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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
魔法絶頂時代 (神域残響65)
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3-3.炎の矢

「成程……発動前の徹底的な探査と分析が要となるのですね」


  女王トゥエルノーラの前で実演された新しい攻撃魔法『炎の矢』は、従来の魔法を遥かに凌駕する威力を示していた。

 魔法によって強化された鋼の鎧が、矢が突き刺さった瞬間に音もなく解体され、散り散りの破片となって崩れ落ちる。

 その様は、破壊というよりも、秩序だった存在そのものを否定されたかのようであった。


 攻撃範囲においては既存の魔法に一歩劣る。

 だが、狙った対象を確実に仕留める――それこそがこの魔法の真骨頂だった。


「探知や探査の魔法を重ね、幾層にも炎を変質させます。対象の弱点を見抜き、その一点に『破壊の概念』を付与する……この魔法は、効率を極限まで追い求めた理想の結晶です!」


  興奮気味に説明するのは、探究府下位部門・技術開発部のエーテル・ブレイズである。

 ブレイズ家は古来よりあらゆる魔法体系を網羅し、独自の理論を築いてきた上級貴族。

 その功績は王国の歴史に数えられるほど大きい。

 にもかかわらず、彼自身は名誉よりも研究に没頭することを選び、下位部門に籍を置く奇人でもあった。


「少し……試しても良いですか? 私も興味があります」


  トゥエルノーラの声は穏やかだが、その眼差しには研ぎ澄まされた光が宿る。


「おお! 女王陛下もこの魔法の価値を理解なさるか! よろしい、新しい的を用意しろ!」


  観覧席を後にし、女王は実演場へ歩み出る。

 新たに設置された鎧が、青白い光を受けて鈍く輝いていた。

 彼女は深く息を吸い込み、先ほどの説明を魔力に織り込む。

 老齢の身に刻まれた経験と智慧が、発動の構築を隙なく導いた。


「火の理よ……静かなる構成を見よ、我が眼に移れ。結びし理よ、割かれし時を待て。めぐりし魔力は炎と変じる。溶ける刃、浸す息、震える鼓動、砕ける意思。概念の滅びを齎さず届け!」


  そして魔法が完成する。


「――『炎の矢』!」


  白と青が織り交ざる矢が生まれ、宙を優雅に弧を描いて飛ぶ。

 次の瞬間、矢は鎧を射抜き、内部から光の衝撃が奔った。

 鎧は整然と分解され、静かに爆散する。


 その結果に、女王は小さく眉を寄せる。破壊の徹底ぶりに、胸の奥に重い影が差したからだ。

 一方、エーテルは子供のような笑顔で拍手を送り続ける。


「見事です! まさか初めてでここまで……! しかし、驚くべきは弱点を“外して”発動された点ですな。この魔法の本質を理解していなければ不可能な芸当!」

「……ええ。でも粗は大きいわ。結果は破壊にしか至っていないでしょう?」


  そう。女王は弱点を突くこの魔法で、逆に全て外して発動したのだった。

 この魔法を受ければ、対象は確実に破壊される。逆に言えば生かすことは出来ないのだ。

 そこで、探知探査で得た結果を操作して、発動する。

 そうすれば、不殺となるのではと思ったのだが、なかなか上手く行かないようである。


 とりあえず、この魔法は有益なものだろう。

 まずは『炎の矢』として安定性を高め、精錬していく。そして、他の属性への応用も考えられるに違いない。


魔法の未来を語り合う二人のもとへ、伝令兵が駆け込んできた。


「失礼します、閣下!」


 膝をつき、差し出されたのは一通の封書。魔法通信ではなく手紙であることから、緊急性は薄いが秘匿性の高い情報と知れる。

 女王は封を切り、目を走らせる。


(魔法騎士団から……『魔王の後継者達』が動き出した……!?)


 その文字に、老女王の胸がざわついた。

 彼らは数十年前から姿を見せ始め、自らを魔王の後継者と称する者たち。犯罪の証拠こそ乏しいが、新種の魔物の背後に必ずと言ってよいほど彼らの影があった。

 初代魔王が魔物を創造したという伝承を思えば、ぞっとする符合だった。


(……確かめねばなりませんね)


 女王は決意を固め、魔法騎士団へ向かうことを心に定める。


「如何なされました? 女王閣下」

「ごめんなさい。この談義を続けたかったのですが、急用が出来ました。これにて失礼します」

「わかりました。では」


  お互いに礼を交わし、女王は歩み出す。




  翌朝。

 開発区域では、創世院下位部門・造形局のグロウ・ウィンドが感嘆の息を漏らしていた。

 彼の目の前で、若きワータル・シークが都市の建築を一気に創造していたのだ。


 一般市民レベルであれば、家一軒を建築するだけで一ヶ月はかかる。上級部門の人間ならビル一棟で一ヶ月と言った所だ。

 それを彼は複数のビルを同時に創造している。しかも、この勢いであれば一週間もあれば完了するだろう。

 もっとも、内部に装飾の類は全く無い。間取りも設計を無視して単調なものとなっていた。

 まあ、その辺りは造形局の人間で仕上げてやればよいだろう。そう割り切れるほど、彼の働きは規格外だった。


 創造が安定するまでは魔法を継続する必要がある。

 魔法の発動を継続するワ―タル殿に飲み物を持ってくる、赤髪の少女が居た。

 シーク一族の養子、ヒガンという子だ。

 この子については、魔法を使っている所を見たこともないし紹介もされたことが無い。

 グロウは、あの子に何か事情があり、ワータル殿が助ける為に養子としているのだと推測していた。

 邪魔にならなければ、良いかと考える。


「よし、やるか! ワータル殿の魔法を見てないで、さっさと各自の作業を始めろ!」


  いくらワータルの創造が早くとも、新都市構想は広大だ。

 ここだけでなく、未開拓地にもいずれ手を入れないといけないのだ。それを考えれば、この地の開拓は出来るだけ早く進めたい。

 グロウも、自分が担当する区域に創造魔法を展開し始めた。




  その作業を、遠くから見下ろす影が二つあった。


「あれですか? あの方の生まれ変わりかもしれないというのは?」

「俺は生まれ変わりがあるとは信じていない。ただ、あの方の何かを持つに足る何かがあると思わないか」


  一つの影が慎重に探知の魔法を投射する。

 この距離の探知魔法を行使できる人間は少ない。それだけ、この影たちの実力を伺い知れた。


「魔力は確かに大きい様だけど……上級貴族ならこれぐらい珍しくもないじゃない?」

「前から言っているだろう。表面的な事だけに注目するなと……あれだけの魔力に、その揺らぎが全く感じられない」

「……確かに。それに横の小娘も同様ね。調べる価値はあるか……」


  探知魔法を中断する。

 この探知が何にも引っかかって無い事を確認する。

 この用心深さが、『魔王の後継者達』を長年誰にも、その実態を掴ませない要因となっていた。


「これ以上は誰かに感づかれる恐れがある。引くぞ」

「これぐらい、そこらの魔物や通りがかりと変わらないわよ。ったく。分かったわよ」


 闇が溶けるように一人が姿を消す。

 もう一人も去ろうとした瞬間、ふとワータルに視線を投げかけた。


「――っ!?」


 冷や汗が背を伝う。

 ワータルの瞳が、確かに自分を捉えていたのだ。

 しかし、直ぐに思い直す。偶然だと。

 あいつも言っていたが、これぐらいの事は誰かでもやっている。

 万一察知したとしても、自分達を特別視する理由はない。そのはずだ。


 何か底知れない恐れを覚えながら、その影もその場から消えていった。

魔法絶世時代の『炎の矢』


基本原理 対象を単に燃やす、溶かすといった直接的な熱エネルギーによる破壊に留まらず、魔力の精密な制御により、対象の特定箇所に「炎」の属性が持つ「破壊」の概念を多様な形で集中・付与し、物理的、化学的、あるいは構造的な脆さを突いて崩壊させる。

破壊プロセス

1.魔力による分析と炎の多態性発現

 まずは対象の物理的・科学的組成、構造、そして潜在的な弱点を魔力で精密に分析する。

 この分析に基づき、炎の矢に付与する炎の属性を決定。例えば以下のような多態性を持つ炎となる。

 ・融解炎:特定の物質の融点を極端に下げる効果を持つ炎

 ・浸食炎:物質内部の分子結合を侵食する性質を持つ炎

 ・共振炎:対象を構成する分子や原子の固有振動数に合わせ、共振によって内部から破壊する炎

 ・熱衝撃炎:極めて狭い範囲に瞬間的に超高温を発生させ、急激な温度差で物質を破砕する炎

 この段階で、炎の矢の形状を持ち、視覚的に青白かったり緑がかったりと、その性質に応じた微細な色の変化を帯びる。


2.弱点への精密集中と概念的付与

 生成された炎の矢は、ただ対象に向けて放たれるのではなく、分析によって特定された「弱点」または最も弱い個所へ誘導され着弾する。

 ・対象が金属であれば、その結晶構造の結合が最も弱い一点に融解炎を集中させ、連鎖的な崩壊を誘発させる。

 ・岩石であれば、その亀裂や微細な降雨胴に熱衝撃炎を送り込み、内部から破砕する。

 ・有機物であれば、特定の化学結合を狙って浸食炎を作用させ、分解反応を促進させる。

 このプロセスは、物理的な熱エネルギーの伝達だけでなく、「対称を脆くする」「結合を解く」といった概念的な破壊の力を、炎の媒体を通じで複数付与する側面を持つ。


3.連鎖反応と複合的な破壊

 特定の弱点に集中された炎の力が作用すると、そこで発生した破壊が周囲に連鎖反応を引き起こす。

 一部の物質が融解することで構造全体のバランスが崩れ、あるいは化学変化が急激に進むことで、対象は見た目以上の速さで、かつ複合的な様相を呈して破壊されます。最終的に、対象は粉々に砕け散る、あるいは内部から完全に崩壊して原形を留めない破片と化す、といった形で消滅する。

 残されるのは、焼け焦げた跡というよりも、精密に破壊された痕跡となる。

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