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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
神話時代 (神韻残響80)
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2-8.勇者へ送られる希望

  魔王アリアンの勢力は、いまだ衰えることを知らなかった。

 その“軍勢”は、軍と呼ぶには不自然なものだった。

 構成のほとんどを魔物が占めており、戦略的にも戦術的にも人間とは異なる動きを見せていた。

 だが、恐るべきはその数でも、異形の兵たちでもない。


 ――アリアン、ゼアライス、リューリィ。


 このたった三人こそが、実質的な“魔王軍”の全てであった。


 そんな中、都市ウェルザルトに再び王や代表者たちが集められ、対策会議が開かれていた。

 半数以上の都市がすでに占領されているというのに、参加者の数は思ったほど減っていなかった。


 その理由は明白だった。

 アリアンは、都市の支配者を殺すことを目的とはしていなかった。

 戦いに敗れた者たちは、多くの場合、命を奪われるのではなく、ただ“追放”されるだけで済んでいた。


 だが、それは“力なき王”に限った話だ。

 実力者や最後まで抗った者は、例外なく殺されていた。


 この話し合いも、もう何度目だろうか?

 様々な手段や攻勢が考えられ、試されてきたが、どれも効果を上げてはいない。


「……静粛に!」


 会議を取りまとめたのは、ウェルザルト一族の現代表、アミュシア・ウェルザルトだった。

 彼女は老齢の神官でありながら、政治と祈祷の双方に通じた人格者として知られ、多くの王や代表者から厚い信頼を集めていた。


「初動で多くの兵を失い、以後、まともな反撃すらできませんでした。しかし、ようやく……我が一族の子、ウォルクとシアレナが全快しました。これでようやく、再び攻勢を検討できます」


  会場にざわめきが走る。


「だが……彼らはすでに一度、アリアンに敗れているはずだ。再び戦ったところで、結果は同じではないか?」


  誰かが、恐れていた疑問を口にする。

 それは会議に集った全員が、心のどこかで思っていたことだった。

 ウォルクとシアレナがどう戦ったかは既に聴収されている。

 確かに彼らは善戦した。だが、アリアンの力はそれを凌駕していた。


「今回は、彼らだけを送り出すのではありません。――ライラ嬢にも同行をお願いするつもりです」


  再び場が大きくざわめいた。


 ライラ・アークライト。

 アリアンと一騎打ちし、生き延びた唯一の存在。今やその名は、各都市の希望と畏敬の象徴となっていた。


「我々の計画は、単なる再戦ではありません。彼ら三人は、魔王の居城へ直接向かうのではなく、占領された都市をひとつずつ解放しながら進軍します。敵の戦力を分断し、確実に地盤を固めてから本丸へと迫る戦術です」


 もはや正面からの衝突では勝てない。それは、過去の経験が証明していた。

 ならば、戦線を削りながら進軍するしかない――三人を矢面に立たせることは苦渋の選択だったが、もはや他に道はなかった。

 前回のように再び兵士を壊滅されては、もう立て直しのしようがないのである。




  一方その頃、ウォルクとシアレナ、そしてライラの三人は、与えられた広間で出発の準備を進めていた。


 といっても、彼らのような存在にとって、旅の支度に大掛かりな準備は不要だった。

 神力さえあれば、食料や寝床すらその場で創造できる。だが、遠征が長期化すれば消耗も免れない。

 少しでも負担を減らすため、最低限の備えは持参することにしていた。


「二人とも、準備はいい?」


  ベルトを締め直しながら、ライラが振り返る。


「ええ、いつでも大丈夫よ」

「こっちも万全だ。……でも、ライラこそ平気なのか? 神力、まだ完全には戻ってないんだろ?」


  ウォルクの心配は的を射ていた。

 ライラの体調は回復していたが、神力の回復は遅れていた。今の状態では、かつての半分にも満たない。


「それでも、あなたたちよりは強いつもりよ」


  ライラは微笑みながら言い切った。

 実際、体力と神力が戻りきっていない状態にもかかわらず、模擬戦では二人に圧勝し、いまでは事実上の“師範役”となっていた。


「アリアンと対峙するまでには、完全に戻すわ」


  その言葉には、決意と責任感が宿っていた。


 そのときだった。

 静かな広間に、ふいに“人のような者”が現れた。


「なっ……!?」


  即座に反応したのは、ライラただ一人。

 その者は、手のひらをゆっくりと上げて見せた。


「……待て。敵意はない」


  遅れて構えたウォルクとシアレナも、その言葉に攻撃の手を止める。

 ライラが一歩前へ出た。


「……あなた、何者?」

「神の使いです。お前たちに“与えるもの”があって来ました」


  神の使い?

 神やそのみ使いの存在自体は知られている。だが、神の使いに会ったの事があるのはごく少数であった。神に至っては恐らく誰もあったことが無い。

 神官でもあるアミュシアであれば、あったことがあるかもしれない。

 だが、目の前のこれを待たせたまま聞きに行くわけにもいかなかった。


 三人は目配せを交わし、ひとまずその存在を“神の使い”として扱うことに決め、跪いて頭を垂れた。


「……神の御使いよ、我らに授けられるものとは?」


  神の使いは、手元に光を集めると、三つの品を現出させた。


「――一つ、『エーメルの円環』。仲間の成長速度を高める装具。

 二つ、『ミーネの呼輪』。癒しの術を増幅させる法具。

 そして三つ、『エストレヴァル』。神力を純粋な斬撃力へと転換する剣」


  ウォルクとシアレナの顔に喜びが広がる。


 神より与えられし神器。

 これこそが、魔王を打倒する鍵となるに違いない――。


 だが、ライラの眉間には皺が寄っていた。


「……神の使いに、一つお聞きしても?」

「許そう」

「アリアンの強さは、私たち三人が束になっても届かぬほどのもの。なのに神は、なぜ直接手を下されないのでしょうか?」


  その問いに、神の使いは長く黙した。

 何を考えているのか、白人形のような表情からは何も掴むことはできない。

 やがて、ゆっくりと口を開いた。


「これは……原罪に基づく、神の定めだ。

 この世界は、確かに我らが創った。だが、この世界は“人のもの”。

 ゆえに、人の手で問題を乗り越えねばならぬ。――それが、この世界に課せられた法なのだ」


 その言葉を最後に、神の使いの姿は、霧のように消えていった。


 あとには、三つの神器と、静まり返った空間だけが残された。


「……もう、これ以上、神は手を貸してくれないのね」


  ライラは呟いた。

 そして、そっと残された神器に手を伸ばす。


「……さて、誰がどれを持つか。考えましょうか」

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