2-6裏 悪い子にも働いた分だけプレゼントをあげよう
俺はあのあと、都市をこっそり抜け出して、天界に戻ってきた。
いや、別に『現世』にいても問題はないんだけどさ。
モニターを堂々と開いて見るには、ちょっと周りの目が気になるっていうか……まあ、念のためってやつ。
「さて、アリアンたちの動きはどうなってる?」
「ふむ。順調に侵略を拡大しておるようじゃの」
ヒガンの報告通り、アリアンたちの勢いはまるで燃え広がる火みたいで、止められる気配ゼロ。
ちょっと面白かったのが、支配地域が広がるのと同時に魔物の数も増えてるってこと。
アリアンが直々に生み出したのは、せいぜい数千のはず。
けれど、いざ動き出すと数万に膨れ上がり、いまや十万を超えている。
数で人類の十倍以上。しかも、種類まで増えてる。
四足獣、羽をもつ影、ぬめる泥の怪物……もはや「新しい生態系」ができちゃってる感じだ。
「へぇ~、こうやって魔物って定着していくんだな。いや~、いいもん見たわ」
ファンタジー物語って、魔物の起源とかあんまり語られないこと多いけど、この世界はちゃんと語れるな。
ってことで、そんな魔物を生み出したアリアンに、ちょっとしたプレゼントを用意してやることにした。
俺は指輪をひとつ創り出した。
冷たい光沢を放つ銀環。その表面に刻まれるのは、黒と白が溶け合うような模様。
「名前は……ヒガン、頼む!」
「封環、でどうじゃ?」
「おっ、それいいじゃん。採用!」
白人形に指輪を持たせて、アリアンの元へ送り出す。
え? 自分で行かないのかって? いやいや、なんか怖いじゃん。直接俺が行くのはちょっと……ね?
白人形を送った場所は、黒の居城。アリアンが今住んでいる立派なお家だ。
丁度一人で考え事をしていたようで、余計な邪魔が入らず助かる。
燃えるような瞳で何かを思索している。その姿は確かに「魔王」と呼ぶにふさわしい。
「……何者だ?」
アリアンが警戒して問いかけてきた。
まあ、いきなり現れたらびっくりするよな。立場的に暗殺者かもって思うだろうし。
俺の名前を出すのもなんか違う気がするし、ここは「神の使い」ってことにしておこう。
実際、俺が動かしてるけど、使いっちゃ使いだし。
「神の使いです。貴方に、与えるものがあって来ました」
自分の声を落ち着けるように言葉を選ぶ。
けれど、返ってきたのは冷たい嘲笑。
「……胡散臭いな」
アリアンはそう言いながら、いきなり神力を凝縮した球体をぶっ放してきた。
ちょ、いきなり攻撃とかやめてよ! 急すぎて白人形動かせなかったし。
まあ、俺謹製の人形だからダメージは平気だと思うけど……持ってる指輪、壊れてないよな?
「……ほう」
興味深げにアリアンが目を細める。その視線は鋭く、心の奥まで射抜かれるようだ。
なんか、アリアンは俺のこと誤解してるっぽいけど、まあいいや。
「まあ待て。私は戦いに来たのではない。忠告しに来たのでもない。――“授け”に来たのだ」
「俺に何かを与えよう? ずいぶん上から来るな!」
飛びかかってくるのは予想してたから、今度はちゃんと受け止める。
本気で撃ってきてるみたいだけど、白人形には勝てないんだな、これが!
アリアンは距離を取って神力を高め、炎の矢を放ってきた。
白人形は耐えられるけど、指輪が心配だったから、その術は消去。
「なっ……!」
アリアン、めっちゃ驚いてる。
そろそろ話を進めたいんで、その隙を突いて、人形を操り、瞬時にアリアンの首を掴んで床へと叩きつけた。
「お前は……何者だ……?」
「言っただろう。神の使いだと」
暴れ出す前に、アリアンに指輪をはめさせる。
一瞬、白人形の顔をじっと見てたけど……もしかして、操ってる俺のこと見えた?
まあ、別にいいけど。
「これは、倒した相手の“神力”を奪い、自らのものとするための指輪だ。
神力を失った者は、しばらくの間はそれを使うことができない。もっとも、いずれは戻る。……何十年かかけてな」
俺の説明を聞いて、アリアンは何か考え込んでるっぽい。
何考えてるかは分かんないけど、とりあえず目的は達成!
手を離して、アリアンを自由にしてやる。
とりあえず、投げ捨てたりはしなかったみたいでホッとした。
「……いいだろう。使ってやる。これで、アークライトの偉大さを世界に知らしめてやろうではないか!」
アリアンの声は高らかだった。だが――
「違うだろう?」
口をついて出た。なんとなくだけど、俺の中で確信めいた感情があった。
「お前がやっていることは、アークライトの為ではない。
お前自身の欲望と虚栄のためだ。栄光を浴び、崇められるためだけに動いている。始祖を語るのは、その“言い訳”に過ぎない」
まあ、アリアン自身も気づいてなかったんだろうな。
自分の行動が正しいって思いたいのは、どの時代でも一緒だし。
一応、アリアンは“悪”として動いてるわけだし、忠告してやるのも神の役目ってことで。
……って考えてたら、アリアンが急にキレた。
「出鱈目を言うなぁぁぁ!」
轟音。殺気の渦。
殺気マシマシの全力攻撃にビビって、思わず白人形を呼び戻しちゃった。
額を押さえ、深呼吸する。
あ、そういえば指輪の名前、伝えるの忘れてたな……まあ、いっか。
それにしても……無事って分かってても、つい反応しちゃうな。
今後のこと考えて、驚いて対応しないように気をつけよ。
さて、次はライラたち勇者組か。
魔王アリアンに対抗するために、何を用意してやろうかな~。
天界の窓の外に目をやる。広がるのは、光と影が織りなす世界の景色。
俺の胸に奇妙な昂ぶりが灯る。




