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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
神話時代 (神韻残響80)
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2-9裏 決戦見学

  アリアンが姿を現した瞬間、場の空気は一変した。

 ウォルクもシアレナも、その圧倒的な存在感に押し潰されそうになり、まるで獣に睨まれた小動物のように身を固くしている。

 あのライラですら、緊張のあまり微動だにできず、息を詰めていた。


「ま、それも仕方ないな……アリアン、世界の殆どの人から神力吸い上げてきてやんの」

「極端じゃの」


 隣にいるヒガンが同意してくれる声が耳に心地よい。

 俺が作った《エクリプス・リング》を極限まで使い込んだ結果、アリアンは他を寄せ付けない強者へと変貌していた。

 製作者としては喜ぶべき成果だ。けれど、ゲームの神として観戦者として――そして何より物語を楽しむ一人として――俺の心はざわついていた。


 だって、このままじゃアリアンのワンサイドゲームで終わっちまう。

 そんなの、見ていてもつまらない。

 俺は、この世界における「試練」や「物語」を作りたいんだ。

 圧倒的な一強の独壇場なんて、盛り上がりに欠けるだろ?


 俺は指輪を介して、ライラに小さく囁きかける。


「装具と法具を犠牲にするんだ。神器に突き差せば良い」


  あの時用意しておいた「保険」が、ようやく役立つ時が来た。


「何を伝えたのじゃ?」


  ヒガンが首を傾げる。俺は苦笑しつつ説明した。


「勇者組に渡した三つのアイテム、実は元は一つって設定にしてあるんだ。合体させると、一時的にアダム達の時代レベルまで神力を引き上げられる」


  もちろん代償はある。装具《エーメルの円環》と法具《ミーネの呼輪》を失い、今後はもう使えなくなる。

 あの回復能力や成長速度を投げ捨てるのは痛すぎるだろう。

 でも、極限まで強くなったアリアンに対抗するなら、そこまでしないと勝ち目なんて無い。


 俺がそう考えた矢先、ライラがまず装具を神器に融合させた。


「お、まずは装具からか。さすがライラ、判断が早い」


  けれどその結果、神器の奔流に巻き込まれたウォルクは意識を失いかけ、制御できぬ暴走状態に陥ってしまった。

 アリアンへと矛先を向けつつも、同時にゼアライスやリューリィへまで斬りかかる。

 観戦していた魔王組にまで喧嘩を売るなんて……こりゃまずい。


「仕方ない。ライラの封印を解除するぞ」


  俺は指輪を操作し、ライラに掛けていた神力制限を外した。

 次の瞬間、抑え込まれていた力が爆発するように吹き上がる。


「っと、これは?」


  アリアンには及ばないが、ライラの神力もまた常軌を逸していた。

 制限中ですら成長していたというのか。技術力も精神力も超一流なのに、神力においてもここまでとは。

 ――これが、本当の天才か。


「どうやら、制限中も成長しておったようじゃの。それにしても凄いのじゃ。もしアイテムの補正無しで比べたら、ライラの一人勝ちじゃぞ?」

「た、確かに……」


  ライラ対魔王組三人。戦場に轟く衝突音は、空気を震わせ俺の鼓膜を揺さぶる。

 砂塵が舞い、瓦礫が吹き飛び、まるで天地そのものが呻いているかのようだった。


 その裏で、シアレナは暴走するウォルクを必死に抑えていた。


「ウォルク……聞いて。私は……貴方が好き」


  モニター越しに彼女の声が俺の耳へ届く。思わず吹き出しそうになった。


「おいおい、ヒガン聞いたか!? 愛の告白だぞ! 激戦を背に愛の告白って、なんだよそのドラマ! 羨ましすぎる!」

「若者は良いのぉ」


  俺たちはソファーに転がり、身悶えながら笑っていた。

 にやけ顔が止まらない。自分のことじゃないのに、どうしてこんなに照れるんだろうな。


 そしてシアレナは、ついに法具を神器と合体させた。

 まばゆい閃光が二人を包み込む。物語の定番の演出だが、やはり胸が熱くなる。




  しかし、ライラの戦いはそこで終わった。

 全ての制限を外した彼女ですら、極限のアリアン、努力の権化ゼアライス、術の申し子リューリィの三人には及ばなかった。

 倒れたライラの神力を、アリアンは容赦なく吸収する。


 ――これで、この世界にアリアンを止められる者はもう居ない。

 そう思った瞬間。


 再び立ち上がったのは勇者ウォルクだった。

 完全体となった神器を握りしめ、そこから溢れる神力はアリアンに匹敵する。魔王組もその異様さに息を呑み、視線を奪われていた。


 そして始まった勇者と魔王の決戦。

 一閃。ゼアライスとリューリィが倒れる。彼らも強者だが、この次元の戦いには到底ついていけなかった。


 残るはウォルクとアリアンの一騎打ち。

 その光景は、まるでかつてのサリムとカイレルの兄弟喧嘩を思い起こさせる。

 俺は震える指先で頬を押さえながら、目を逸らせなかった。


 刃と剣がぶつかる度に、世界そのものが削られていく。崩れ落ちる山、砕け散る大地、響き渡る轟音。移動は音速を超え、残光だけが視界に線を刻む。


 互いに削られた肉体を即座に再生し、反撃に移る。

 戦場の熱と焦げた匂いが、モニター越しなのに鼻先を刺激するようだった。


 夜が明けるまで続いた死闘。互いの力は限界に近い。

 場所はいつの間にか、黒の居城にまで移していた。


「いや~良い勝負だな。ヒガン、どっちが勝つと思う?」

「能力的にはアリアンが勝っておる。ただ、この領域になると些細な差が勝敗を分ける。運じゃな」

「確かにな。勢いはウォルクの方か?」


  息を呑む俺の目の前で、最後の一撃が放たれた。

 互いに致命傷級。

 どちらも倒れる――そう思った瞬間、踏みとどまったのはウォルクだった。


 勇者と魔王の決戦。その結末は、数多の期待を背負い、そして応えたウォルクの勝利で幕を閉じたのだった。

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