表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
神話時代 (神韻残響80)
31/67

2-14.神装法真剣エストレヴァル・ルーメナス

  大地を裂き、瓦礫を巻き上げる轟音が響き渡った。

 アリアンの放つ神術は大地を粉砕し、衝撃波となって周囲の建造物をも薙ぎ払う。

 その余波だけで、地面は幾筋もの亀裂を走らせ、立っているだけでも足元をすくわれそうだった。

 対するウォルクの斬撃は、鋼を断ち割る一閃のように鋭く、建物の壁をいとも容易く切り裂いていく。

 魔王と勇者――二つの存在が、破壊と力の奔流をぶつけ合っていた。


 アリアンが両手を広げ、再び神力の術式を展開する。

 術式の紋様は空中に浮かび、淡くも恐ろしく輝く光が集束しはじめた。

 ウォルクはその光の奔流を迎え撃つように神器を振るい、幾度も受け流し、避け、時に斬り裂きながら、徐々に距離を詰める。


「それが、神の使いから授かった力か!」

「ぉぉぉおおおお!」


  ウォルクの声は獣の咆哮にも似ていた。

 神器を通して溢れ出る神力は、彼の肉体を内側から焼くかのように暴れ回り、握る手は震え、息は荒くなる。

 制御を失えば、己すらも破壊するであろう膨大な力――それを彼は必死に押さえ込んでいた。


「がぁぁ……おお!」

「どうした? 力を御しきれていないぞ? まるで獣だ」


  アリアンの嘲笑が耳を刺す。

 その挑発に反応するように、ウォルクの瞳に神力と同色の輝きが宿り、理性が少しずつ削られていく。


 攻撃を躱したアリアンの向こうに、静観していたゼアライスとリューリィ。

 その姿が目に入った瞬間、ウォルクの動きが変わった。

 まるで標的を変えたかのように、彼は二人へと斬撃を放つ。


「おお!」

「ウォルク!?」


  ライラの声も届かない。

 ゼアライスがその斬撃を受け止めるが、その腕には以前のような余裕はなかった。


「どういうつもりだ?」


  と問いかける間もなく、ウォルクは蹴りを放ち、ゼアライスの体を弾き飛ばす。

 だが、その腹へ氷の矢が飛来する。


 鋭く、凍てつく矢が命中し、衝撃でウォルクは数歩後退した。


「やる気なら……死ぬよ?」


  リューリィの冷たい声とともに、氷の破片が宙を舞う。

 ゼアライスは即座に体勢を立て直し、アリアンが合流した。

 三人の魔王側戦力が一列に並び、戦場の空気は一気に張り詰める。


 その緊迫した空気を裂くように、ライラとシアレナがウォルクに駆け寄った。

 しかし、暴走した彼は二人すらも敵と見なし、神器を振るう。

 ライラは驚きつつもシアレナを庇い、その一撃を受け止めた。

 その衝撃で足元の石畳が砕け、火花と共に二人の距離が一瞬離れる。


「シアレナ! 法具をウォルクに!」

「う、うん……!」


  だが、アリアン達が迫る気配が背を刺す。

 ライラは歯を食いしばり、ウォルクをシアレナへ押しやりながら叫んだ。


「隙を見て、神器に法具を! 頼むよ!」


  彼女はすぐさまアリアン達の前へ躍り出る。

 足元の地面が砕け、風圧が頬を打つ。全身が軋むが、怯んでいる暇はない。

 シアレナは必死になって、ウォルクを抱きしめ暴走を止めた。




「ライラか……お前一人で俺達を止められるとでも?」アリアンの声が挑発的に響く。

「どうかな? 今の私は……調子が良い!」ライラの瞳には、確かな自信と覚悟が宿っていた。


  不調が嘘のように神力が満ちる感覚。

 それは理由こそ分からないが、確かに彼女の身体は今、全盛以上の力を得ていた。

 アリアンとリューリィの術を紙一重でかわし、ゼアライスと正面から衝突する。

 金属と金属がぶつかる甲高い音が、戦場に響き渡った。


「何!?」


  ゼアライスが驚きの声を上げる。

 ライラは低く呟いた。


「……時間くらいは稼げそうだね」



 ライラは三人の連携攻撃を受け切っていた。

 だが、反撃の隙を探す余裕はない。無理をすれば即座に圧殺されるだろう。

 ――それでも、彼女は踏みとどまった。背後にはウォルクとシアレナがいる。その時間を稼ぐために。


「早く頼むよ……ウォルク、シアレナ」




  一方、シアレナは必死にウォルクを抑えていた。

 暴れるたびに神器が振るわれ、その衝撃が彼女の体を打ち据える。

 回復術を使えば、その瞬間に抑えが外れかねない。

 彼女の中に、焦燥と恐怖が入り混じる。


(私の……唯一の取り柄は、この法具による回復術。もしそれすら失ってしまったら……)


  その不安を押し殺そうとするほど、胸の奥が締めつけられる。

 だが、ライラが一人で立ち向かう姿を見たとき、心の奥で何かが崩れた。

 それは信頼だった。自分を信じて戦ってくれている――その事実が、彼女の迷いを吹き飛ばす。


「ウォルク……聞いて」


  既に正気を失って暴れているウォルクの耳元で、囁くようにシアレナは伝えた。


「私は……貴方が好き、愛しています。けど、強くて魅力的なライラが現れてから、ずっと怖かった。貴方がライラを好きになってしまうんじゃないかって。勝る所の何もない私を見向きもしないんじゃないかって。だから、この法具を預かった時、これが私の魅力なんだって思い込んだの……けど、そうじゃないよね。思い込みを大事にしてしまって、本当に大切なことから目を反らしたら駄目だよね」


  シアレナは法具を握りしめ、ウォルクの持つ神器に目を向けた。


「これが……この法具があるから、貴方の隣で居られるって思っていた……。でも、もういい! この力を受け取って。あなたに、勝って欲しい! ライラを、世界のみんなを救って、勇者ウォルク!」


  シアレナの押さえつけを跳ねのけたウォルクは、暴走のまま神器の刃をシアレナに向ける。

 シアレナは、それに合わせて法具を神器に突き刺した。自分の手ごと貫かれるのも構わずに。

 痛みと共に、光が爆ぜる。血に染まった法具が神器と一体化し、二人を包むように眩い輝きが広がった。




  満身創痍で倒れるライラ。そしてアリアンがその額を掴んでいた。

 ライラの神力がアリアンに流れ込み、アリアンは途方もない力を手に入れる。

 神力が物質化を果たし、アリアンの鎧として武器として、その身を包む。


「ライラ……お前が俺達と来なかったのは残念だ。ここでお別れにしよう……む?」


  突然の発光、そして膨大な神力の高まりを感じた。

 その光から出てきたのは……気を失ったシアレナを抱いたウォルクであった。


 ウォルクは自我を取り戻していた。それだけではない。辺り一帯を包むかのような神力を、完璧に制御している。


「ごめんな、シアレナ。そしてライラ。もう大丈夫だ」


  優しく、シアレナを大地に横たえ、傍に浮かぶ神器を手に取る。


神器エストレヴァル……いや、神装法真剣エストレヴァル・ルーメナス。やるぞ!」


  柄元には、装具と法具が二輪の瞳のように輝いていた。

 振るう刃は、夜闇を裂く希望の光を放っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ