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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
神話時代 (神韻残響80)
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2-12.地上の決着

  ウォルクは雄叫びを上げながら、正面に立ちはだかる巨躯へと突進した。

 神器エストレヴァルが、その刃に宿る神力に応じて低く唸る。

 迸る光が形を成し、幾重にも重なった発光の刃が、一気にゼアライスへと襲いかかった。


「うぉぉぉッ!!」


  刃の雨は暴風のように押し寄せる。

 しかし、ゼアライスは微動だにせず、足運び手裁きでそれをいなした。

 まるで死線を何度も越えてきた者だけが持つ、無駄のない動き。

 その瞳は、目の前の猛攻をただの戯れとでも言うように冷めていた。


「良いぞ……だが!」


  次の瞬間、ウォルクの懐に踏み込み、拳を放つ。

 空気が悲鳴を上げ、ゼアライスの拳がウォルクの顔を捕らえた。

 衝撃で視界が揺らぎ、ウォルクの体は錐揉みしながら建物を一つ、二つと突き抜け、瓦礫を巻き上げて転がった。


「……っぐ!」


  肺が焼けるように痛む。

 だが、ウォルクは歯を食いしばり、顔を振って立ち上がった。

 昔の自分なら、あの一撃で意識を失っていただろう。

 今、こうして踏みとどまれたのは――ライラの訓練のおかげだった。反射的に神力を全身に巡らせ、防御を間に合わせたのだ。


「こんな……強い奴が、アリアン以外に……」


  体内で神力を巡らせ、呼吸を整えながら、ウォルクはゼアライスを睨みつけた。

 その動きは、獲物を狙う獣そのもの。


 再び駆ける。

 正面から突撃すると見せかけ、建物を蹴って迂回し、屋根を駆け上る。

 高度を取った瞬間、眼下に見えたゼアライスへと渾身の振り下ろしを放った。


 しかし、その行動をゼアライスはすでに読んでいた。

 回し蹴りが鋭く放たれる。

 ウォルクは読まれたことを悟り、神器を盾のように掲げて受け止める。


「おおおッ!」

「はぁぁッ!」


 神器と拳が幾度も激突し、その衝撃波で周囲の建物が崩れ落ちていく。

 瓦礫と土煙が戦場を覆い、視界が白く霞む中――押されていたのはウォルクだった。

 神器を弾き飛ばされそうになるたび、歯を食いしばり、必死で食い下がる。


「お前みたいに才能があって、強い奴が……なんでアリアンの下についてる!」

「……才能、か」


  ゼアライスの低い声には嘲笑が混じっていた。

 次の瞬間、ウォルクの腹に重い拳がめり込み、防御ごと吹き飛ばされる。

 土煙の中で咳き込みながらも、ウォルクは必死に立ち上がった。


 ゼアライスの脳裏に、幼き日の記憶が過る。

 アークライト一族に生まれながら、彼は始祖の才を一切受け継がなかった。

 一族の中で最底辺――そう評されるほどの力しかなかった。


 だが、野心だけは誰にも負けなかった。


 その野心を糧に、血が滲むような鍛錬を繰り返してきた。

 唯一にして最大の才能、それは努力し続ける才能。

 それは強者を打ち倒すことでしか、自分の正しさを証明できなかった。


 アリアンが世界を征服したのち、アリアンと戦う約束をしていた。

 アリアンをも倒し、いずれは神に挑むのである。


「お前達はただの通過点だ。……終わりにしてやろう」


  ゼアライスが歩み寄る。

 ウォルクはよろめきながらも、埃にまみれた顔に笑みを浮かべた。


「へっ……カッコいいじゃねえかよ!」


  神器を構える手は震えていたが、その瞳は決して折れていない。


「だがな……色んな人たちを踏みにじって平和を奪う理由にはならねえんだよ!」


  ウォルクは背を向ける。

 その瞬間、気配を頼りに振り抜く――ライラから教わった、名もなき技。

 仮に名を付けるなら、『断絶』。


「なにっ!」


  予想外の動きに、ゼアライスの反応がわずかに遅れた。

 全身全霊を籠めた薙ぎ払いが、ゼアライスの胸を斬り飛ばす。

 衝撃の余波が大地に深い溝を刻み、その溝を境にゼアライスの上半身と下半身が分かたれ、転がった。


「……良い一撃だ……」


  荒い呼吸を繰り返すウォルク。

 力を込めすぎた反動で、もはや体が動かなかった。


 だがゼアライスは、上下に分かれた体を神力で繋ぎ合わせ、再び立ち上がる。

 その姿はまるで、何事もなかったかのようだ。


 しばし、動けないウォルクを見つめ――


「良いだろう。ここは、お前の勝ちとしてやる。このまま行け」

「……何で……」

「お前はあの一瞬、俺を超えていた。それを許すわけにはいかん。今ここで殺せば、その汚点が俺の中で永遠に残る」


  ゼアライスは完全な勝利を求める男だ。

 それが叶わぬ勝利に意味はない。そう信じていた。


 その時、空から何かが落ちてきた。

 地面に叩きつけられたのは――リューリィ。


「……そうか。リューリィも負けたか」


  ゼアライスは短く呟く。

 こうして、ゼアライスとリューリィを相手取ったウォルクたちは、辛くも勝利を掴んだのだった。




  土煙が徐々に晴れていく。

 崩れた建物の瓦礫の間から、ライラとシアレナの姿が現れた。

 ライラの額には汗が滲み、神力を多用したせいか息もやや荒い。

 その後ろで、シアレナはまだ緊張を解けない顔をしていた。


「……ウォルク!」


  真っ先に駆け寄ったのはライラだった。

 体中に打撲と裂傷を負い、神器を杖代わりにして立つウォルクの姿に、彼女の眉がきゅっと寄る。


「全く……無茶しすぎ」

「お前に言われたくねえよ……こっちだって、ギリギリだったんだ」


  笑いながらも、その声には疲労が色濃く滲んでいる。

 ライラはため息をひとつ吐くと、傷の具合を確認するため、迷いなく彼の腕を取り寄せた。

 神力による応急処置が施される間、ウォルクは視線を逸らし、少しばつの悪そうな顔をする。


「……よかった、間に合って」


  その横で、シアレナが小さく呟いた。

 彼女の瞳には安堵と……ほんのわずかな複雑さが宿っていた。

 ウォルクの無事に胸を撫で下ろす一方で、ライラが自然に彼へ手を差し伸べる様子が、心の奥をざわつかせる。


(私は……何を気にしてるの)


 そう自分に問いかけながらも、シアレナは一歩遅れて二人に近づいた。


「シアレナも……無事でよかった」

「はい。でも……もう少し頑張れたはずです。次は必ず……!」


  強く言い切る彼女に、ウォルクは少し驚き、それから力なく笑った。


「頼もしいな……なら、次は三人揃って勝とうぜ」


  その言葉に、ライラも微笑む。

 だが彼女の心の奥底では、ウォルクの体から微かに漂う神力の乱れを感じ取っていた。

 口には出さない。今はただ、戦い抜いた仲間の無事を確かめることが先だ。


 夜風が戦場を吹き抜け、血と土の匂いを運び去っていく。

 まだ、この都市の戦いは終わりではない――それを全員が理解していた。

 そして、その理解はすぐに正しかったとわかることになる。

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