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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
神話時代 (神韻残響80)
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2-11.上空の決着

  ライラが、屋根の上を駆ける。

 その身を狙うように、どこからともなく放たれた氷の矢が連続して射かけられてくるが、彼女はそれを問題にしなかった。

 純粋な体術と神術で軌道を読み、躱し、弾く。

 そして、姿なきリューリィを探し続ける。


 その後ろを、やや遅れてシアレナが追っていた。


 神力の総量では、シアレナの方が勝っている。

 だが、ついていくのが精一杯だった。

 ライラの動きは迷いがなく、まるで敵の気配を感知しているかのようだった。


(……くやしい)


 自分の中に湧き上がった感情に、シアレナは戸惑った。

 ライラは強い。それを認めていた。

 だからこそ――彼女と並ぶことのできない自分が悔しかった。

 並ぶことが出来ないと……


 とそれに考えた時に、横からの氷の矢が飛来する。

 そのときだった。

 横からの氷の矢が、突然、彼女を狙う。


 思考が逸れていたせいで、対応が一瞬遅れた。

 間に合わない。顔に直撃する――そう思った瞬間、

 冷気を纏った矢が空中で止まった。


「っと、油断しては駄目だよ」


 ライラだった。

 躊躇なく飛び込み、その手で氷の矢を掴んで止めていた。


「ご、ごめんなさい……!」


  慌てて頭を下げるシアレナ。

 ライラは微笑むと、再度展開する彼女の防御結界の中に駆け込む。


「このレベルの攻撃……本気で見えない場所から撃ってきてる。おそらく、こっちの位置は完璧に把握されている。神力を追っても、反応はまばら……探知を撹乱されてるわね」


  ライラの目が鋭くなる。

 リューリィの術は、単なる隠密や幻術ではない。あらゆる情報を遮断し、逆にこちらの姿は露わにする――

 その手際は、かつてアークライトの集落で見かけた、丁寧なだけの術の印象とはまるで違っていた。


「まさか……これほどの力を隠していたなんて……」


  ライラがそう呟いたとき、シアレナが突然前へ出た。


「私が囮になりますから! ライラさん、お願いします!」

「……!」


  ライラが言葉を発するより早く、シアレナは結界術をその場に展開し、外へと飛び出した。

 そして、ほとんど同時に――上空に巨大な氷塊が形成される。


「っ……え?」


  シアレナは、自身が囮になった直後に襲ってきた攻撃に、わずかに遅れて気づく。

 即席の結界では到底受け止められない。体勢も空中、回避も不能。

 死が視界に迫ったその瞬間、彼女の頭に浮かんだのは、ウォルクの顔だった。


(……こんなところで、終われない……!)


 だが、その願いを越えるように――ライラが再び飛び込んだ。


「よくやった、シアレナ」


  彼女の手から、雷を纏った光線が放たれる。

 その貫通力は氷塊を貫き、さらにその先――空中の“何もない”空間へと放たれた。


 そこに、微かな光の歪み。

 神力の残滓。

 そして――負傷し、姿を晒すリューリィの姿。


「……やっと見えたわね」


  ライラはシアレナを抱え、地に落ちる氷塊を避けて屋根の上に着地する。

 氷塊は地上の建物群を砕き、轟音を響かせた。


「まさか、あんな場所に……姿を消して浮いていたなんて、誰が思うかしら」


  狙撃地点を絞り、撃ち返した攻撃。

 ある程度の偶然が重なったにせよ、その決断は神業だった。


「また隠れられる前に、仕掛けるよ!」

「はいっ!」


  ライラは足に神力を集中させ、一気に跳躍する。

 それを迎え撃つように、リューリィが術を放つ。


 空から氷の矢の雨が形成され、空気を凍らせる。

 本来であれば、そのすべてがライラを貫き、凍らせ、砕く術式。

 だが、それは届かなかった。


 ――シアレナの結界術が、すべてを防いでいた。


「……やるね」


  リューリィが、小さく感嘆する。


 遠隔で放たれた結界術。しかも、連続する多重の氷矢を正確に防御しきった。

 ウォルクばかりが注目されがちだが、やはりこの少女も“勇者”のひとりなのだ。


「リューリィ、もう終わらせる!」


  ライラが叫ぶ。

 そこには怒りではなく、決意があった。


「……貴方は真っ直ぐすぎるのよ」


  リューリィの中で、かつての記憶が過る。

 アリアンに次ぐ才能を持ち、正しさを貫こうとした少女――ライラ。

 眩しくて、まっすぐで、だからこそ興味を持てなかった。


「……だから、私は貴方を見ていられなかったのよ」


 防御の構えを取る。

 だが、ライラの突進はそれをあっさりと崩す。


 空中で一瞬、リューリィの目の前にライラの顔が現れる。


「歯を食いしばりなさい――お仕置きよ!」


  神力を籠めた拳が、リューリィの顎に直撃する。


 爆発のような音と共に、その身体は弾き飛ばされ、地へと落ちていく。


 その一撃には、怒りも、焦りもなかった。

 ただ、仲間を傷つけた者として。

 そして、かつて同じ一族として生きた者への、真っ直ぐな“覚悟”だけが籠められていた。


 夜空の歪みが消え、静寂が戻る。


 ――だが、その下では、もう一つの戦いが続いていた。

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