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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
魔法絶頂時代 (神域残響65)
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3-9.行方不明のワータル・シーク

  ドラゴン種を追い払ってから数日が過ぎた。

 未開拓地に再び姿を現すことはなく、立ち入り禁止令は早々に撤回された。

 その知らせに街は活気づき、開発のざわめきは絶え間なく聞こえる。

 創世院の長ロドリゴは嬉しい悲鳴を上げながら、人手をかき集め、昼夜を問わず駆け回っている。


 そんな賑わいの最中、ある夜に事件は起きた。

 強固な結界に護られた天空都市へ、突如として魔物が襲い掛かったのである。


 天空都市に魔物が現れるのは稀ではあれ、過去にも幾度か例があった。

 そのため都市全体は複数の結界具で常時守られている。

 今回襲いかかってきたのはワイバーンであったが、結界に阻まれて侵入は叶わず、怒り狂ったように幾度も突撃を繰り返した。

 やがて都市警護兵による反撃を受け、虚空に絶叫を残して墜ちていった。


 ――それ自体は、決して大事とは呼べぬ出来事だった。


 だが翌日、造形局のグロウから届いた一報が、都市に暗い影を落とす。


「事件があったようだ。……ワータル・シーク殿が行方不明だ」


  朝になっても開発現場に姿を見せないワータルを案じ、部下が屋敷を訪れた。

 最初に目に入ったのは、中庭に残る争いの痕跡だった。踏み荒らされた地面、焼け焦げた芝生、そして荒々しい魔力の残滓。

 胸騒ぎを覚えた者が邸内に足を踏み入れると、そこにはさらに凄惨な光景が広がっていた。

 壁は砕け、床は抉られ、無数の魔物の死骸が転がっている。


 すぐさま魔法騎士団に通報が入り、その報は女王トゥエルノーラの耳にも届いた。




  女王がワータルの屋敷を訪れた時には、すでに魔法騎士団が調査を開始していた。

 威儀を正した魔法騎士の調査班長が彼女に敬礼し、緊迫した声で報告する。


「襲撃は昨夜。外部から魔物が押し入りました。調べた限りでは、隷属魔法で操られていた個体と思われます」


  トゥエルノーラは眉をひそめた。

 魔物を隷属させる術者は数少ない。そのうえ、これほど大量に操るとなれば限られた人物しかいない。

 だが、彼女の知る術者たちは性格や信条から見て、このような蛮行に及ぶはずもない。

 では、他国から潜入した使い手か、それとも国内に秘匿されていた者の仕業か――。


「破壊の状況から見て、ワータル様は最初屋敷の外で応戦されたのでしょう。しかし数に押され、屋敷内に退いた形跡があります。ですが最終的には侵入を許した模様です」

「……ワータル殿と、共に暮らしていた少女ヒガンは?」

「屋敷内を隅々まで調べましたが、姿は見つかっておりません。状況から判断すると、二人とも連れ去られた可能性が高いかと」


  トゥエルノーラの胸中に、冷たい予感が広がった。

 ワータルは決して強くはない。だが臆病でも無力でもなかった。その証拠に、屋敷に転がる数多の魔物の死骸が彼の抵抗を物語っている。

 ならば――彼に一体何があったのか。

 ワータルの人物像を思い返して、どのように動いたか推測した。


 女王はふと、数日前の記憶を呼び起こす。

 あのドラゴン種に語りかけていた声。あれは確かに、ワータルのものではなかったか。

 確証はない。だが、直感はそう告げていた。


 もし彼が『魔王の後継者達』の一人だったのだとすれば――。

 今回の襲撃は何を意味するのか。

 そして、この集団の我が国への影響は思ったより深刻なのかもしれない。


 ここは首都の天空都市。上級貴族の邸宅が立ち並び、厳重な防備が敷かれている。

 そんな場所での襲撃は、極めて大きな危険を伴う。わざわざそのリスクを冒した理由は何か。

 粛清か、裏切りの証明か、それとも別の意図か。


 ……考えを巡らせても、答えは出ない。結局のところ、真実を知るにはワータル本人か、あるいは襲撃者の口を開かせるほかないのだ。

 しかし、二人の行方はようとして知れず、『魔王の後継者達』に関する情報も乏しいままであった。


その時、騎士の一人が駆け寄ってきた。


「お話しの最中、失礼します。女王陛下、どうかご足労いただけませんか。……お見せしたいものがございます」


 案内されて辿り着いたのは、中庭の片隅だった。そこは火炎魔法を受けたのか、一面が黒く焼け焦げている。その灰の中に、異様な黒い塊が転がっていた。


 トゥエルノーラは目を凝らし、すぐにそれが何であるかを理解した。


「これは……結界具?」

「はい。昨日のワイバーン襲撃の際に確認で、同じものを見たばかりなので間違いありません」

「結界具は国にとって極めて重要な魔法具。常設以外のものを扱えるのは限られた者だけ……」


 女王の声には驚きと怒りが混じっていた。

 この結界具は防衛だけでなく、防音や目隠しの用途にも使われる。秘密の会談や儀式にさえ用いられるほどの代物だ。

 それがなぜ、ここで焦げ跡の中に放置されているのか。恐らく襲撃の際、外部への光や音を遮断するために使用され、その後、流れ魔法で破壊されたのだろう。

 夜の闇の中では発見されず、見捨てられたに違いない。

 結界具が壊れたという事は、結界が消え、防音も遮光も効かなくなっている。

 探すのに光を出す事は出来ず、誰かに見つかる恐れもあるので長い時間探すことは出来ず、仕方なしに放棄……そんな所か。


「……手掛かりがひとつ見つかりましたね」

「ええ。私は常設されている結界具に紛失がないか確認いたします」


 調査班長は近くの騎士に命令を飛ばし、次々と調査の指示を出した。


「其方はそちらを。私は個人所有の結界具を持つ者を洗い出しましょう。……念のため、お願いがあるのですが?」

「は! なんでしょうか?」


 女王は指示を与えてから振り返り、静かに歩みを進める。

 まず確認すべきは、所有者の名簿。探究府の長エレノアが、その管理を担っているはずだった。

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