表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
魔法絶頂時代 (神域残響65)
65/67

3-1裏.上級貴族ワータル・シーク爆誕!

  夏の朝は早い。

 ビル風に混じる熱気に押されながら、俺は今日も駅前の高層ビル──「ニューロ・ネクスト・コーポレーション」へと向かった。

 太陽はすでに真上。照り返しが肌を刺すようで、自然と歩幅が速くなる。


 ビルの自動ドアをくぐると、冷えた空気が頬を撫で、ほんの少しだけ救われた気分になった。

 いつもの流れで受付を抜け、指定された施設室に入り、カプセル型ベッド”ドリームコクーン”の電源を入れる。

 今日もまた仮想世界の記録を読み解く──




 整った石畳。風に揺れる色とりどりの旗布。焼きたてのパンの匂いが漂う露店。

 目に入るもの全てが“ファンタジーしてる”街並みで、胸がちょっと高鳴る。


「すげーな、この街並み。正にファンタジー世界って感じで!」


 隣を歩くヒガンも、興味深そうに周囲を見回している。

 どんな街か見てみようと適当に訪れたが、予想以上に当たりだった。

 石造りの家並みに、煙突から上がる白煙。商人が声を張り上げる露店の喧騒。

 これぞ王道ファンタジーという景色が続いている。


 ふらりと歩いていたら、教会らしい建物が視界に飛び込んできた。白壁に尖塔、重厚な扉。まさにそれっぽい。


「ヒガン! ここ入って大丈夫かな?」

「大丈夫じゃ。お主は設定すればどこにでも問題なく入れるじゃろ?」

「いや、そういうもんでもねぇだろ。力で押し通すだけじゃ味気ないし」


 俺はそっと扉を押し開け、中を覗き込んだ。


「ようこそ創世教へ!」


 出迎えたのは、一人のシスター。

 長い淡い水色の髪が清らかな雰囲気を纏い、柔らかな笑みを浮かべていた。

 シスター服じゃ隠しきれないくらいスタイルがいいのも、正直目のやり場に困る。


「全てを創造された神のお話をいたしましょうか? それとも、創造と魔法の関係についてでしょうか?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、俺はただ通りがかっただけで──」

「はっ! まさか恵み神殿からの刺客!? 神話時代の因縁を、また……!」


 話が飛躍しすぎてて理解が追いつかない。

 なんとか誤解を解き、ようやく世間話に持ち込むことができた。

 

 この国はウェルザルト王国。勇者神の血を引く名家が建国した国らしい。

 今いるのはその地方都市で、王都は魔法の力で空に浮かぶ“天空都市”だという。


 さらに世界の現状についても聞けた。

 人々は今は神力を使えず、代わりに魔法だけが使われている。


 俺がヒガンに尋ねると、彼女は少し得意げに説明を始めた。


「神力は万物の根源エネルギーでの。魂が活動する燃料でもある。ウォルクらはそれを創造や攻撃など様々な術に使っておった。

 一方、魔法は神力が体から零れて、現世の力として固定化したものじゃ」

「つまり、元は同じ力ってわけか」

「そうじゃ。ただし一番の違いはエネルギー量の差。比べ物にならない差があるのじゃ。また、神力は万物の根源に影響を与えることが出来るが、魔法は限定的。ただ、魔法は細かい操作に秀でておるな」


  何故、神力が使えなくなって魔法を使うようになったのか?

 それは原罪による人の劣化。神力が使えない程、神域残響が落ち込んだ結果なのだ。

 神力は完全に途絶え、現在の人々は魔法が万能であると思っているようだが、アダムが見れば鼻で笑うだろう。

 いや、アダムは性格的に笑わないけどさ。


「そういえば申し遅れました。私はこの偉大な創世教のシスター・アクリエルと申します」

「偉大な?」


  俺は見渡したが、この建物に俺たち以外は誰一人居ない。


「あ、良ければお二人のお名前をお伺いしても?」


  逸らしたな。まあ良いけど。

 それにしても創世の神ということは、俺の事だろ? こうも人気が無いのは少し悔しいな。


「そうだな……俺はワータル・シーク。こいつはヒガン」


  俺の名前は念のため少し変えておく。

 創世の神の名前は伝わってないようだけど、念のため一応な。


「この街でお見かけした事は無いのですが、最近お越しになられたのでしょうか?」

「いや、この街にはちょっと立ち寄っただけだよ」


  アクリエルの話によれば、この国は評判がよく移住者が多いらしい。

 魔物の動きが活発な今、勇者神の血を継ぐ国への信頼は厚いのだとか。


 確かに、この街を歩いているだけで人々の表情が明るいのがわかる。

 誰もが平和の空気を吸い、暮らしに満足している様子だった。

 治世が良く行き届いているのだろう。

 ウォルクが見たら、きっと喜ぶだろうな。


「良い話が聞けたよ、ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして。それでは、もしよろしければ──この創世教に……」


  そういえば、現状『貨幣』という概念は無いのだった。

 誰もが魔法で必要なものを創造できるので、貨幣が必要になっていない。

 ただ、魔法や創造に得意不得意があるようで、得意なものを商品として売り出している。それが表の露店だ。

 代価として貰うのが新しい知識。知識が貨幣のようなもの。


「い、いや。感謝の気持ちとして、これで」


  俺は指輪を操作した。

 瞬間、教会の外壁が揺らぎ、白い光の粒が走る。

 みるみるうちに建物は塗り替えられ、重厚な装飾と神秘的な意匠をまとった“神殿”へと姿を変えた。

 創世の神という俺を祀る場所なら、このくらい派手でもいいだろ。

 オマケで、教会の下に広い秘密部屋を作っておいた。入り口もそう簡単には見つからないし開かない。

 いつか、役に立つかもな。


「こ、これは……っ!?」

「気にしなくていいよ」

「これほどの創造魔法……もしかして、ワータル様は貴族様でしょうか?」


  貴族? どういう理屈だ?

 首を傾げる俺に、ヒガンが小声で説明してくれる。


「誰でも創造魔法は使えるが、この規模となると一週間はかかるのじゃ。貴族なら数日で成すゆえ、勘違いされても仕方ないの」

「はー、そうなのかー」


  ……なるほど。

 それなら、今日はこの“勘違い”を利用させてもらうか。

 俺は指輪を操作し、設定情報を確認しながら、ゆっくりとアクリエルへ向き直った。


「そう……実は俺はこの国の上級貴族、ワータル・シークさ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ