3-4裏.創りっぱなしの魔物との再会
遠くの方で、空気を揺らすような轟音と爆発音が断続的に響いていた。
斬撃か、衝撃波か、それとも魔法か――いずれにせよ、派手な戦いらしい。ウェルザルト軍と魔物の衝突だろう。
「おー、向こうも派手にやってるようだな」
「そのようじゃな」
俺とヒガンは、戦場とは別の方角にある未開拓の森へ足を踏み入れていた。誰にも知られてはいないが、ここにも魔物が密かに群がっていたようだ。木々の陰に潜む鋭い視線が肌を刺す。獲物を前にした捕食者の視線――いや、若い人間が二人、餌が来たと認識していると考えた方が近いだろう。
ただ、魔物の連中も俺たちの設定上の魔力量は感覚で察しているようで、飛びかかるタイミングを探りながら様子をうかがっている。
「いっぱい来ているようだけど、強そうなの居るか?」
「神々の時代から生き残った魔物はまだ数多く居るはずじゃが……ここに居るのは雑魚ばかりじゃな」
「そっか~。じゃ、パパっと片付けますか」
品定めが済んだのだろう。魔物たちが一斉に姿を見せ始めた。
平べったい体躯の狼型、棍棒のような腕を持つオーガー、大きすぎる鉤爪を持った猛禽――見たところ、この時代に生まれた新しいタイプの魔物のようだ。
「ガルゥゥ!」
「はいはいっと」
牙を剥いて飛びかかった狼型の顎に、俺は軽くアッパーを打ち込む。
骨が砕け、頭部が粉砕し、そのまま絶命。
「思った以上に弱いな」
「だから雑魚と言ったじゃろ。強そうな奴はこの辺りには居らぬ」
これがトリガーとなったか、次々に魔物が襲い掛かってくる。
牙で襲い掛かってくるのが多いが、中には糸を飛ばして来たり魔法を放ってくる奴もいた。
しかし、群れて襲ってきても俺には全然足りない届かない。
当たってとしても、かすり傷ですら負うか怪しいけどな。
ヒガンの方を見るまでもない。近付いてくる魔物は、触れる前に全て倒れていく。
もはや戦闘というより、事故映像だ。
やがて、生き残った連中が勝ち目なしと判定し、慌てて四散して逃げていった。
俺たちの目的は魔物退治じゃないので追う必要はない。
「これぐらいかな?」
倒れた魔物たちをざっと見回すが、俺が創造に関わった魔物は――多分いない。
「ヒガン。この辺りに居る魔物はこれぐらいか?」
「ふむ……この辺りにはこれぐらいじゃの。お主が創造した魔物は丁度今、ウェルザルトの軍と戦っているようじゃ」
「お、今戦ってるのか」
戦場の様子をモニターで確認してみる。
結構いい勝負しているな。おや、なんか女王もいらっしゃる。
一応拮抗しているが、俺が創ったドラゴンがやや優勢だ。
おっと、ドラゴンの巨体を生かしたボディプレス。これにより軍は総崩れだ。
このまま軍が負けると思っていたが、なんか強い女の人が登場。あっという間にドラゴンを退けた。
……なんか俺が負けたようでなんか悔しい。
「そのドラゴンがこっちの方に逃げてくるみたいだから、待ってようか」
「わかったのじゃ。では、此方に気付けるよう誘導しておくのじゃ」
「よろしく!」
木にもたれ掛って待つこと暫し。
血まみれのドラゴンが空を飛びながらやって来た。
周りの木々を薙ぎ倒しながら俺とヒガンの前に着陸する。盛大な音と土煙が辺りに広がる。
「おー、久しぶり! 良く生きてたな!」
「ぐぅるぅ♪」
鼻先を俺に擦りつけてくる。
覚えていてくれたのか。ちょっと嬉しい。
「お~よしよし。ちょっと大人しくしろよ。傷を癒してやる」
指輪を操作して治癒させる。
血の汚れはそのままだが、傷は大方回復した。
完全回復させてもいいが、自力回復の経験も成長には必要だろう――それに、別の理由もある。
バレていないと思っているようだが、老女王トゥエルノーラが隠れながら此方の様子を見ていたのだ。
さらに、その奥にもうひとり――男。刺すような視線で俺たちを見ている。
「あいつが『魔王の後継者達』って奴か」
「じゃと思うぞ」
女王はドラゴンに止めを刺しに来たのだろう。
問題は、その男の方だ。なぜそんなやつがここに居る?
視線が女王ではなく、俺とヒガンに向いている――そこから状況は読み取れた。
「よし。ドラゴンよ」
「ぐる?」
「追加の力をやっとくけど、子供とか身内とか子分とかを引き連れて、この地を離れておけ。色々と騒動が起きそうだからな」
「ぐるぅぅ」
擦りつけてくる鼻に手を置いて、ドラゴンを完調させ追加の力を注ぐ。
これで良い。生きていたらまた会おうぜ。その時には背に乗せて飛んでくれよな。
「じゃ、あいつだ!」
瞬間、転移。
『魔王の後継者達』の男の背後に回り込み、肩へ静かに手を置いた。
「余計な事はするなよ……俺は静かに暮らしたいんだ」
男は動けないでいた。
男の体が硬直し、首筋を汗が伝う。
まあ、監視していた相手がいきなり背後に居たらそうなるよな。
「くれぐれもよろしく。な?」
言葉を残し、俺はヒガンと共に天空都市の邸宅へ瞬間移動した。
ソファへ腰を下ろし、思わず息が漏れる。
――そう、これは完全にフラグである。
これだけ釘を刺せば、まあ、間違いなく何かしら動いてくれるだろう。
ふふ、さて……今夜あたりにでも訪ねてきてくれるかな?




