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5.「シーク・ワタル」はこの世界での俺の名前さ

「ふぅ……こんなものか」


  俺は、ふかふかでとにかくでかいソファに寝転びながら、思いっきり背伸びをした。

 草原しかなかったこの仮想世界は、今や光り輝く巨大な神殿へと姿を変えている。


 ほんの1時間も経っていない――リアル時間では。

 でもこの世界では、まるまる一日、いやそれ以上を使って設定を行ってきた感覚だった。


 吹き抜け天井の高いドーム状のホール。

 白く輝く柱と、金と青を基調にした幾何学的な装飾が壁を彩る。

 窓から差し込む淡い光は、特定の光源があるわけでもないのに、柔らかく部屋を包んでいた。


 この場所――俺が神として拠点に定めた階層世界『天界』は、

 基本的に俺とヒガンだけが活動する、完全なマイワールドだ。


 俺が望む自堕落な生活のために作られたこの神殿は、寝てよし、食ってよし、眺めてよしの贅沢仕様。

 これらが、俺の意志一つで自動でやってくれる。神がサボるための王宮ってわけだ。

 この世界で俺は疲れたりしないし、物を食う必要がある訳じゃないが、なんとなく気分良くやっていくために用意している。


「ヒガン。他のプレイヤーも、これぐらいの時間をかけて設定してるのか?」

「そうじゃの……プライバシーの観点から詳しくは言えんが、他の者はもっとじっくりと時間を掛けておるぞ?」


  神殿の片隅、光の玉のようにふわっと現れたヒガンが、楽しげに俺に答える。

 真っ赤な長い髪がふわりと揺れ、白いワンピースの裾がふんわりと風にたなびく。


 ……あいかわらず、絵になるな、この子。


 でも、正直言って、俺には複雑な設定を練るような器量はない。


「俺はさ、大枠の方向性だけ決めて、あとは全部AIに任せるって決めてんだ」

「ふむ。どういうことじゃ?」


  ヒガンが小首を傾げる。


「ほら、細かい設定って、いくらでも考えられるけどさ。絶対どこかで矛盾するだろ? だから、俺は大枠――どんな世界にしたいか、どんな役割を持たせたいか、それだけを考えて、あとは全部AI任せ。俺はこの世界の“創造神”なんだし、成り行きで進んでいく世界を“体験する”のが目的なんだよ」


  そう、この箱庭は俺の遊び場だ。

 手綱は握るけど、引っ張りすぎない。それが俺なりの神の在り方。


 そう言いながら、俺は立ち上がって指輪にそっと触れる。

 その瞬間、俺の手から走る光が波紋のように世界へ広がった。


 これが、他の階層世界の“創造指示”だ。

 今ごろ、俺の定めたコンセプトに基づいて、新たな世界が形成されつつあるはずだ。


「これで……俺が望んだ世界の基礎は整った。あとは……人、だな」

「確かに、動物も植物も既に動いておるが、人は居らんな」


  ヒガンがどこか遠くを見ながらつぶやく。


 きっと、今生成中の他の階層の情報を読み取ってるのだろう。

 俺にもできるけど、俺がさっき考えた事だ。興味が薄い。今は――初めの人間を作る時だ。


「ヒガン、『楽園』に移動するぞ。……ほら、掴まれ」

「ふむ。では失礼するのじゃ」


 ヒガンの小さな手を軽く握る。

 握ることに意味はない。ただの雰囲気。だが、こういうのが大事なのだ。


(階層世界『楽園』へ――移動!)


 意識を向けるだけで、視界がゆらぎ、景色が塗り替えられていく。


 そして――俺たちは立っていた。


 どこまでも広がる草原、透き通るような青空、太陽の光を受けてきらめく小川。

 森の匂いと、風に揺れる草の音。


 ここが『楽園』。

 聖書の“エデン”をベースに、俺なりの理想で彩った場所。


 今はまだ何もない。

 ただ、動植物が自由に生きているだけの原始世界。


 ――けれど、この地は、いずれ楽園の象徴として、他の階層世界から羨望の眼差しを受ける存在になるだろう。


「さて、そろそろ“世界最初の住人”を作るとするか。つまり、この世界における“人類の始祖”ってやつだな」

「お主はどんな人物にするつもりじゃ?」


  ヒガンが草を踏まずにふわりと浮いて、俺の隣に並ぶ。


 ……さて。

 ここで完璧なキャラ設定を捻り出すなんて、俺にできるか? いや、無理だろう。

 だから、細かい所は全てAIに任せてっと。


「よし、初めの人間として二人創る。名前は……『アダム』と『イヴ』だ!」


  俺の言葉と同時に、目の前に金色の螺旋が現れ、強い光を放ち、やがて人影を象る。


 立っていたのは、一組の凄まじい程の美男美女――俺が定めた世界の最初の人間。


 アダムは金髪巻き毛の男性。年齢設定は35歳。

 柔和な顔立ちと、バランスの取れた筋肉。精悍な雰囲気に、どこか父性的な包容力がある。

 古代ギリシャの彫像を思わせる美しさ。既にズボンを穿いているあたり、センシティブ対策は徹底されてるらしい。


 イヴは25歳。アダムと同じく金髪の巻き毛で、どこか神秘的な気品を感じさせる女性。

 丸みを帯びた柔らかな身体つきに、くびれの効いたラインが絶妙。だが、きちんと服を着ている。

 うん、分かってた。もう慣れた。


(……ハーレム計画、改めて消滅確認。ちょっとだけ夢見たけどな)


 この二人には、この世界の全情報と、リアル世界の知識を与えている。

 能力は万能。戦闘、交渉、指導、育成――何でもできる。

 老いず、死なず、未来永劫この世界の中心として君臨する存在になるはずだ。


 ただし――「俺とヒガンには勝てない」。

 これは設定じゃなく、『未知と幻想の箱庭』の基本ルール。神は絶対なのだ、自堕落遊び人が最強ってわけじゃないぞ。


「さあ、アダム。そしてイヴ!」


 俺は胸を張って、宣言した。


「神たる俺――シーク・ワタルが命じる! 二人でこの『楽園』を開拓し、住みやすくしろ! 夫婦となり、子を成し、民を増やし、この地を栄えさせるのだ!」


 二人は静かにうなずき、優しく手を取り合う。

 その姿が、なんだか神話の一場面みたいで、俺の中の中二魂が熱くなった。


(よし……俺の世界が、今、ここから始まる!)


 “創造神”シーク・ワタルとしての物語が、ようやく幕を開けた――!

今日の投稿はここまで。明日から6~13話まで毎日投稿。

その後は予定通り週二回月・木投稿に切り替えます。

申し訳ありませんが、ストックが十分に溜り安定するまでは、祝日の追加投稿は控えさせて頂きます。

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