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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
魔法絶頂時代 (神域残響65)
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3-5.掃討継続

「攻撃は陛下と後衛が行う。魔法騎士団の名誉にかけて、一匹たりとも後ろに行かせるな!」

「応!」


  鋭い号令と共に、騎士たちは円陣を組み、後衛を守る壁となった。

 森の影から飛び出してきた狼型の魔物が、四方八方から牙を剥く。

 魔法の牙は鋭く、魔術強化しているはずの鎧を容易く切り割き、盾を貫通してくる。


 痛みをこらえ、膝を折りかけても、騎士たちは身を挺して踏みとどまった。

 彼らの背後には、女王と仲間がいる。絶対に通してはならない――その矜持だけが身体を動かしていた。


「アイスランス!」「ウィンドカッター!」「シャドウバースト!」


  後衛から矢継ぎ早に魔法が放たれ、光と影の奔流が前線を照らし出す。

 魔物は魔法への耐性と異常な耐久を誇るが、絶え間ない術の連打に、やがてその体を崩していく。


 そして――


「定められた種子よ 今こそ揺らぎ弾け! バーストシード!」


  澄んだ声と共に、幾つもの小さな光球が魔物の体へ潜り込む。

 瞬間、魔物の身体が震え、次いで内側から爆ぜるように破裂した。

 女王トゥエルノーラの魔法だった。

 その一撃ごとに、戦場の均衡は女王の側へと傾き、数多の魔物が地に伏していく。

 やがて、最後の一匹が絶命すると、場に静寂が戻った。


 班の指揮官が声を上げる。


「状況を報告せよ!」

「重症3名、軽傷5名……そして……くそ。死亡1名です」


 報告の声が震えた。死の匂いが、戦場に重く沈む。

 被害の大半は魔法騎士団に集中していた。鎧は無惨に裂け、盾は砕け、彼らの身体もまた血と汗にまみれている。


 女王トゥエルノーラは眉根を寄せ、唇を結んだ。

 胸に広がる痛みは、ただの戦場の損耗ではない。自らが率いた作戦で命を失った騎士がいる。

 その責を思うと、心が締めつけられる。


「思った以上に魔物が強い……」


  小さく呟く声は、誰に聞かせるでもなく、己の悔恨を押し殺すようであった。


「陛下! 一度本隊に撤退しましょう。我が班が随行いたします」


  指揮官の声には焦りと決意が入り混じっていた。

 指揮官の判断は正しい。女王も頷くしかない。これ以上、無理を重ねれば取り返しのつかぬ惨事となる。

 ここだけでこれだけの被害が出ているのだ。他はもっと酷いことになっている可能性もある。

 討伐を続けるにしろ撤退するにしろ、一度本体に戻って体勢を立て直すべきだろう。


「……わかりました。ご遺体も一緒に戻りましょう」

「勿論です。さあ直ぐ撤退するぞ、全員急げ!」


  周囲の警戒を継続しながら、負傷者に肩を貸し、戦死者を担ぎ上げる。

 仲間を失った騎士たちの顔には怒りも悲しみもなく、ただ使命を果たすための硬い決意だけが浮かんでいた。

 撤退の準備はすぐに整い、その場をあとにする……




  本隊に到着したトゥエルノーラは、平和な日々の中では見なかった、苛烈な光景を目にする。

 至る所で呻き声が上がり、血の匂いと薬草の香りが入り混じる。

 衛生術師たちが必死に走り回り、圧倒的な人手不足を補おうとするも追いつかない。

 まさに修羅場であった。


「これは……」


  思わず息を呑むトゥエルノーラのもとへ、魔法騎士団長マグネ・ロイルネルが駆け寄る。


「陛下、よくご無事で」

「マグネ様……ご心配をお掛けしました。それで、現状は?」


  彼の報告は重苦しい。

 各班は狼型以外にも多様な魔物と遭遇し、善戦はしたが損耗は大きく、撤退を余儀なくされた。

 負傷者は多いが、幸い死者は少ないらしい。

 だが、癒し手が全く足りておらず、討伐の継続など到底不可能――初日の掃討は失敗に終わったのだ。



 その日の夜。

 女王と魔法騎士団長、各班長による緊急会議が開かれた。

 暗がりに灯された灯火の下、誰もが疲労を隠せぬ顔で議論を交わす。


「魔物達は平地には出てこないのですね?」

「はい。報告では森から出てくる様子はありませんでした。念のため見張りを置いていますが、今のところ状況に変化はありません」

「それは良かった。では次……あの魔物をどうするか、という点です」


  決して勝てない相手ではない。だが、まともに当たれば損害は大きくなるだろう。

 平地周辺の魔物を掃討できないとなると、新都市の計画は大きな変更を余儀なくされる。それは避けたい所だ。

 

「魔法で魔物は倒せるのだから、森ごと遠距離で薙ぎ払ってはどうだろうか?」

「今回は一旦撤退し、今回の情報を元に準備するのは?」

「なんとか平地に誘き出せないだろうか?」


  様々な意見が出てくる。

 どれも一理あるが、決定打に欠け、議論は迷路を巡るばかりだった。

 やがて視線は、女王と団長へと集まる。


 先に口を開いたのは団長マグネだった。


「撤退か、掃討か。いずれにせよ方向を定めねばなりません。陛下は、どちらをお望みでしょうか」


  平地は確保できており、その周辺の森から今のところ魔物が出てくる様子はない。

 つまり、開拓のための最低限は既に達成しているのだ。

 これ以上被害が出るぐらいなら、今回は撤退という選択肢も悪いものではない。

 少しの思考の後――女王は瞼を閉じ、静かに答えた。


「……掃討を継続します」


  その声は揺るぎなく、しかし心の奥底には苦悩が滲んでいた。

 ここで撤退したとなると、世界の中心たるウェルザルト王国の名が他国から侮られる恐れがあるのだ。

 勝てる相手に被害を恐れて撤退した、勇者の血も薄れたものだ……と。

 侮られ余計なトラブルを起こされては、この平和にヒビが入ってしまう。


「ただし今日のように分散して当たるのではなく、戦力を集中して行います」

「しかし、それでは予定日程からズレることになってしまいますが」

「構いません。今日のような被害が出るより良いでしょう」


  その一言に、場にいた者たちは静かに頷いた。

 決断は下された。

 女王の言葉は誰の責にもせず、どの様な結果になろうとも、すべてを背負う覚悟に満ちていたからだ。


 こうして方針は定まり、夜更けまで会議は続いた。

 明かりが消えることはなく、今日の敗北を二度と繰り返さぬための策が練られ続けた。

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