表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
魔法絶頂時代 (神域残響65)
61/66

3-18.邪神を貫く光

  不気味なほど、邪神は姿を見せなかった。

 しかし――その静寂は、女王トゥエルノーラにとって僅かな救いでもあった。

 彼女には、山のように積まれた「やるべきこと」があったからだ。


 各国から続々と援軍が到着し、女王はその迎え入れと会談に追われていた。

 さらに、神より授けられた《輝律杖》を最大限に活かすため、各国の魔術師団と通信連携の整備を進める。

 行方不明となったワータル様とヒガンちゃんの捜索も続いており、洞窟の崩落地点を中心に探索隊が組まれていた。


 輝律杖を試す訓練も行いたい――そう思うたびに、トゥエルノーラは空を見上げる。

 輝律杖を使った訓練も行いたかったが、なにせ相手は邪神。下手にその力を見せれば、どこからか見ているかもしれぬ存在に、こちらの手の内を晒すことになる。

 結局、ぶっつけ本番で挑むしかない。それがどれほどの危うさを孕むかを知りながらも。


 忙しくしていると時間はあっという間に経つもので、いつの間にか二日が経過していた。


「陛下! 例の化物が現れました!」

「現れた? どこです!」

「開拓予定地です! 現在、平地の上空に漂い、動く様子はありません!」


 都合の良い――いや、まるでこちらの準備を待っていたかのようなタイミングだった。

 前日の戦いから体力も魔力も回復し、各国との連携も整っている。しかも現れたのは人のいない地帯。

 地形も広く見晴らしが良い。防御にも、攻撃の布陣にも好都合だった。


 それでも、胸の奥の疑問は消えなかった。

 邪神の目的は何なのだろう?

 そして……未だ行方知れぬワータル様とヒガンちゃん。

 彼らは、あの存在に囚われてしまったのだろうか――。


「分かりました。皆に伝えてください――決戦の時です!」

「はっ!」


 窓の外に目を向ける。

 この天空都市からは邪神の姿は見えなかったが、空は不気味なほど薄暗く、鳥や空飛ぶ魔物たちが逃げ去っていくのが見えた。

 自然が怯えている――世界そのものが、あの存在を拒んでいる。


 もし、あの力が人々に向けられたら……。

 人の命など、紙屑のように散るだろう。

 絶対に、倒さねばならない。


 トゥエルノーラは深く息を吸い、心を静めると執務室を後にした。




「全員、配置に付きました!」

「分かりました」


 戦場は灰色の空の下。

 トゥエルノーラはセリフィアと魔法騎士団、そして各国の勇者隊を率い、邪神の目前――いや、あの怪物の視界の外縁に陣を敷いていた。

 地面を這うように広がる魔力の波動が、張り詰めた空気を震わせている。


「エル……大丈夫なの?」


 普段なら飄々としているセリフィアが、珍しく不安を滲ませた声を出す。


「大丈夫……と言いたいところだけど、正直、分からないわ」


  トゥエルノーラは空を見上げた。


「ただ――上手くやらなければ、この世界は終わる」


  邪神の無機質な目が、何を見ているのか。誰を見ているのか。

 分からない。ただ、その眼差しは、存在するだけで魂を削る。


「始めます!」


  トゥエルノーラの声が響く。

 その瞬間、各部隊の魔力が一斉に高鳴った。




  まず、低空に漂う邪神の周囲――そこに、突如として巨大なゴーレムが立ち上がる。

 遠隔創造魔法によるものだ。

 勇者隊の魔術士たちが、離れた位置から展開したゴーレムは十を超え、その動きはまるで意思を持つかのように滑らかだった。


 大地を震わせる巨腕が邪神を掴もうと迫る。

 だが、邪神の周囲に禍々しい光球が浮かび上がり、次の瞬間――轟音と閃光が戦場を呑み込んだ。


 ゴーレムが次々と爆砕し、衝撃波が砂と瓦礫を巻き上げる。

 その混乱の最中、遠距離の魔導士たちが一斉に詠唱を開始。

 無数の魔法弾が嵐のように邪神へ降り注いだ。


 同時に、地上では魔物討伐隊が建造物の陰から一斉攻撃を放つ。

 火炎、氷槍、雷撃――あらゆる属性の魔法が夜を昼のように照らし出した。


 だが、邪神は怯まない。

 全身に刻まれた光の紋が、反撃の予兆を示した。


 次の瞬間、光弾が雨のように降り注ぎ、地上を焼き払う。

 多くの魔物討伐隊が巻き込まれ、空間が悲鳴を上げた。


 それでも――これは想定内。

 彼らは自ら囮となることを選び、命を懸けてその役を引き受けていた。寧ろ、自分達でなければできないと豪語する。


 トゥエルノーラは唇を噛み締める。

 この戦いで、誰が生き残れるかは分からない。

 だからこそ――この一撃で、すべてを終わらせなければならない。


「皆さん! 準備は良いですね?」

「エル、頼んだわよ!」


  セリフィアの声が背を押した。

 魔法騎士団と勇者隊が詠唱を終え、すべての魔力が一点に集中する。


 邪神の視線は地上に釘付け。

 ゴーレムの残骸と粉塵に遮られ、この天空の一点に浮かぶトゥエルノーラの存在には、まだ気づいていない。


 女王は宙に舞い上がり、掲げた杖の先に光を集めた。


「放てッ!」


  その号令とともに、数百、数千の魔法が彼女のもとへと収束する。

 奔流のように押し寄せる魔力の風が衣を煽り、トゥエルノーラの髪を乱した。

 一瞬、このまま自分も焼き尽くされるのでは――そんな想像が脳裏をよぎる。

 だが、彼女はその恐怖を飲み込み、ただ前を見据えた。


 神の使いより授かった輝律杖アルカ・セラフィム

 その真価が今、明かされる。


「集え、我が信頼たる魔の力よ――!」


  杖が震え、無数の魔方陣が宙に浮かび上がる。

 この杖の真価とは、指揮者が味方と見なす魔法を一つに束ね、その威力を極限まで高めた一つの魔法に進化させることだった。

 輝律杖から無数の魔方陣が展開され、それにより千を超える魔法が一つに束ねられ、とてつもない輝きを放つ。

 この世界の魔法を網羅しているはずのトゥエルノーラですら、比肩するものを見たことがない、神域の輝きだった。


 その圧倒的な力に、彼女は僅かに微笑む。


「集え、祈りよ――我が世界の怒りよ、響け!」


  退避の合図が出され、地上の兵が次々と距離を取る。

 邪神の姿はゴーレムと粉塵で全く見えない。しかし、あの圧倒的な気配が邪神の位置を知らせていた。


「邪神よ、貴方に恨みはありませんが、その存在を放置する訳にはいかないのです!」


  杖先が輝きを放ち、天空が閃光で染まる。


「――終律魔煌クラウンブレイザー!!」


  光が世界を貫いた。

 粉塵も、ゴーレムも、全てを弾き飛ばし、収束された魔煌は瞬時に邪神へと突き刺さる。

 すべてを包み込む破壊の奔流。

 凄絶な轟音が響き渡り、誰もが言葉を失う。


 その光の中で、邪神の瞳が――不気味な光を放った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ