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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
神話時代 (神韻残響80)
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2-10裏 神話時代を終えましょうか

「この世界初の勇者と魔王の戦いは、勇者が勝ちを手にしたことを、この世界の神たるシーク・ワタルが見届けた」


  そう宣言した俺の声は、虚空に広がるモニター越しに木霊するように響いた。

 けれど、それを聞くのは俺自身と、背後で小さく首を傾げるヒガンくらいだ。


「なにやっておるのじゃ?」


  振り返れば、赤髪を揺らすヒガンの大きな瞳が、きょとんとした好奇心で俺を見つめている。


「いや、ほら。偶には神様っぽいことしないと、威厳というか……神って感じが出ないだろ?」

「ワタルがやったのは、結局のところ見学と、アイテムを与えて事態を助長しただけじゃろ」

「うっ……」


  反論できなかった。

 事実、俺が積極的に地位や力を振るいたい訳じゃない。

 けれど、俺なりに「神」という存在を演じてみたかったのだ。……本当のところは、ただ歴史の節目を見届けたい、そんな好奇心の方が大きかったのかもしれないけど。


 画面の中では、勇者ウォルクとシアレナ、そしてライラが、戦いの余韻に包まれている。

 瓦礫と灰の匂いが漂う都市の中では、それでも人々は歓声をあげ、再建の希望を語り合っていた。


 その一方で、俺への信仰は既に薄れつつあった。

 『現世』に生きる人々は、俺ではなく、創世時代を駆け抜けた英雄たちを信仰の対象とし始めている。

 きっと千年も経てば、俺の名など完全に忘れ去られてしまうだろう。


 でも、それでいいのだ。

 世界は人が作り、人が選ぶ。俺はただ、その流れを見守る神でありたい。そう思っていた。


「さて……後始末だな。アリアンは逃がすか」

「人に任せぬのか?」


  とヒガンが首を傾げる。


「任せても処刑になるだけだろ。せっかく渡した封環エクリプス・リングも、どう扱われるか分からないしな」


  アリアン――初の魔王。

 彼の残した爪痕は大きい。だが同時に、魔物の創造という偉業も成し遂げた。

 彼の存在が、後世にどれほどの影響を与えるかは計り知れない。……だからこそ、一度だけ機会を与えてみたかった。


「そういう訳で、アリアン転送」


  神力を失い、疲弊した彼に生き残る術はほとんどない。

 俺はウォルクたちの目の届かぬ瞬間を選び、そっと彼を僻地へと転送した。

 人に出会うことさえ難しい辺境だ。生き残れるかは分からない。

 だが、それも彼自身が背負うべき試練だろう。




  勇者一行は凱旋し、都市は再建へと歩み出した。

 話し合いの中で、彼らは今回の戦いの問題点を真摯に語り合い、未来へと繋げていこうとする。

 俺はその姿を見て、胸の奥がじんわりと熱くなる。

 ――この世代の人間は、根っこの部分で善良なのだ。アリアンですら、無闇な虐殺を望まなかった。

 その証を俺は確かに見届けた。


 ウォルクとシアレナの血を継ぐウェルザルト一族は、英雄の家系として歴史に深く刻まれた。

 世界は彼らを中心に大きく動いていくだろう。その未来を思うと、俺は少しだけ誇らしい気持ちになった。


 ……だが、ふと気付く。俺は数日間、アリアンの行方を追っていなかった。


「そういえば、アリアンはどうなった?」


  問いに、ヒガンは白い指をひらりと動かす。

 瞬く間にモニターにアリアンの姿が映し出された。


「生きてはおるが……妙な場所に迷い込んだようじゃ。そこは階層世界『獄界』じゃな」

「獄界か……」


  その名を聞くだけで、胸の奥に冷たいものが走る。

 だが実際の獄界は、名の響きとは違う。

 そこには死はなく、ただ暗闇に包まれた静謐がある。新たな命も生まれず、ただ永遠に留まり続ける世界――安らぎであり、同時に閉ざされた牢獄でもあった。


 俺は小さく苦笑する。


「……あれ、実は俺の誤記でな。本当は『極界』にするつもりだったんだ。でも『獄界』も響きが良かったから、そのままにしたんだよ」


  アリアンはそこで、自らを極める道を選んだのだろう。

 他者を脅かさぬ限り、彼の試練は続いていく。

 あの暗闇の中で、彼は何を見出すのか。俺は少しだけ興味を覚えた。




  こうして、神々の時代に起きた大事件は幕を閉じた。

 魔物の誕生は、人類にとって新たな脅威であり続ける。

 だが同時に、それに抗うための研究や工夫は、人々の文化と技術を飛躍的に進化させていくだろう。

 恐怖の影からこそ、輝きは生まれるのだ。


 そして「魔王」。

 それは単なる魔物の支配者ではなく、人々の存在を脅かす象徴そのものとして位置づけられた。

 魔王が現れたなら、人々は互いの諍いを捨て、一致して立ち向かわなければならない。

 その掟は、この戦いを教訓として固く取り決められたのだ。


 一方、勇者に関しては特別な制度は作られなかった。

 ウォルク自身が望まなかったからだ。

 ただ彼の物語は、人々の口から口へと語り継がれていく。その勇気と挑戦の記憶は、未来を生きる者たちの心を奮い立たせるだろう。


 やがて時は流れていく。

 神に等しい力を持つ人々でさえ、世界の変化を止めることはできない。

 人の営みは、俺の手を離れて独自の道を進んでいくのだ。


 ――こうして神話時代は幕を閉じる。


 この時代、俺は多くを傍観していた。人々の勇気や愚かさ、善意や欲望を、ただ見守ることしかしてこなかった。

 けれど、それでも胸の奥に熱が残っている。

 歴史が動く瞬間を、確かに見届けたという実感が、俺を震わせていた。


「次は……もっと踏み込んでみるか」


  俺は独りごちる。

 人と交わり、時代に関わる。それもまた、神としての楽しみ方の一つだろう。

 後、アリアンの真似をして、魔物を作ってみるのも楽しいかもしれない。


 遥かなる未来を思い描きながら、俺は天界のソファーに身を預ける。新たな時代が、もうすぐ訪れるのだから。


 ここで、この神話時代の幕を閉じるとしよう。

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