3-20.未来の大勝利
邪神が振り広げた腕に、禍々しい紫電が渦を巻き、球状の光が生まれる。
「オォォォォオァ!」
邪神の咆哮とともに、光球から無数の光線が乱射された。
それはまるで意思を持つかのように軌道を変え、トゥエルノーラたちへ降り注ぐ。
「ヤバッ!」
セラフィアがトゥエルノーラを抱えたまま飛び退いた。だが、光線は執拗に追尾し、二人の張った薄い障壁を粉砕すると、容赦なくセラフィアの肩を貫いた。
地へと叩きつけられ、二人は転がる。
光線の雨は彼女たちだけでなく、この場にいる全員にも降り注いでいた。障壁は意味を成さず、回避も追いつかない。
地上には悲鳴と呻き声が連鎖し、戦場は一瞬にして阿鼻叫喚と化した。
「……くっ」
「セラ、大丈夫!?」
トゥエルノーラは痛みに耐えて起き上がり、倒れ伏すセラフィアに駆け寄った。
幸い急所は外れていたが、肩は抉れ、動かせる状態ではない。
魔力尽きの身では治癒もままならず、せめてもの応急処置として薬草入りの包帯を肩に巻く。
辺りを見渡す。
――無傷なのは自分だけだった。
ただ無傷というだけで、魔力は底をつき、体も鉛のように重い。
対して、空には無傷の邪神が悠然と浮かんでいる。
「絶体絶命って、こういう状況を言うのね……。ここまで追い込まれたのは初めてだわ。……でも」
邪神は一つの光球を生み出していた。
その光球は急速に膨張し、私たちごと一帯を消し飛ばすほどの大きさへと育っていく。
「諦めるなんて……私の辞書には無いのよ!」
トゥエルノーラは輝律杖を握り直す。
体に残る僅かな魔力を振り絞り、杖へと送り込んだ。
無論、こんな微量の魔力で邪神に抗えるはずがない。
それでも――何もしないまま終わりを受け入れることだけは、彼女の誇りが許さなかった。
ゆっくりと。
邪神の巨大な光球が、まるで運命を押し付けるようなゆっくりとした速度で、彼女の頭上へ落ちてくる。
「我はウェルザルト王国女王、トゥエルノーラ・ウェルザルト!
邪神よ――人の意地を見なさい!」
その瞬間だった。
輝律杖が淡く震え、秘められた機能が解放された。
「え……?」
大気を満たしていた散逸魔力が一斉にトゥエルノーラへと集束する。
まばゆい光が彼女を包み込み、影の輪郭だけが光の中心に浮かび上がった。
服が弾け、体が一気に縮む。
回転しながら光の帯が体を包み込み、ひらりとしたフリルへと形を変える。
髪がふわりと広がり、瞬く間に大きなリボンで結ばれていく。
さらに光が集まり――その変身の最中、邪神の光球が迫っていた。
――刹那。
光を割って飛び出した小さな影が、幾重にも展開した魔方陣を潜り抜けるように跳躍し、邪神の光球を貫いて弾き散らした。
煙が晴れる。
邪神の前に、小柄な少女がふわりと浮かんでいた。輝律杖を構え、どこか可愛らしい決めポーズを取っている。
「は?」
老女だったトゥエルノーラは、幼い少女へと変貌していた。
衣服は魔法少女仕立ての可愛らしいドレスに変わり、発する声も若々しく澄んでいる。
思わず地上のセラフィアが叫んだ。
「エル、可愛い!!」
「こ、この姿は一体……若返った?」
戸惑うトゥエルノーラを、邪神の怒りが襲う。魔力弾が無数に降り注ぐが――
「きゃっ……って、えっ?」
それらは彼女の纏う薄い光障壁に触れた途端、簡単に弾き返された。
これまで誰も防ぎ得なかった攻撃が、まるで小石のようだ。
邪神は苛立たしげに翼を広げ、突進してくる。
「よ、よくわかりませんけど……この身体なら!」
トゥエルノーラは輝律杖を回し、迫る邪神へ向けて突き出した。
周囲に無数の光が生まれ、それが杖の先へ凝縮していく。
「究極! エターナル・ラヴ・リミットブレイカー!!」
杖から放たれたのは、細く、頼りなさげにも見える光の線。
しかし、その一条は邪神を包む魔力を突破し、巨躯を吹き飛ばした。
邪神は森へ激突し、大地が揺れる。
「はっ!」
続けざまにトゥエルノーラの桃色の光線が追撃し、邪神の体を貫いた。
黒き巨体が悲鳴を上げる。
「あなたのような邪悪は――世界の愛と正義が、決して許しません!」
両手で輝律杖を掲げ、さらなる魔力を送り込む。
光と愛と魔力がひとつに溶け合い、光線を通して邪神へとなだれ込んだ。
「邪神よ――光に、なぁれぇぇぇ!!」
世界が一瞬暗転し、直後、邪神の体内から光が噴き上がった。
――爆発!
凄まじい衝撃が大地を揺らし、邪神の巨体は砕け散る。
無数の光粒となったその残滓は、天へと吸い込まれるように舞い上がっていった。
こうして――
人類の、
そして魔法少女の――大勝利となった。




