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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
魔法絶頂時代 (神域残響65)
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3-5裏.わ~襲撃だ~(棒読み)

「ん~? 来ないな」


  ソファーに寝転がったまま、俺は天井を見上げてぼやいた。

 空中都市の邸宅――贅沢な調度品に囲まれて暮らしているくせに、退屈というのは平等に降ってくるらしい。


「向こうにも都合というものがあるじゃろ」

「そりゃそーだけどさー」


  ヒガンは涼しい顔で答える。

 俺はむくれたまま足をぶらぶらさせた。


 ――あれだけ「やるなよ」って釘を刺したのに、普通は逆に火がついて速攻で噛みついてくるだろ。

 イベントフラグをこれでもかと立てたつもりだったんだが、反応が無いと肩透かしを食らう。


 モニターで追跡すれば向こうの動きなんてすぐ把握できる。

 こっちから出向けば無理矢理にでも事態は動かせる。

 けど――俺が仕掛けるのは負けだ。

 「巻き込まれるのがイベント」であって、「起こしに行くのは興ざめ」。そのくらいのこだわりはある。


 そんなわけで、何も起きないまま日々の仕事だけが過ぎていった。

 



 そんなある日の夜。


「ようやく来たな?」


  ベッドから勢いよく起き上がった。

 部屋の灯りも、窓から見える街の景色も至って静か。

 それでも――俺が貼っていたセンサーは正直だった。

 大人数がこちらに接近している反応が、はっきりと。


 胸の奥が高鳴る。

 恐怖じゃない。待ちわびた「幕開け」の鼓動だ。


 パジャマを脱ぎ捨て、私服へと手早く袖を通す。


「さて……通知からすると大人数で来ているみたいだな」


  屋敷は広いが、中で十数人が騒ぐには狭すぎる。

 なら――庭でお出迎えしてやろう。


「ワータル。起きていたか」


  廊下に出ると、ネグリジェ姿のヒガンが枕を抱きしめて立っていた。

 寝起きで髪が少し乱れているのが妙に愛らしい。


「ヒガンは手を出すなよ。何もせずじっと部屋で待っててくれ」

「うむ、わかった。飲み物でも準備しておこう」

「ホットミルクでも宜しく」


  軽口を交わし、俺は玄関扉を開いた。


 折悪しく月は雲間に隠れ、庭一帯は夜の闇に沈んでいる。

 その闇の中――いくつもの巨体が蠢いていた。魔物だ。


 その影をかき分けて、一人の男が進み出る。


「今晩は、ワータル様」

「今晩は。名前はまだ聞いてなかったな?」


  目の前の男は、前のあの時に俺を見ていた奴だ。

 『魔王の後継者達』ってやつだよな?


「これは申し遅れました。私はバーメイン。ご推察の通り『魔王の後継者達』の一人です、魔王の生まれ変わりよ」

「魔王の? 俺が?」


  魔王と言えばアリアンだ。

 だが、アリアンは獄界で多分まだ生きているはずだ。

 とは言え、そんな情報を知っているのは俺とヒガンだけ。


「人違いとは思うけど?」

「……成程、まだ自覚はありませんか。ならば……」

「!?」


  一瞬、空気の密度が変わった。

 バーメインが腕を払うと同時に、魔力の粒子が閃光を帯びて弾ける。

 俺の目の前に魔法弾が放たれていた。

 速い! 俺でなきゃ見逃しちゃうね。


 俺は考える。これどうしよう?

 見た所、早さだけでなく結構威力がありそうだ。もし一般人が受ければタダでは済まないだろう。

 だけど、俺にとってはこの程度蚊に刺されるようなものだ。真正面から受けてもなんともない。

 それは異常な事では無いだろうか?

 だが無傷で立っていたら――完全に魔王と決めつけられる。


 という訳で、偶然を装って防御しよう。


「ちょ!」


  袖を硬質化させながら、顔を防ぐように腕を振るい倒れこむ。

 魔法弾は弾け、地面を抉った。


 バーメインの目が驚きに見開かれる。


「ほぅ! アレを弾くとは……行け!」


  バーメインの合図と共に魔物二匹が襲い掛かってきた。

 俺は某錬金術師のように、地面から棘を生やし魔物を貫く。

 倒れる魔物の間を縫うように、先程の魔法がまた撃ち込まれてきた。

 これは予想出来た事なので、地面から壁を創造し防ぐ。


「魔物ども! どんどん突っ込め!」


  次々と魔物が襲い掛かってくる。更に、バーメインの魔法が魔物を巻き込むのも構わず撃ち込まれてきた。

 これは不味い……

 何が不味いかと言うと、『ギリギリ防御し反撃している』と見せるのが難しくなってきたのだ。

 本気を出せば攻撃を防ぎ躱して全滅させる事は容易い。

 魔物は殺せば済む話だが、バーメインはそうもいかない。

 そして俺の全力を見たバーメインは、ますます俺を魔王認定するに違いない。


「これほど大騒ぎしているのに、周りは気が付かないのはどうしてだ?」


  凌ぎながら周囲をちらりと見る。闇夜の中に杭が見えた。


「あれか!」


  恐らく防音の結界具を使っているのだろう。

 魔法で炎を生み出し、結界具を破壊した。これで近所は騒ぎに気付くだろう。

 しかしバーメインは直ぐに対処した。自身の力で防音の結界を張ったのだ。

 しかし焦っている。個人の力でこの結界をいつまでも維持する訳にはいかないだろうし、攻撃にも参加できない。


 これで後は魔物を全滅させれば俺の勝ち……と思っていました。

 屋敷の扉が唐突に吹き飛び、中から魔物が飛び出してきた。別動隊が居たか?

 そして空いた扉から新たな『魔王の後継者達』に羽交い絞めにされているヒガンが姿を現した。


「ヒガン、なにやってるんだ?」


  ヒガンなら、例え大群に組み伏せられようが塵を払うように押し退けられるはずだ。


「何もせずと言われたからの」


  ああ成程。例え襲われても何もしなかったのね。


「ワータル・シーク、動かないで頂こう。この娘を傷つけられたくなければな」

「ああ、わかった。降参だ」


  俺は諸手を挙げて降参を示した。

 ここまで来てしまえば積みだ。

 それにこいつ等に付き合ってみるのも面白いかもしれない。


「良い判断です。さあ、我らの……貴方の居城となる所へご招待致しましょう」


  結界を解いたバーメインが手を差し伸べる。

 その背後に広がる闇は、まるで奈落の入口のようだった。

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