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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
神話時代 (神韻残響80)
41/67

2-8裏 解説のヒガンさん

  モニターに映し出された都市ファルザーンの光景は、まるで戦場の絵巻物を覗き込むような迫力を帯びていた。

 建物群が陽を浴びて影を落とすその街並みの中、二組の戦いが同時進行で繰り広げられている。

 息を飲みながら俺は見入っていた。画面の奥で展開される戦闘は、ただの模擬戦ではなく、確かに命の熱を孕んだ現実のような臨場感を持っていた。


 一組目の戦いは、リューリィとライラ、そしてシアレナの女の子対決。

 まるで物語の挿絵のように美しい三人だが、互いに放つ神力と術の応酬は華やかさと同時に殺気を帯び、俺の胸をざわつかせた。


 リューリィは幻術を駆使し、姿を完全に隠しながら上空へと浮遊していた。

 その選択は意外でありながら理に適っている。視界が開け、地上にいるライラとシアレナの動きを容易に追える場所。

 さらに高所ゆえに不意の攻撃を受けにくい。


「姿が見えないとはいえ、あの場所を選ぶのは賢いな」


  俺は感心混じりに呟いた。


「じゃろう? 建物に逃げ込まれでもせん限り、ライラ達の動向は手に取るように分かるし、適当に放った攻撃も当たりにくい」


  隣でヒガンが涼しい顔で解説を添える。

 その声を聞きながら、俺は内心で唸った。透明化の幻術を維持しながら、追跡を阻む撹乱、浮遊術、さらには氷の矢を絶え間なく繰り出す。しかも別口で都市全体に施した大規模な幻術を維持しているのだ。

 常識外れの多重制御。やはりリューリィは桁違いだと実感せざるを得ない。


 だが、ライラとシアレナのコンビも決して凡庸ではない。

 必死に地上を駆け巡り、攻撃を避けながらも突破口を探し続けていた。俺は拳を握りしめる。

 どちらが勝つのか、緊張で喉が乾いた。


 防戦一方に見えた勇者組だったが、転機は突然訪れる。

 シアレナが囮となり、ライラが彼女を庇った瞬間、ライラの視線が空の一点で止まった。

 僅かな歪み。

 完璧に近い透明化を、彼女は見抜いたのだ。


「完璧な透明化なんて、俺かアダムやイヴ、その直接の子供たちぐらいだろうな」


  思わず口に出してしまった。

 リューリィが限界まで抑え込んだ歪みを、偶然とはいえ捕らえたライラの感覚は尋常ではない。

 その高すぎるスペックに、俺は冷や汗を覚えた。


 以降の流れは一気だった。

 ライラは目標を定め、シアレナがそれを補助。

 リューリィは迎え撃つものの、的確に防御を重ねるシアレナに阻まれ、ライラの拳骨――神力を纏った拳――が炸裂する。

 華奢な見た目に似合わぬ一撃は圧倒的で、戦いの幕を引いた。


 俺は慌ててマイクを手に取り、横のヒガンに向けた。


「解説のヒガンさん、今の勝負はいかがでしょう?」

「リューリィは神力を用いた術が強みじゃ。見ての通り身体能力はからきし。見つかった時点で逃げた方が良かったのじゃろうな」

「なるほど。強みを活かす場を作る方が正しかった、と。では勇者組の二人は?」

「うむ、二人ともリューリィの術に嵌った時点で負けじゃった。本来なら。見つけたのは偶然、正しい対処とは言えん。探知は妨害されとったが、封じられていたわけではない。もっと多様な探知を試すべきじゃったろう。リューリィの攻撃が降り注ぐ形ばかりじゃったことから、上空に気づく機会は他にもあったはずじゃ」

「解説ありがとうございます!」

「なんなのじゃこれは……」




  困惑気味のヒガンの声を背に、俺は画面を切り替えた。次はウォルクとゼアライスの一騎打ちだ。


 こちらは女性組の華やかな戦いとは対照的に、地響きを伴う剣と剛腕の激突だった。

 ウォルクは《エストレヴァル》を振るい、必死に食らいつくが、ゼアライスは冷静にいなし、反撃を叩き込む。

 その度にウォルクの体が大きく揺れ、劣勢は誰の目にも明らかだった。


「やはり地力の差か……」


  俺は思わず息を呑む。額にじわりと汗が滲むのを感じた。

 だがその時、空気が変わった。

 ウォルクが大きく息を吐き、刹那の集中を見せる。そして放たれたのは、この世界にはまだ存在しない“技”。


「おお、あれは!?」


  驚きに声が漏れる。神力万能の時代において、“技”という概念は発達していない。

 だがウォルクの振るった一撃は確かに技の形を持ち、鋭く、重く、ゼアライスを横に両断するほどの威力を見せつけた。


 この世界、神力による術が万能過ぎて、技とかは無いのである。

 ウォルクが技を考えたのだろうか?


「ライラから伝授されたようじゃな」


  ヒガンが小さく呟く。


「ライラ……恐ろしいな。神力以外でもあの才能か」


  ゼアライスの体は真っ二つに裂かれ、無惨に転がる。

 だがこの時代、人は容易に死なない。

 平然と復元し、立ち上がる姿に背筋が寒くなる。

 ウォルクは力を出し切り、膝をついたまま動けない。ここで決着かと思われた。


 しかしゼアライスは見逃した。勝者の余裕か、あるいは武士道のような高潔さか。

 ヒガンは「高潔なのは良い事じゃが……」と複雑そうに言ったが、俺は胸の奥で安堵していた。

 勇者組にとって、この一瞬の猶予は大きな意味を持つだろう。


 女性組も合流し、経過はどうあれ勇者組が勝利を収めたように見えた。俺も安堵の笑みを浮かべかけた――その時だった。


 空気が凍りつく。空間を切り裂き、そこに現れたのは最悪の敵、魔王アリアン。都市全体が息を止めたかのように静まり返り、俺の心臓も一瞬止まったように感じた。


 アリアンは世界の大半の人々から神力を奪い取った存在。アークライト一族からさえも吸い上げている。

 その力は、創世時代に匹敵するほどの脅威。画面越しでも分かるほどの圧力が押し寄せ、俺は呼吸を忘れていた。


 ウォルク達の表情が強張る。勝ち抜いた直後の疲労困憊の状態で、この化け物にどう立ち向かうというのか。


「これは……面白くなってきたな」


  自分でも震え混じりの声だと気づいた。それでも目を逸らせない。俺は拳を握りしめ、祈るように画面を見つめた。

 勇者組よ、ここからどう戦う? 絶望の淵に立たされても、君たちは希望を見せてくれるのか――。

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