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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
神話時代 (神韻残響80)
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2-10.決意の少女

  三人の快進撃は止まることなく続いた。

 彼らが次々と都市を解放していく様は、まるで神話そのもののようだった。

 民衆は勇者の凱旋に沸き、かつて失った都市が取り戻されるごとに、かすかな希望を信じるようになっていた。


 そして、ついに残されたのは――最初に陥落したファルザーンと、アリアンたちの黒の居城のみとなった。


 数ヶ月前、惨敗を喫した時点まで、彼らは力と覚悟をもって辿り着いたのだった。


 だが、ライラとシアレナの心には、ずっと燻るものがあった。


「……なぜ、アリアンたちは姿を見せないのか」


  神力探知を試み、世界全域に目を配ったこともあった。

 解放した都市に再襲撃の気配はなく、魔物の分布にも異常な偏りは見られなかった。

 唯一不可解なのは――魔王の居城を覆う“結界”の存在だけだった。


 その中に何があるのか。あるいは、何が生まれつつあるのか――。

 それを知る術はなかった。


「悩んでもしょうがねえ。だったら、こっちから乗り込んでやろうぜ」


 そう言って笑うウォルクに、シアレナは苦笑いを浮かべた。

 彼の言葉は頼もしく、眩しく映る。……けれど、それだけに、ライラといる時の彼が、どこか遠く感じられてしまうのが悔しかった。


 


  三人は話し合いの末、まずはファルザーンの奪還を決める。

 現時点での彼らの力――ウォルクとシアレナは、かつてのライラを超えていた。

 ライラもまた、神力こそ未回復のままだが、経験と戦術眼で彼らに追随する力を備えていた。


 そして、装具《エーメルの円環》の恩恵による急成長が、三人に自信と希望を与えていた。


 アリアンが以前より強くなっている可能性を考えても、十分に勝てる算段だ。


「準備は良いな?」

「ええ!」

「問題無い」

「じゃあ、突撃ぃ!」


  ファルザーンの空が裂けた。ウォルクが神力を爆発させ、跳躍して広場へと着地する。

 轟音と共に地面が砕け、埃が舞い上がった。

 直後、空間跳躍によりライラとシアレナもその後ろに現れる。


「魔物が……居ない?」

「……静か、ですね」


  これまでであれば、周囲の警戒魔物たちが一斉に押し寄せてきた。だが、今回は違った。

 まるで、都市そのものが眠っているかのような静寂があった。


「おかしい……気をつけて!」


 警戒している三人の前に、空間跳躍の歪みが現れる。

 出現したのは――ゼアライス。そして、リューリィ。

 これまで全く姿を現さなかった魔王軍が、遂に現れたのだ。


「ようやく……”刈り取る”程度になったな。勇者ども」


 ゼアライスのつぶやきに、ウォルクが声を荒げた。


「アリアンはどこだ!」

「ああ。あいつは、“目的”を果たしに向かったよ」


  その答えに、シアレナの背筋が凍る。

 彼女は即座に神力探知を発動し、世界全域へと意識を飛ばす。


 その瞳に映ったのは、解放したはずの都市から立ち昇る炎。闊歩する魔物たち。そして、混乱と絶望。


「ありえない……。あれだけの都市群を、たった数日で……」

「襲撃したのは“今”じゃないよ。お前たちが都市を解放して、去った後だ。じっくり、丁寧にね」


 リューリィの声音は冷ややかだった。

 その口元には、わずかに笑みが浮かんでいる。


「でも……数日前に、世界の様子を確認したときには、そんな痕跡はなかったはず……」

「以前見せた私の幻にお前達が掛かったのを、もう忘れたのか?」

「……!」


  シアレナは理解する。

 リューリィは、都市そのものに幻影をかけていたのだ。外から見れば平穏そのもの――だが、実際には何が起きていたのか、誰にもわからなかった。


 全世界に、それを同時に。

 リューリィの真の力が、ようやく顕になった瞬間だった。


「どうする?」

「一旦、戻りたい所だけどね……」

「素直に逃がしてくれそうにありませんよね……」


  ゼアライスは神力を高め、無防備に近寄ってくる。リューリィは後ろに控えていた。

 ライラが判断する。


「ウォルクはゼアライスを抑えて! 私とシアレナでリューリィを倒す!」

「了解!」

「気をつけて! ウォルク、油断しちゃ駄目よ!」


  ウォルクは、神器エストレヴァルにありったけの神力を籠める。

 ゼアライスは多数の兵を相手に戦い、そのすべてに勝っている。油断できる相手では無かった。

 その為の初手全力。

 神器エストレヴァルは呼応し輝きだした。

 空間を切り裂くかのような刃に、ゼアライスは危険を感じて回避する。

 狙い通り、二人の分断に成功する。

 ウォルクは雄叫びを上げながらゼアライスに立ち向かった。



  その間に、ライラとシアレナはリューリィへと迫る。

 初めて戦う相手で、どう戦ういう戦い方をするのか分からない。


「遠距離で様子見!」

「はい!」


  ライラの雷がリューリィを貫き、シアレナの風刃が胴を薙いだ。

 リューリィの姿が揺らぎ、何も無かったようにそのまま立っている。


「これも幻!?」

「正解よ」


  直後、無数の氷杭が空から降り注ぐ。

 瞬時に防壁を展開するシアレナ。

 その中へ、ライラも飛び込む。

 激しい氷の嵐が、防壁を叩きつける音が響き渡る。


「こんな攻撃……どこから来てるの?」

「幻はともかく、この精密な攻撃は、確実に“本物”。きっと……どこかに“いる”」


  ライラは素早く辺りを見回した。

 物陰、建物の窓、背の高い建物の屋上。

 そのどこにも人影すら見当たらない。


「探知隠蔽は向こうが上手。直接探し出す!」

「分かりました! 合図ください!」

「いくわよ!」


  ライラの全周に走る電撃が、瞬間的に氷の嵐を吹き飛ばす。

 その隙に、シアレナが防壁を解き、空間を駆け出した。

 どこかに潜む、リューリィを見つけ出すために――。


 シアレナの胸の奥には、不安と、焦燥と、そしてひとつの“嫉妬”があった。


 ライラと肩を並べるウォルク。戦いの中で信頼を築いていく二人。

 彼女には、割って入るすべもなかった。けれど、戦う今だけは――誰にも負けたくなかった。


「必ず見つける……!」


 少女の小さな声が、都市に響いた。

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