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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
神話時代 (神韻残響80)
35/67

2-2裏.神の導き(小声)

  アリアンとライラ。

 二手に分かれた影を、俺はしばらく目で追い続けた。

 夜の冷たい風が頬をかすめ、木々のざわめきがわずかに耳をくすぐる。

 どちらを追うべきか――ほんの数秒だが、脳裏では様々な可能性が駆け巡る。

 だが、結論は早かった。


「悩んでも仕方がない。ここはライラを追う事にするぞ」

「了解なのじゃ」


  月光を浴びたライラは、立ち尽くしたまま動かない。

 黄金の髪が銀色に輝き、その姿はまるで絵画のように美しかった。

 ……アリアンに、どんな思いを抱いていたんだろうな? もしかすると、あれはただの同胞以上の感情だったのかもしれない。

 だが、中身が高校生の俺には、そんな微妙な女心を読み解くスキルなんてない。残念ながら。


 やがてライラは踵を返し、静かに里へ戻っていった。

 背筋は真っ直ぐで、その瞳には決意の光が宿っている――少なくとも、俺の目にはそう映った。

 さてさて、直接話を聞くためにも、俺も里に戻らなきゃな。




  里の門をくぐると、夜の冷気の中でも焚き火の匂いが漂ってきた。

 ライラを待ち受けていたのは、家長だった。

 さっきまでの激怒は引いているようだが、その目の奥にはまだ燻る火が見える。


「ライラ。何処へ行っていた?」

「アリアンと話してきました」

「あいつとは暫く合わないようにと言ったはずだぞ?」


  低く落ち着いた声だが、こめかみに浮かぶ青筋がその感情を物語っている。

 まあ、昨日あれだけ言い争ったんだから、完全に冷めるまで時間が必要だろう。

 それにしても、ライラの胆力は大したものだ。

 家長の無言の圧力にも臆せず、まっすぐにその瞳を見返している。


「アリアンは動きます。彼の力はきっとこの世界に悲劇を齎すでしょう。止める必要があります!」


  言葉には揺るぎがなく、その声は屋敷の広間に澄んで響いた。

 だが家長の表情は大きく変わらない。おそらく、予想していた答えなのだろう。


「捨ておけ。追う事は許さん」

「そんな!」


  ――なるほどな。

 アークライト一族は昔から、世間に力を見せないようにしてきたはずだ。

 アリアンを追って戦うとなれば、どうしたってその力は公になる。それを避けたいんだろう。

 秘密裏に動く、なんて柔軟な発想は……この人にはないらしい。


 その夜は結局、家長が取り合うことはなく、夜が明けた。


 日が昇ると同時に、里は再び動き出す。

 土の匂いと朝露の光が、日常の始まりを告げる。

 その中で、ライラは普段着のまま家長の屋敷に入って行った。


「はいどーも、お邪魔しま~す」


  俺も少し遅れて屋敷へ足を踏み入れる。

 神設定のありがたみで、誰の目にも俺は違和感なく溶け込んでいる。


 奥の部屋から、家長とライラの声が漏れていた。

 扉を開ければすぐにでも割り込めるが、さすがに二人きりの場に入り込めば怪しまれる。

 俺は廊下の柱に背を預け、耳を澄ませた。


「世界はきっと大変な事になります! アリアンを放置するということは、アークライト一族の責任ではありませんか?」

「あるかもしれん。しかし、それでも力を示さない事が優先されるのだ!」

「それはアークライトの力で、世界に害を齎さない為です! 起ころうとしている事を見過ごしては本末転倒です!」

「……黙れ。理由は何であれ、我々は力示してはいけないのだ。示せばそこから罪に繋がる……」


  話し合いは平行線を辿っているようだった。

 ライラは理屈を重ね、感情を込め、あらゆる手を使って説得を試みる。だが家長は掟という盾を崩すつもりがない。

 昨日の晩と同じく、議論は平行線のまま終わった。


「さて、家長との話し合いは進みそうにないぞ?」


  ライラはどうするのかな?

 ライラの家の明かりは、夜の間ずっと明かりが灯っていた。

 何かの準備をしている様子。




 夜が明け、曇りがかった朝が訪れる。

 空気は湿り気を帯び、空の色は重く沈んでいた。

 里が完全に目覚める前、ライラは荷物を背負って家を出た。


 その前に立つ家長。険しい表情を浮かべながらも、ライラと目を合わせず、遠くの空を見つめている。


「……家長が……一族が動かないなら、私だけでもアリアンを止めます。邪魔しないでください」


 しばし沈黙が降りた後、低い声が返ってきた。


「お前が……勝手に何をしようと儂らは知らん。個人のやる事まで口は出さん……勝手にせい」


  ライラの瞳がわずかに見開かれる。

 昨日まで頑なに拒んでいた家長が、今はその背を押すような言葉を口にしたのだから。

 立場上、家長は動けない。だが心のどこかでは、アリアンを止めてほしいと願っているのだろう。


 ライラは短く頷き、里を出て行った。



  俺は道の途中でライラとすれ違う。

 足を止め、低く囁いた。


「アリアンは、北の森で、黒い城を建ててそこに居るぞ」


  彼女が振り返ろうとした瞬間、俺は姿を消す。

 辺りを見回し、俺を探す様子がしばらく続いたが、やがて彼女は北へ向かった。


 まあ、居場所の当てがなければ助かる情報だっただろう。

 アリアンたちは今ごろ、魔物を生み出して戦力を増やしているはずだ。

 ――さて、ライラはどう動くのか。

 俺は胸の高鳴りを抑えられなかった。

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