。


 なお、ヒガンはさらに甘やかされていた。

 ぬいぐるみ、クッション、豪華な食事、お菓子の山。


 俺について探りを入れる目的なのは見え見えだ。


「ワータルの事を聞かれても、言った事で全部じゃ」

「最近、何か変わったことは?」

「早起きするようになったの。早朝の景色を見たいから、と」

「おお、そこから何か分からないか?」


  何も分からないと思うぞ。


 そうそう。食事についてだが、俺にも負けず劣らず豪勢な食事を用意してくれている。

 用意してくれるのだが、俺はこの世界の味を味わうことが出来ない。

 申し訳ないが出される食事を拒否。


 断ると、こうなる。


「魔王様は悲しみや絶望など、負の感情を糧とされる……かもしれない!」


  認定が、より深まっていく。

 なんか少し迷いが見受けられるが。

 そうした楽しくも無駄な時間は、唐突に終わりを告げた。


「軍が来たぞ!」


  そりゃそうだ。

 表向き、俺は上位貴族で、しかも将来の都市を開発する事業を手伝っているという重役!

 そんな上位貴族が誘拐されたとなれば、救出部隊が送られてくるのが当たり前だよな。


 しかし『魔王の後継者達』は余り動揺していなかった。

 数日こいつ等を見ていて分ったが、こいつ等は多少中二病が入っているが才能に溢れている。

 軍が来ることぐらいは予想していたのだろう。


「では出迎えてあげましょう。皆、いくぞ!」

「門番のゴーレムで壊滅していたら笑えるな」


  全員が出口に向かっていく。

 ……いや、一人残っていた。


「どうした、バーメイン。行かないのか?」


  この数日間。他の奴とは異なり、何やらこそこそとやっていたのだ。

 何か企んでいるようだが、さて?


「色々と試して来ましたが、魔王様は未だ覚醒されておられません」

「だから、俺は魔王じゃないって、最初から言っているだろ?」

「――ですので」


  バーメインが、ゆっくりと笑った。


「私の判断で、魔王復活は諦めます。

 代わりに――私が、新たな魔王となることにしました」


  俺とヒガンを囲む魔方陣が激しく発光し、怪しい闇が包み込むように立ち上った。


「それでは、お疲れ様でした。後の事はお任せください」


  その言葉と同時に――

 俺とヒガンは、完全な闇に包まれた。

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