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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
神話時代 (神韻残響80)
40/67

2-7裏 良い子にも勿論プレゼントだ

  舞台は都市ウェルザルト。

 追い込まれた人類が、ここで再度の対策会議を開いていた。

 前回の二面攻勢は完全に失敗に終わり、心折れかけた兵士たちや指揮官たちの顔には疲労と絶望の色が浮かんでいる。

 だが、それでも彼らは立ち止まらない。

 今度は勇者ウォルクとシアレナ、さらにライラを矢面に立たせ、順番に進軍する作戦を取るらしい。


 俺は上空の『天界』からその様子を眺めながら、思わず肩を竦めた。


「ん~、これぞ勇者の冒険って感じだよな」


  隣で椅子に座っていたヒガンが、頷きながらも口を尖らせる。


「人類側がアリアンに対抗できん以上、最高戦力を前に出すしかないのじゃろう」

「ま、そうだよな」


  勇者二人に加えてライラを同行させる――人類としては最善の判断だろう。

 とはいえ、ライラの神力は俺が封印している。

 彼女自身が切り札となることはない。だが、彼女の導きや知識があれば、勇者たちの動きは格段に洗練されるはずだ。


 俺は指先を弾き、少し考え込む。


「なら、せめて相応の装備ぐらいは用意してやるか」


  そう呟いて、意識を集中させる。

 俺の中の力が指輪を通じて形を成し、三人に相応しい神器を編み出していく。


 ――《エーメルの円環》

 ――《ミーネの呼輪》

 ――《エストレヴァル》


 特に最後のエストレヴァルは、ウォルクの戦闘力を大きく押し上げるだろう。

 隠しギミックも仕込んであるし、勇者組にも勝ち筋が生まれるはずだ。


 魔王アリアンの封環エクリプス・リングによる吸収が勝るか。

 それとも、勇者側の《エーメルの円環》による成長、《ミーネの呼輪》による補助、そして《エストレヴァル》の決定打が決まるか。

 勝負は時間がどちらに味方するか次第だな。


「じゃ、行ってくる」


  俺は席を立ち、白人形の姿を纏う。


「今回は自分で行くのじゃな?」


  とヒガン。


「勇者組だしな。問題無いだろ」


  そう言いながらも、リスク管理は怠らない。

 俺はただの「神」ではなく、この物語の観測者であり仕掛け人だ。

 直接姿を見せる訳にはいかない。だからこその白人形の姿だ。


 ――人類の英雄たちに神器を託す、ただの使者として。




  勇者組への神器の授与は、驚くほどあっさり終わった。


「ってことで、問題無く渡してきた」


  俺が天界へ戻ると、ヒガンが呆れ顔で迎える。


「えらくあっさりじゃったの」

「三人とも聞き分けが良くて助かったぜ」


  ただ一つ、彼らに「なぜ神が直接手を下さないのか」と問われた時は少し焦った。

 気持ちは分かる。俺が動けば犠牲など出ずに問題は片付くだろう。

 だが、それでは意味がない。この世界の人々が、自らの意思で困難を克服する姿を見たいのだ。


「なら、魔王側にもアイテムを渡さなければ良いじゃろうに」

「だまらっしゃい! それはそれ、これはこれなの」


  俺が勇者だけに肩入れしないのは、決着をより面白くするためだ。

 決まりきった勝負を眺めても退屈だろ?




  俺は天界から現世を俯瞰する。

 勇者組は予定通り、都市の解放へ進んでいる。

 授けた神器を駆使し、戦うたびに強くなっているのが見て取れる。

 《エーメルの円環》の成長ブーストも働き、彼らの戦闘はかつてとは比べ物にならないほど洗練されていた。


 一方、魔王アリアンは黒の居城に座したまま動こうとしない。

 情報収集を怠っているわけではないが、あたかも勇者の成長を観察しているかのように、戦場には出てこないのだ。


「なあヒガン。アリアン動かないんだけど、何考えているんだろ?」

「どうやら魔王アリアンは、己が効率よく、何物にも敵わぬ存在となるための“時”を待っておるようじゃ」

「タイミング?」

「うむ。詳しく知りたいなら教えてやっても良いが?」

「いや、それはいい! ……ほら、動き出したみたいだしな」


  勇者組の都市解放が進んだ頃、ついにアリアンが動き出した。

 だが彼は勇者を襲うのではなく、解放された都市へと向かい、再建に勤しむ兵士や市民たちの前に姿を現したのだ。


 ――阿鼻叫喚。


 いきなり魔王が現れた都市は大混乱に陥った。

 兵士たちは勇敢に挑みかかるが、やはり歯が立たない。

 アリアンは次々と彼らを薙ぎ倒し、《エクリプス・リング》で神力を奪い取っていく。

 奪った後は魔物を召喚し、都市を再び闇に沈めた。


「ん~、あれって勇者組に気付かれないのかな?」

「アリアンの仲間、リューリィが術で誤魔化しておるのじゃ。あれは目立たぬが、相当に有能な奴じゃぞ」


  なるほど、仲間の補助でアリアンは都市を次々と再占拠していく。まるでオセロの盤面がひっくり返るように。

 人類軍は勇者たちを残したまま撤退せざるを得ず、勇者組はそんな裏事情を知らぬまま前進を続けている。


 やがてアリアンは、自らの出身であるアークライト一族にまで牙を剥いた。

 里の抵抗は激しかったが、それも長くは続かない。

 ついに一族の拠点は陥落し、多くの者が力を奪われた。

 死者はほとんどいなかったが、神力を失った彼らは生き延びるために里を出るしかなかった。

 一人、また一人と姿を消し、最後に残ったのは家長のみ。

 誇り高き一族は、こうして姿を消してしまったのだ。




  その間にも勇者組は着実に歩を進め、ついに黒の居城目前、都市ファルザーンの攻略に取りかかる。


「勇者組の成長も良い感じだ。だけど、力を膨れ上がらせたアリアンには、そのままじゃ勝てないぞ。さて、どうするどうする?」


  俺は手元に飲み物を用意しながら、舞台が整っていく様子を観戦していた。

 胸の奥が高鳴る。これから始まるのは、勇者と魔王――物語の根幹を決する一戦だ。

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