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仮定世界のログキーパー -仮定世界創造神録ー  作者: 田園風景
神話時代 (神韻残響80)
23/67

2-6.世界に刻む名

  黒の居城――その玉座の間は、いまや戦場と化していた。

 魔王アリアンの創り出したこの広間は、重厚で威厳に満ちた造りだったが、その神聖さは激しい戦いによって徐々に崩されつつあった。


 ウォルクは神力を全身に巡らせ、身体能力を極限まで高めていた。

 その拳は山肌すら削るほどの破壊力を持ち、足元を蹴れば空すら駆ける。

 一方のシアレナは、その神力を精密な防壁へと変換し、敵の攻撃を防ぎ、同時にウォルクの動きと力を強化していた。


 二人の力は単体でも強大であり、それが連携したときの攻撃は、まさに一つの術式のような美しさと破壊力を帯びていた。

 だが――アリアンはそのすべてをかわし、逸らしていた。


 そして、ウォルクの動きに一瞬の隙が生じた刹那、アリアンの光弾が直撃する。


「ウォルク!」

「ぐわぁぁ!!」


  壁へと叩きつけられるウォルク。その衝撃は石壁を砕き、残響が広間に轟いた。

 叫ぶシアレナに向かって、アリアンは火炎球を生み出して投げつける。

 防壁を最大強化してなんとか耐えるシアレナだったが、アリアンが指を鳴らすと、火炎球が爆ぜ、火の奔流が広間を覆い尽くした。


「くっ……!」


  その余波に耐え切れず、シアレナの障壁は砕け、炎と衝撃によって吹き飛ばされる。


「どうした? お前たちの神力は、たったそれだけか?」


  アリアンの声は冷たく、挑発的だった。


「くそっ……これぐらいで、負けるかあっ!」


  立ち上がったウォルクが神力を炎へと変え、拳を振るい火弾を連打する。

 それに呼応して、シアレナも真空刃を次々に撃ち出し、二重三重の波状攻撃を仕掛ける。


 しかし、アリアンが展開した半透明の障壁が、すべての攻撃を受け止めていた。


「ならば、これはどうっ!」


  シアレナは、真空刃に加えて破壊の波動を放つ。

 限界を超える出力での強行であったが、それでも彼女はアリアンを倒すために力を振り絞った。


「ふ、それなりにやるではないか」


  ついに、アリアンの障壁に亀裂が入る――そして、砕けた。

 だが、アリアンはそれすら計算済みであったかのように動いた。


「しまっ……!」


  二人が攻撃に神力を傾けすぎて反応出来なかった。

 アリアンが駆け出し、間合いを詰める。

 振るわれた拳がウォルクの腹部に、そしてシアレナの側頭部に同時に炸裂した。


 激しい衝撃と共に、二人は並んで吹き飛ばされ、壁へと叩きつけられる。


「がはっ!」

「きゃぁ!」


  傷つき、倒れる二人。

 しかし、その表情に絶望はなかった。


「……十分、時間は稼げた……」


  ウォルクが呟く。

 この戦いの目的はアリアンの打倒だけではなかった。

 都市の奪還――そのために、アリアンたち三人をここへ引き留め、足止めすること。

 戦局の主軸は、同時進行で行われる都市攻略部隊にあった。


 アリアンも、その様子に気づいた。


「……その余裕……何か、仕掛けたか?」


  応えるウォルクの声には、静かな勝利の響きがあった。


「都市は奪還された。あとは、お前たちを囲むだけだ」


  だが、アリアンは小さく笑った。


「……それなら、もう終わっているよ」

「……終わってる……?」

「当然予測済みだ。都市の奪還があることくらい。だから、対処もしておいた」

「まさか……四人目の協力者がいたのか!?」

「違うさ。俺たち三人だけだ」


  そのとき――玉座に座ったまま動かなかったのゼアライスの姿が、音もなく揺らぎ、かき消えた。

 残されていたのは、リューリィのみ。


「……幻影……だったの!?」


  シアレナの目が見開かれる。

 確かに彼女自身が神力で探知をしていた。強大な三つの気配は、間違いなくこの城にあったはず――なのに。


「探知の精度は悪くなかったわ。けれど……幻影を見破るには足りなかった。そんな探知探査で、私の幻影は見破れない」


  リューリィの声は、あくまで静かで冷たい。


「ゼアライスは最初から、都市の防衛に送っていたの。君たちがここで時間を稼いでいる間に……彼が全てを片付けている」

「そ、そんな……!」

「それでは――“勇者”たちよ。さらばだ」


  アリアンが高めていた神力を、業火へと変え、二人に向けて放つ。

 全てを焼き尽くす炎が、玉座の間を覆い――だが、その刹那。

 一人の女性が、その前に現れた。


「……ライラ!」


  アリアンの声に、ほんのわずかな動揺が混じる。


「私は……きっと、あなたを止めてみせる!」


  ライラの手が神術を発動し、空間が揺らぐ。

 次の瞬間、彼女とウォルク、シアレナの姿はその場から消えていた。

 誰もいない床を、灼熱の炎が舐め、焼き焦がす。

 魔王の居城には、再び静寂が戻っていた。




  ライラがウォルクとシアレナを転移させた先は、人気のない荒野だった。

 都市などに転移すれば、アリアンにすぐに追跡される危険があったため、場所は無作為に選ばれた。


 荒れ果てた岩地に着地したライラは、すぐに二人の状態を確認する。

 致命傷ではない。神術による治癒で、彼らは再び立ち上がることができるだろう。


 けれど――ライラの胸中には、重たい問いが渦巻いていた。


「アリアン……あなたを止めるには、いったいどうすれば……?」




  その頃。

 アリアンは一人、崩れかけた玉座の間に立っていた。


「意外と……手間取ったんだ」

「ああ。思った以上に戦えた奴らだったよ」


  その声に応えるように、リューリィが微笑む。

 確かに勝利はした。だが、彼らの攻撃はアリアンにとって無視できるものではなかった。

 もし彼らが今後、さらに力を増すとしたら――それは本物の障害になるだろう。


 だが、それもまた“魔王”としての証なのかもしれない。


「……勇者がいるなら、魔王はなおさら輝く。そんな話が『知識の蔵』にあったな」


  かつて読んだ神話の断片が、記憶に蘇る。


 ならば――あの二人が生きているのも、また“必要”なことなのだ。

 この障害は、アークライトがより輝くために必要かもしれない。




  そして――


 都市奪還を試みた戦士たちは、ただ一人、配置されていたゼアライスによって全滅した。

 その報が各都市に伝わったとき、人々の心に走ったのは、衝撃と、そして絶望だった。


 魔王アリアン。

 その名は、世界に確かに刻まれた。

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